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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第漆章 第三幕
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第漆章 第三幕 13P

物影に隠れてランディはきょろきょろと辺りを見渡しながら呟く。目の前にはもう、境界が迫っており、何もなければ、偵察は終了。偵察が終わったらお腹に食べ物を入れて一眠りがしたい所だ。今日は早朝から動き続けているから体力にも限度がある。


追い詰められた状況で沢山の準備が必要であっても自分の体調が万全でなければ、全ての努力が無に帰してしまう。


「よしっ、この通りを渡って後は小さな路地を二つ通れば、あの喫茶店に付く。あそこはギリギリ範囲外だからあそこでちょっと休む。肩がガチガチで痛いし、気疲れでもう散々だ」


首を左右に振りながらランディは肩を揉む。目も半分死に掛けで身体もボロボロ。今日は『Chanter』に来て以来、一番身体を酷使した日だ。だが昨日、一昨日も含め、全てが目まぐるしく変化し、可笑しな表現かもしれないが、色鮮やかであった。半分、時が止まったようなこの町で騒乱が起き、喜怒哀楽が支配することなど、殆ど有り得ない。


それは期間が短いながらも『Chanter』での生活を体感して来たランディでさえ知っていることだ。小さな変化はあるも何処もにこやかで阿吽の呼吸で物事が進み、あたり触りのない落ち着いた雰囲気が何時までも続くと錯覚させるような。それが『Chater』と言う町だ。


「どっちが正しいかなんて一概には言えないけれども暫く忘れていたこの気持ちの揺らぎも今まで浸かりきっていた安らぎも……俺には必要なんだな。どちらか一辺倒でも良くない。今の状況を鑑みて不謹慎かもしれないけど、血が沸き立つほどの興奮を覚えていることも事実。確かに穏やかな日常はとても好きで手放したくないと常々、思う。だけど、それだけじゃあ、満たされないんだ。町に来た初日も『Pissenlit』で働き始めた初日も様々な情報が雪崩れ込んで俺は混乱の中にあった。そして今はそれらを越えて此処を自分の居場所と理解した。で、心の安心が生まれた。でもその安心だけで満足出来るほど、かまととぶっちゃあいないなあ。なんだ、思っていたほど、俺は自分を思った以上に分かっていないや――――」


己の心の内を解析して行く中でランディが見つけた新たな自分の一面、それは思っていたほど、穏やかな人間ではなかったこと。誰しも心の中では何かしらの闘争を求める。勿論、多種多様の分野の中でもそれは同じ。張合いがなければ、人の輝きはくすんでしまうに違いない。


「やれやれ、後少しでこの町ともおさらばだ。暫くは休めるだろうからぱっと息抜きでもしたいもんだ。此処の所、移動だのかなり町を襲ったから疲れたぜ……」


「確かに。俺たちが動き過ぎでそろそろ雲隠れしないと大変なことになる。王国軍も憲兵隊も馬鹿じゃない。俺たちに圧倒的なアドバンテージがあるから今の状況が作り出せるのであって実力で作り出しているのではないからな。取り敢えず、これが終わったら酒が欲しい」


「同感だ。なら、一度。皆で解散してリスクを分散するのも良いな。勿論、物資と金は山分けで……それぞれで行きたい場所もあることだろうし、何しろ、気兼ねしない。そして予め決めていた日時、時間、場所で落ち合えば、問題ないわけだし」


しかし場にそぐわないことを考えているうちに西側から声と足音が聞こえて来た。盗賊の歩哨だろう。ランディは今、隠れている廃材の影に息を潜め、壁に背中をつける。どうやら、今後の方針を話し合っているとみて間違いない。


「それは良い案だ。一度、バラバラに動いて各地での情報収集をすることも出来るし、なにより大勢で動くよりも楽だ。一度、帰ったら提案してみるのもアリだな」


「ただ、それをやるともしかすると帰って来ない奴が出るかもしれん。まあ、その場合は何も未練がなくなったのだから……素直に背中を押してやるべきなのかもな」


「そりゃあ、そうだろ。俺はだれもいなくならないことを前提に話をしてはいるけど。勿論、居なくなることはあるんだ。それはもしかしたら死別でもあるか、捕まったか、あるいは何処かで平凡で小さな幸せを見つけてしまうかもしれない。寧ろ、居場所が見つかったのならば、Dは素直に喜ぶような奴だからな―――――」


対象は二人組。仮面と茶色の外套を羽織った個性のない格好は同じ。


今、息を殺してやり過ごせば、事なきを得る。もしも見つかったのならば、今ある武器は腰に帯刀しているナイフだけ。ナイフだけでもやりようはあるが、何も起きずに通り過ぎて貰った方が憂いはない。いや、今後の作戦を遂行させる為には何が何でも見つかることは許されない。


背中に冷たい汗が流れ、ランディは静止し続ける。距離が段々と近づいて来た。


足音と心音が重なり、時間が長く感じる。ランディはギュッと目を瞑り、心臓の辺りの服を握りしめて耐える。一方、慣れた様子の歩哨二人は辺りを簡単に見渡しながら話し続けていた。


「それにしても全く……この町の住人は今までの町や村と一緒で馬鹿だ。目の前で餌をぶらさげりゃあ、簡単に食いつく。間抜け過ぎる」


「俺たちはその間、スムーズに逃走の準備が出来るって寸法だな」


ゲラゲラと下品に笑い、靴音を大きく響かせる盗賊たち。ランディは苛立ちを覚えるも歯を食いしばるだけで何もしない。此処で胆略的に動けば、全てが終わる。最後に自分が笑えればそれで良いのだと言い聞かせ、堪えた。ゆっくりとランディの居る場所を二人組が通り過ぎて行く。足音も同時に遠のいて行った。だがしかしランディの努力も次の瞬間、無駄になる。


「ほんとに馬鹿だよな――――っ! 何者だ? 素直に出て来い」


緊張を含んだ声で盗賊の一人が叫ぶ。同時に外套のはためく音がして金属が擦れる細い音が。


盗賊ではない何かが小さな物音が出したのだ。音源はランディではない。


だが、音を出した原因をつき止めるまで二人は此処を離れず、全てを調べ尽くすだろう。


しまったとランディは何か対策はないかと考えるも混乱で思うように良い案が出てこない。


「…………」


足音が戻って来る。今から動こうにも動作の音で居場所がばれる。今更、何をしようにも近づいて来た相手を片づけるしか他にない。ランディはゆっくりと腰のナイフに右手を持って行く。


「今、出てくれば酷いようにはしないぞ? さっさと出て来い」


一人が声掛けをしながらじりじりと道なりを戻る傍らでもう一人が音を殺して周囲の探索を開始。二人は特に会話をすることもなく、阿吽の呼吸で動く。よく、出来たチームワークだ。


だが此処で投降するほど、ランディも馬鹿ではない。


ぎりぎりまで粘ることが重要だ。兎に角、やり過ごしさえすれば問題ない。


「早く出て来い……煩わせるな。もし、お前が今出てこないで俺たちに見つかったのならば、人質を殺す。

状況を理解したのなら投降しろ。これが最終警告だ」


盗賊の一人が大きな樽を蹴って転がした。派手な音と共にガラクタの山が崩れる。


それでもランディは出てない。まだ、相手側はランディの居場所を特定出来ていないから。


だがしかし、距離は少しずつ削られて行く。人影がランディの上に掛かる。ランディが隠れている地点まで丁寧に調べているので近づかれたのならば、いっかんの終わり。もうやるしかないかとランディが覚悟を決め、これでお終いかと思い始めた矢先。盗賊側で状況が動いた。


「何か、あっちの方で動いたぞ! 急げっ」


「了解、了解」

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