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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 5P

ノアの意趣通り、一人は銃に怯えるのだが逃げかえろうとはしない。どうやら最後の一人になっても戦う意思があると見える。だが、なにやらくぐもった声が聞こえた。ランディの相手をしているもう一人が、ほぼ全滅したことアジトへ報告しろと言う旨の指示を出したらしい。


後去り、まだその指示を認めようとしない盗賊団員は、尚も食い下がっていたのだが、「行けえええええ!」と言う大きな声から触発され、居住まいを正すと回れ右して走り去って行く。


満足そうな一人残った盗賊をランディはさして気にすることもなく、首元へナイフを突き立てて沈黙させる。これで作戦はもう一段階進んだ。次へ順調に歩を進めれば、ほぼ勝利は確定となる。当然ながら全てが計算通りに行けばの話ではあるけれども。


ランディが動き始めたので同じく場所を変える為に動き始めた、ノア。


「さて、俺も頑張ったよ。次はルーへ一旦、バトンタッチだ」


手元に目をやりながらぼそりと呟くノアの目には戸惑いがもうない。


                  *


三人目のルーはと言うと現在、蝶番で二つ折りに出来る梯子を肩紐で吊り、脇に抱えながら走っている最中であった。三人の中でも割と地味で体力を使う。今回の作戦内では雑用の仕事に近い役割が、例えるならば、今の黒い外套を羽織った格好に似合うまるで歌舞伎や文楽の黒子のような働きが大多数を占める。勿論、戦闘と言う大舞台に上がらないだけであって救出の任務では大きな柱だ。


「さてと、先ずは一つ目が片付いた……次は二人が目立っている内に―――― 僕が人質救出って段取り――」


軽く息を切らしつつも足が止まらない。重いけれども梯子は手放さない。辺り一帯をきょろきょろと見渡し、索敵も力を抜かない。


「梯子が重い…………」


呑気なことを言いつつもルーは一度、町の南西から西へ向かい、アジトを中心として大きな円を描くかのように通最短ルートと迂回ルートの両方を使い、なるべく目立たないように動いていた。今は、町の西側から北西を目指して動いている最中。最後までルーがランディとノアの様子を見ることはなかったけれどもあれだけ大きかった騒ぎが収束していることで成功したと確信を持っている。


「兎に角、僕が本題を完遂しない―― ことには話が終わらない…………」


使命感に背中を押され、前へ進むルー。距離は段々と近づいている。


でも焦ると事を仕損じてしまう。


まあ、その苦労に見合う分の結果が待っているのだから文句など、到底言えるわけがない。


戦場から離れた町は異様な静けさで満たされていた。


物音は、ルーの極力潜めた砂地を踏む時に出る足音と風の音だけしか聞こえない。


何故ならそれは盗賊たちが通るであろう、アジトから町役場や広場へと向かう北西の通りを避けているからだ。時間がかかるのだが、見つかる可能性が低いルートを通るのは当然。


ましてや、梯子などと言う荷物もあるのだから尚更のこと警戒をするべきであった。


「絶対に―― 失敗、出来ない―― 皆を助け…………ないと」


真っ直ぐ、道を走り続けるルー。頭の中では、何回もシュミレートしたルートが過ぎる。今、頑張っているのは全て自分自身の為。ルーがやりたいと思ったからやっている。ランディにも言った義務と権利が己にも生きているのだから当然のことだ。目標が定まっているのならば、怖いことは何もない。その目標に向かって一心不乱に取り組めば、済むのだから。


ルーには今現在、迷いと言う物がないに等しい。理由はノアみたく、切迫した状況に追い込まれていないことも加味されるけれども大事の前の小事と言う言葉を弁えているからだ。そして自分とは関係ない盗賊に対して理解する努力も互いに飼い馴らし合うこともしなかった。


ランディみたく、甘い顔は一切見せない。その感情に惑わされない姿勢はこれまで培ってきた経験から来るものだ。例えば、それはランディが曲がりなりにも秩序を司る場所にいて正と義を重んじるようになったこと。はたまた、ノアの日常生活から命が言う物を何よりも一番と考えるように。ルーにも二人とは違った考え方を持っている。市井の人間は何よりも生に対して貪欲であること。それぞれが違って当たり前のことだ。


だからもし、彼らを殺せと言われたのならば、ルーは行動に移すだろう。


失敗すれば、回り回ってしわ寄せが全て来る。損得だけでなく、心が折れてしまうほどの悲しみも苦しみ全てだ。何が楽しくてそのような苦行を受け入れねばならないのか。


「僕は……絶対、認めないよ」


この三日間の中で一番の輝きを見せる太陽を隣にルーは走り、続ける。この静けさだけが支配する通りを活気づいた元の街並みに戻すため。こうしている間も時は進み続ける。


光が入る明るい真っ直ぐの道から角を右へ曲がり、薄暗い小道に入る。当然、誰もいないか確認した。大体、既に三分の二は稼いでいる。ほぼ、時間通りに行動も出来ていた。


計画通りなのは良い。しかし、それでも不安が嫌でも付いて来る。これまでの動きで何かミスはなかったか、思わぬ、伏兵が存在するのではないか、ランディとノアのどちらかが戦闘不能に陥り、作戦の続行が不可能になったなど、要素は満載。


はじめからこの作戦は無謀であったことは、ルーも重々理解していた。


幾ら強くともランディが何処まで出来るか分からないし、半分賭けで来ているようなものだ。


でも残念ながら世の中には完璧に保証されているものはない。しかも、安全だと信じ切ってきたことでさえも時折、揺らぐこともある。ならば、今の緊張感を持って挑んだ方が油断なく思わぬ所で足を掬われることもない。ましてや、町民を飼い馴らしたつもりでいるこの期を逃す手はない。様々な気がかりを抱えながらルーが小道を抜けると、目の前には目的地が遠目に見えた。ルーからは建物の裏手が見える。窓はなく、仲の様子を窺うことは出来ない。


煤けてボロボロの外壁がぼうっと立って見えるだけだ。


ルーにとってはまるで何時壊れても可笑しくない砂上の楼閣な印象を与えた。


此処からはゆっくりと物音を立てないように歩くことを心掛ける。


一度、立ち止って思い出したかのように腰のベルトに固定していたナイフを抜き、臨戦態勢を整えた。右手でナイフを持ち、転がして感触を確かめ、刃の状態を見た後、またもや足を進める。やはり、音は何も聞こえない。自分の息遣いだけだ。


「これ、終わったら寝る。温かくて砂糖とミルクを沢山入れた紅茶を飲んで寝る」


まるで見当違いなことをぼそぼそと呟き、頭の中を空っぽにして迷いを消しさる。


足が妙に重い。頭もぼーっとする。


「うぇぇぇ、気持ち悪い……」


腹を擦り、ストレスから来るむかつきを抑え込む。ルーは喉に少し焦げ付くような痛みを感じた。通りの端を歩きながらもう一つ通りを挟んで建物を沿うように動く。一定の距離を保ちつつ、目的の場所へ近づくにつれて間を詰めて行った。ルーの目的地は人質が集められている部屋だ。


ルーは盗賊団のアジトとして使われている建物の内装を知っている。何故なら幼少期にはまだ、飲み屋として機能をしていたから町の付き合いで入ることもあった。現在は時々、人の住んでいない建物の老朽化を調べる為に大工と一緒に入ることもある。


「二階建てで下は大きな客席が一つと奥にちょっとした厨房がある。二階は三部屋。まず、一階に人質は窓から中を見る限りでは確認出来なかった。なら、そのうちの一つは人質が集められている場所。そして

昨日の偵察で広場側の部屋に二人見張りがいることは確認済みと」


限られた人員の中で凝った人員配置よりも実を取った適切な配備を取ったと見える。


最低限の動きで何よりも迅速さが求められるからだ。


ルーは目的地を目の前にして考える。もう一本通りを横切れば、第一段階は終了。


「さてさて、これからどうしたもんか……」

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