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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第漆章 第三幕
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第漆章 第三幕 11P

「言ってなさい、貴方は必ず後悔をする。その為に俺は動きます。労働者上りの盗賊風情にはお似合いの引導を渡しましょう」


それだけ言葉を残すとランディは様々な思いの籠った多くの視線を背に受けながら扉を開けて会議室を後にした。もう聞くことは何もない。ただ、己の威信を掛けて正しいと信じる行いをするだけだ。もう、道が決まり、ランディが行動を起こす。引き返すことはあり得ない。今、ランディは燃え盛っている。遂に報復の炎は完成した。今にも目の前の敵を燃やし尽くそうと火の粉を巻き、舐めるように動き、ちょっとでも箍が外れれば、多くの怨嗟を燃料に燃え上がっていた。


「それでは俺も失礼しようかな……全く、世話の掛かる弟分を持つと大変だ。……まあ、馬鹿で間抜けだけど、あれはあれで可愛い所もあるから捨てて置けない。兄貴分って本当に損な役名ですよね――」


同じく、ヘラヘラと笑うノアもランディの後を追って会議室を出る。余計なことをのたまったが、ノアの声は晴れ晴れとしていた。結局の所、二人は何処までも似た物同士で互いに自己嫌悪しながらも認め合っている。ノアの迷いも既に消えた。共に愚行を犯す仲間が出来たのだから恐れることなどあるだろうか。いや、ない。


「本当に『Chanter』は驚かされることが多い。年甲斐もなく、心が浮ついて仕方がない。こんな気持ちは何時ぶりだろうか? 町長、本当にあなたの町は恵まれているな……将来有望な若者がいて」


「貴方に褒められることがあるとは思わなかったな。確かに彼らのような青年がこの町にいるのは本当に誇らしいことだ。時々……振り回されることはあるけれども若かりし日の自分を思い起こさせてくれる。そして同時にまだ諦めるのは早いことも痛感させられる」


「全面的に同意しよう」


二人が出た後の会議室は熱気を帯びていた。若々しいと言うべきだろうか。小手先の勝負とはまた違う、全力で相手にぶつかることを良しとする。取捨選択で諦めることを前提とした戦いではない。どれも捨て置かない我儘を通す戦いだ。


「だから私としては新たな提案をしたい。彼を我々の仲間として欲しい……だから彼を渡しさえすれば、貴方の娘も返して……」


「それ以上は言わないで貰おうか? ランディはもう立派なうちの住人だ。誰が何と言おうとね。横取りなんてさせないね。どんな条件であろうとも。そして僕は誰一人として生贄にするつもりもない。こう言うのもちょっと恥ずかしいのだが、ハッピーエンドって奴を目指すつもりなんだ。茶々を入れないでくれよ」


ブランは背もたれに大きく寄り掛かってふてぶてしい態度を取るとまるで相手にしない。

にやりと笑って今まで潜めていた余裕が此処に来てやっと復活したのだ。不安定であった今までなら露知らず、『Chanter』の真の町長が解決を目指すのならば、町の住人にこれほど、心強いものはない。それが『Chanter』なのだ。


「そうか、ならば交渉は決裂だな。では我々もそろそろ退散するとしようか……この話は彼自身に持ち掛けるべきであった。彼ならすんなりとこの要求をのんでくれるかもしれないからな」


「ふふっ……いや、それはあるまい。私の店の従業員はそんな甘言にのまれるほど、馬鹿ではない。私の目でランディが店に欲しい人材だと判断したのだ。笑わせないで貰いたい」


同じく、レザンが机に足を乗せていつもの雰囲気に似合わないやんちゃさを見せた。町の住人はまるで似合わない行動に動揺を隠せないも次第に笑いが広がって行く。


「…………失礼する」


からかわれたことを知ったDは何も反論することなく、仲間を引き連れて静かに会議室を出て行った。


しかし、これまでの皮肉は影を潜め、イラつきは隠せず、飄々とした態度が崩れ去っている。


「ちょっとやり過ぎただろうか?」


「いや、あれくらいで丁度、良いでしょう……しかしレザンさん、調子に乗るのは好い加減にして下さい。肝を冷やしました。」


「ははっ、オウルが肝を冷やすくらいだからまだまだ問題ないな」


盗賊が退散して直ぐにぽつりと呟いたレザンはオウルに窘められたが、全く反省する気はない。


「もう何も言いますまい……それとブランも、お前は! 何故、もう認めているのにそれを本人の前で言ってやらんのだ! 可哀想に……」


「だってー。好きな子には悪戯したくなるでしょ? それと同じで特別、目を掛けているランディにはどうしてもね――――」


「私としては本音を言えば、今直ぐにでもランディ所へ行き、課題を撤回させてやりたい所だが、強ち、ランディを町に早く慣れさせたいと言う点では面白い案だから無碍には出来ん……もどかしいが、今は推移を見守ると言うことしかな……」


三人が異様に盛り上がる中で他の者たちはやれやれと呆れ顔で苦笑い。


やっといつもの『Chanter』が帰って来た。


「あの新入り君も色々と大変なんだな……まあ、あの必死さとか、馬鹿正直さは俺、好きですね。今度、ゆっくりと話す時間でも作ろうかな」


「うん。ラセ君、是非ともおススメするよ。ランディと仲良くしてやってね。まあ、初対面で気恥ずかしいならルーを巻き込めば良いだけだし」


ランディの仕事初日でルーと一緒に対応した青年が話に入って来た。


「あの若造は鍛え甲斐があるからな! この前、来た時にはひょろいだけの若造かと思ったが、中々、気骨があるようだ……こりゃあ、本格的にワシも勧誘をしなけりゃならんな」


また、ランディと少しだけ面識がる大工の頭領も口を挟んだ。


「いや、タッシュさん。まあ、勧誘に関しては……」


「私が許さん」


「お前の所じゃ、あの若造は勿体ないだろ。ワシがあり難く貰い受けてやるよ」


「笑わせるな、禿。お前は抜け毛の心配だけをしとれ」


レザンは大工の頭領を歯牙にもかけない。何故なら、ランディが自分の所以外、行かないことに自信があったから。


「なんだと! お前!」


「まあまあ、何はともあれ。この事件が解決したら町全体でお祝いをしよう!」


ブランは全員の肩を叩き、それぞれが答え、共に目標の為、意識を高め合う。


「それは良い、楽しみですよ。この騒動が終わったらやりましょう」


そうだ、そうだと他の者たちも同調する。全てはやる気次第。人の思いさえあれば、幾らでも何度でも挽回が出来るのだ。そしてそれらを放棄したものに未来はない。

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