第漆章 第三幕 7P
ランディが頼んだ物資を諳んじる。あまり数はないからそれほど、難しくはなかったと記憶にはあった。時間を見つけて探せばある物が殆どだ。
「うん、それと望遠鏡ね」
髪の毛を掻き分けてメモ帳のページを何枚か捲り、頼まれた物資の確認をするルー。
「まあ、役場の仕事だのなんだのと色々、理由を付けて掻き集めて来たよ。松明とか、ナイフは普通手に入らない物は一応、役場に集められていた中から失敬したり、外套と厚紙は態々買ったからそれぞれお金を払ってね」
守銭奴ではないもそれなりに高かったのか思った以上に費用が掛かったらしい。ルー一人で三人の費用を分担するのもそれは可笑しな話である。
「勿論、幾らだい?」
「えっ、それは俺も払わないと駄目?」
ランディがノアへ金を支払っている間に空気を読まないノアが碌でもないことをのたまう。
「お金、払わないならコートでも白衣来てでも良いですが……相手からとっても目立ちます。しかも防寒用の服は伸縮性がないから動きが制限されたりと大変です。第一、頭巾と布で隠さないと顔も見られちゃいますし。人質を救出しても失敗して何人か、盗賊を逃したら報復が来ますよ。それでも良いですか? 別に俺は貴方が死のうが生きようがどうでも良いのですけど。今の内にお別れの言葉を言った方が良いですかね」
しかし、それを皮肉で切り返すランディ。
「面倒臭いので僕はノーコメントです」とルーは特に発言がないとだんまりを決め込む。
「かああああ! この糞ガキッ!」
ランディから散々、言われ、渋々、自らの財布から金を取り出し、ルーに代金を支払うノア。
「まあまあ、気を取り直して。ランディも悪気があって言っている訳じゃないですし……ねぇ?」
金を受け取りながらルーがフォローを入れる。ランディとノアはどちらも捻くれ者で何処か、似ていた。同族嫌悪と言うべきか、まだまだそれなりの交友関係を結ぶには時間が掛かるようだ。まあ、それも人間の面白い所であるのは否定しない。色々な人間がいるからこそ、人の社会は面白みがあるからだ。同じような人間しかいなければ、詰まらない。
「ずっと思ってたけど……度々、俺が蚊帳の外なのは何かあるのかい……関係するんだからそろそろ、俺も話の本題に触れたいのだけどな。ルーは大体のことをランディから聞いているのだろうけど、俺は今までの話を聞いていても全く何のことやら分からない。下準備なのは理解しているのだけど、それらが全部、どう繋がって行くのかが見えないんだよ」
「済みません。確かにそれは俺の落ち度ですね。後の盗賊に関する最新情報の収集は作戦内容を交えながら聞こう。ルーもそれで良いかい?」
「うん、異論なし。僕も全体の簡単な流れくらいしか聞いてないからね。擦り合わせがしたいと思っていた所だよ。最新情報もそれなりの物で今更、驚きの真事実なんて物はないから」
二人の同意を得てランディは椅子から立ち上がると、ベッド付近でいったり、来たりを始める。どう説明すべきかを頭で整理しているのだ。説明は簡潔で伝わり易くなければならない。
「じゃあ、ノアさんもいることだし。全体の流れからもう一度、おさらいを始めよう。決行の日は四日目の夜明け前。つまりは後、一日もない。とってもギリギリです」
段取りが纏まったランディは立ち止り、話を始める。
「……大丈夫なのか?」
当然の心配事がノアの口から突いて来た。手を身体の前に組み、前屈みになりながら。
「ルーにも聞かれましたけど。相手はもう殆ど、全ての工程が終わり、気が緩んでいるでしょう。其処に漬け込んで奇襲することが俺の狙いです。と言うか、もう限られた時間の中で好機と呼ばれる時間はそれくらいしかないです。そしてホームグラウンドが鍵です。人員以外は此方側が圧倒的に有利です。時間がない中で相手も情報不足は必至、相手が知らない点をどんどん突いて行きましょう。武装に関しても此方は銃で陽動が出来ますし…………いざとなれば、俺にも虎の子があります。それがあれば、死者がゼロだとは断言しませんけど、人質の救出は可能です。やり方次第で戦力は三人でも三十人に対抗出来ます。だから安心してこれから俺の依頼する役割を演じて下さい」
話の途中で苦い表情を浮かべるランディはルーとノアの憂いを取り払う為、前置きをして続きが気になるようし向ける。これも軍人に必要な話術だ。兵士は納得出来ない作戦でも上からの命令で無理にも従うしかない。でも普通の人間は違う。作戦などに大きく関わる町村などから理解を得る為には武力だけではなく、言葉も必要だ。ランディはこれまで培って来た技術を余す所なく、発揮し、自分の意見が通るように力を尽くす。
「君が最新型の小銃を持っていたのも驚いたけど、まだ隠し玉があるのか……是非聞きたい所だが、それはあんまり話したくないようだね」
「ははっ、バレたか……これは聞いても仕方がないことなんだ。あまり深く知り過ぎると絶対に良くないことが起きる。聞いて貰いたくないってのが本音だよ。でも虎の子は本当にあるからこれだけは何も聞かずに納得して欲しいんだ、ルーにもノアさんにも」
ルーに痛い所を突かれ、ランディはやんわりと笑みを浮かべる。時にはどんなに疑われたとしても話すべきでないこともある。切迫した現状よりも、中長期的に。もし、この戦闘が町側に誰も死者がなく終わったとしてもこれから二人に災厄が振り掛かることも考えてランディが言った言葉だ。断じて保身の為ではない。無理な願いをランディは頭を下げる。
「そう言うなら僕は聞かないでおくよ。無理に人の過去をほじくり返すことはしないから。でももし、何時か話さないといけない日が来たとしたきちんと聞かせてくれればそれで良い」
短い沈黙の後、ルーがランディの頭に同意をした。正しいことなど、殆ど、この世界にはない。でもランディは間違った答えを敢えて選ぶことはしないとルーは知っているからだ。それは行動で示しているのだから。信じてやるしかない。
「時が来れば、多分……必ず。ありがとうと言うべきか……不安になるかもしれないけど。はっきり言って、信じてくれなくても良い。ただ、何か危険な事態に陥った時に思い出して戦ってくれないか?」
矛盾は重々承知しているランディも士気を高める為に信じていてくれと本音を漏らす。
「まあ、虎の子の件は一先ず置いて置いとくとして。随分と自信があるらしいけど、勝機はあるのかと俺には甚だ疑問だ……でも全体を聞かないことには話が始まらない。聞いてから細々と指摘するとしよう」
「ノアさんもありがとうございます。話を聞いて貰わない限りにはにっちもさっちも行きませんからね。作戦の全容はこうです。配役としては俺とノアさんが表立って戦闘を行い、主戦力の排除と陽動を。ルーには俺たちが敵を引きつけている内に敵拠点へ侵入、人質の解放を主な役割として考えています」
ノアが話を先へ進めるよう促すのでランディは更に突っ込んだ役割分担に触れる。二つある内の一つの窓に歩み寄り、町全体を眺めながらそれぞれの動きを想像するランディ。
「なるほどな……」
「はい」
「三人が三人、それなりにリスクを負うね……」
「仕方がないことかと。俺が先頭をきって戦うことは確定として陽動と潜入は二人のどちらかがやっても良い、だけどルーの方が情報に多く触れているから決まったと考えて良いかな?」
「うん、それは仕方がないよ。俺たちがやらないといけないのだから」




