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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第漆章 第三幕
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第漆章 第三幕 10P

「それといきなりで悪いが今日の午後から其方の監視体制を解散させて頂きたい」


「なっ、なんだと!」


「オウルさん。おさえて、おさえて。先ずは理由を聞いてみないと分からない」


「すまない、突然の提言……いや要求で驚かせてしまった。私としては今の監視環境があまり好きではない。そして他の仲間たちも同じく苛立ちが溜まり、もしかすると何かの拍子で人質の誰かにあたってしまうかもしれない。お互いの為だ、容赦願いたい」


人質を逆手にとっての監視体制の解消。


遠目でもある程度、敵の情報は掴めるのだが、それさえも禁止されたのならば。もう目隠しをされて全てを盗賊に委ねていると言う最悪の状況である。もう、成す術がない。


「確かに貴方たちの苛立ちも分かるが、その要求はちょっとのむことが難しい……私たちに目隠しをし、全てを委ねろと言われても盗賊にそれだけのことをするなんてただの馬鹿ではないかね? 僕たち其処まで阿呆ではないよ」


「いやはや、これは要求だ。提言ではない、其方に反論をする余地はあるまい。人質の安全は保障している。何も文句はない筈だ」


「そう言う問題じゃあないよ。僕たちに其処まで命令をするなら僕たちも行動を起こすよ。何が楽しくて完璧に君たちの意見を聞かないといけないんだ? 当然、君たちの保障はあてにならない。所詮は盗賊だからね、肩入れする必要はあるまい」


Dの言い分にはブランも噛みついた。当然だ。


「なら交渉は決裂だな。人質は殺して町を焼き払おう、それが町長である貴方の選択だ。皆も受け入れてくるだろうな」


「ちっ! 随分と痛い所突いてくれるじゃないか……元々、選択肢がない僕たちに其処まで強いるものか……本当にエグいことをしてくれるよ。僕たちは従うしかないじゃないか」


ブランが町側の言いたいことを全て言ったので皆が一様に黙り込む。


「我々は当然のことをしているまで。前々から思ってはいたが、本当にヌルい町だ。そんなことでよくやってこれたものだと私は思う」


「あなたの個人的な意見は全く聞いていないけどねー。こっちにはこっちで色々と頑張っているから大きなお世話だよ」


「ふむ……確かに昨日、同じようなことを聞いたな――――おおっ! そうだった、そうだった。双子の子供から怒られたな。名前は何と言ったか……ああ、ルージュとヴェールと言ったか? まだ幼いのにも関わらず、しっかりとした娘たちだった」


何でもない会話な筈だが、町側の人間で緊張が走る。顔には見せないが大きな狼狽があった。そしてブランたちの狼狽さえも想定内のようにDは振る舞う。


「何か、不都合でもあったかな?」


「いや、何も? それよりも話を続けようか……取り敢えず、監視の件については保留で良いかな? こちらも突然の要求で直ぐには動けない。この交渉の最後に答えをだそうじゃないか」


「残念ながら我々も忙しいのでな。今、答えを出したい。後回しにするとあやふやなままで中途半端な答えしか出ないで話が終わってしまって意味がない。例えば、一部の見張りの撤退などと言われても困る。この際だから白黒つけておきたいのだ」


「分かった、分かった。なら其方の要求をのむことにしよう」


ブランの発言で町側の人間が顔を向け、それで良いのかと是非を問う。やりたい放題されているのだからもうこれ以上何をされても拉致されている家族たちが戻ってくればそれで良い。その本音だけが彼らを突き動かす。悲しいかな、ブランも含めてもう誰も監視体制の解消反対を願う者は誰もいない。


「ブランさん……」


「町長っ!」


「良いんだ、良いんだ。これ以上の交渉は無駄だし、やっても意味がない。別に何も人質に影響がなければ、本当にそれで良いんだから。ランディもルーも抑えてくれ」


焼け石に水だと分かっていてもランディとルーは声を掛けずには居られなかった。


「くっ……」


「分かりました」


「これで一つ、我々の問題は解決した。だが、我々ばかりが要求をいれるだけでは反感を買い過ぎて貴方たちの暴走を引き起こすかもしれない。どうだろう? こちらからもある提案をさせて貰いたい」

「ほう――――どんな提案かな?」とブランの代わりにオウルが代わりに相対する。


「……D、後で説明をお願いします」


盗賊側では小声でAが耳打ちをする中、いきなりのことで場内が騒然とする。どうやらこの提案は頭領のDだけが考えたもののようで盗賊側にもショックがあったらしい。


「その提案とやらはなんですか?」


一人だけ普段通りのランディは壁に寄り掛かって目を瞑ったまま、何ともない様子で尋ねる。まるでこの予想外な提案をも想定していたかのように。ランディの所作から動揺よりも盗賊の他、四名は明らかな敵意を集中した。ランディは腕組みをして指を叩きながらDを急かす。


「ふっ……何、簡単な話だ。此方の預かっている人質の何人かを解放しようと言うだけ。勿論、死者ではなく、生きたままでだ。町にとっては良いことだろう?」


「ただ、代替えでもっと効率的な物が見つかっただけでしょうに……」


「コメントは控えて置こう」


「もうさっきの発言で見え見えです、糞ったれ――――卑怯云々で済まされない話ですよ!」


二人だけが先へ先へと進み、一人以外は他の参加者は置いてきぼりの状況が続く。ランディは目を開き、今にもDを殺しそうな殺気を振り撒く。思わず、席に座っていた者全員が凍えるような殺気に震える。Dは真っ直ぐ、受け止めた。


「……良いんだ、ランディ。これも想定していたことだ。今は堪えておくれ、頼むよ、頼むっ」


天井に目を向けたまま、ぐっと指が白くなるほど、握りしめたブランがランディを制止した。


「何を二人で話しているかは分からないが、人数としてはそうだな……七人から十人を予定している。人選は此方でランダムに決めさせて貰おう。今日の夕方には用意が出来る。引き渡しの準備はして貰いたい。宜しいかな?」


「あい、分かった。それならば、我々の内の二、三人と護衛で五人ほど、其方に出向こう。使者は使わせて貰えるのだろうか」


「勿論。準備が出来次第、此方から使者を出そう」


良い提案にも関わらず、釈然としない町民一同。Dの言動から薄々と勘付いてしまったのか、あるいはランディの失言を止めたブランのあり様を見てか、理解のきっかけはそれぞれだろう。


「了解した。ならば、こちらも直ぐに用意をしよう。ルー君、済まないけど伝達の方を頼めるかな? 先ずは混乱を避けるため、此処にいる職員だけに頼むよ。護衛は後で選出するからその時までは絶対に極秘でと念押しをするように」


「分かりました。では行って来ます」


ブランに仕事を依頼されたルーは出て行った。


「さてと……他に議題はと言うと、特にはないのだけど」


「我々の方でも特にない。強いて言うのならば、『Chanter』にきちんと義務を遂行するよう念押しをするだけだ。我々はただ、人質を取っているだけではない。此方には何せ、町長の令嬢二人がいるのだからな。間違っても反攻作戦などと無謀なことは努々、考えないで頂きたい」


「やはり、それか……最後まで筋を通すことがない盗賊に似合う愚行だ。後々の恨み、心しておけ。私、いや、この町の者全員を敵にしたことは必ず、後悔して貰う」


立ち上がったレザンが静かな怒りを込めて苦し紛れの捨て台詞を吐く。今まで決して感情を露わにすることがなかった、レザンでさえも堪忍袋の緒が切れたのだ。


「負け犬の遠吠えを聞いて我々が慄くとでも? 御老体、何度も言っているが甘い考えは捨てたまえ。端からこちらは対等な交渉などと言う寝言は頭にない」


それでも態度を変えず、Dは新たに燃料を投入して行く。仮面の下にあるのは狂気か、はたまたそれとも別の思想か、常人では理解しがたい別の通りが盗賊たちの中で動いているのだった。


「ならば、貴方がたには――――俺を敵にしたことを後悔して貰いましょう」


その時、不意に真っ黒で人殺しの目をしたランディが大きく口を開けた。


「はははははっ! 確かに君を敵に回したことは少し後悔している。この町には似合わない残酷な人間だからな。昨日の件で良く分かった、君は人を殺すことに何の戸惑いもない。ふふっ、自身の筋を通す為ならば、我々を抹殺出来るかもしれん……だが、君には出来るかな? 平和ボケしたこの町に毒されている君に」

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