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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第漆章 第三幕
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第漆章 第三幕 1P


                   *


「さて、二日連続で此処に来ることは流石に……思わなかったなあ……しかも少し早く来過ぎた――のか? でもこの前はこの時間帯だったしね」


「何で独り言を言ってるんだい? ランディ」


「……来ているなら来ていると言って下さいよ。俺が恥ずかしいじゃないですか……格好を付けていたのに」


二人の対話は始まった。初めて会ったあの日とは違い、雪は降っていない。それでも早朝の寒さは同じ。ランディは時間よりも早めに来ていた。薄暗い世界の中で一人、此処に来ている自分だけだと思っていたけれども、待ち合わせの相手も同じことを考えていたらしい。今日も白衣でただ一つ違うのが、腰に剣を帯刀している。


「誰もいない場所で恰好付けても仕方ないだろうに」


「誰もいないから出来るんですよ! 小心者の俺に人がいる前でとか無理を言わないで下さい」


コートを風にたなびかせながら立つランディ。今日は背中と腰に布袋を括り付けている。一つは勿論、愛用の剣。もう一つは今回、使わないもノアへ渡す為に持って来た。そして顔には自らが引き起こした失敗で苦い表情を浮かべている。


「さてさて、此処に来たのは良いけど……剣なんか持ち出して随分と物騒な話だ……何を始めるつもりだい?」と分かっているのに態々、ノアは無駄な質問を繰り出す。


「喧嘩と言うのも可笑しな話ですけど、俺の実力を知って貰うことと、言葉だけでなく、実際に剣を取ることで俺の矜持を見せることが今回の目的です。正直言って、ノアさんにあれだけ言いたい放題言われた俺も腹が煮えくりかえるほどの苛立ちを覚えています……まあ、言うなれば私刑に近いような気もしますけどね――――」


疲労の面影が全く見えないランディは軽い調子で話を始め、肩から布袋を外し、街壁に立て懸け、腰の布袋から剣をゆっくり出すと腰に据え、構える。昨日は事前の用意もしたが、今日の為にきちんと身体も休め、体力も完璧ではないも立ち回りが充分に出来るまでは回復させた。


「ふふっ、あれだけ煽ったのだから仕方がない気もするけど……ちょっと調子に乗り過ぎじゃあないか? 君が強いことは何となく分かる。でも俺は簡単にやられない」


髪の毛の隙間から青筋を見せながら「剣術も結構、有名な先生に習ったことがあるからね」とノアは生意気なランディに言う。そして同じ様に抜刀。


「高々、貴族のお遊びみたいに護身術程度で習った人間と実戦経験ある軍人を同列に扱われても困りますよ……」


やれやれと苦笑いを顔に浮かべながらランディはのたまう。今日のランディは何故か、トゲトゲしい。最近、溜まっていた不満が遂に爆発したと言うのが本音だ。大人気ないと言われてもランディはまだ、青年である。俯瞰で物事を考える年ではない。若者とはもっと感情で動くべき生き物なのだ。ノアもその心があるからこそ、ランディに付き合っている。そしてノアは苛立ちを感じつつも同じように気持ちを高揚させていた。お互いにまだまだ、子供なのだ。


「糞生意気なごたくはもう良いよ……さっさと始めよう。王国軍出身の癖にビビってばっかりのふ抜け相手にするのはちょっと不満だけどね」


剣を抜いたノアは徐にランディから距離を取る。じりじりと右、左交互に足を動かしながら交代をする。ランディは余裕を持ってノアの方へ歩み寄りながら剣を抜く。二人の間合いは大人一人の身長くらいに保たれたている。だが、ランディは敢えてその距離を崩そうとする。戦いにコンディションを選べることはない。ランディにとってはどの状況だろうと一緒なのだ。


その場で自分のベストを尽くす。どんな時でもいつも通りを突き通すだけだ。戦場では調子が悪かったと言う言葉では済まされない。結果は勝利か敗北の二つのみ。


「君は妙に自信満々だね? もうちょっと相手に対して警戒とかがあっても良いんじゃないか。その自信は君をいつか殺すよ?」


ノアが余裕のないことを隠さずにランディへ真っ直ぐに問うた。


「何故ですか? 軍人と言う言葉に慄いた相手へ何を警戒すればよいのですか? それに俺はいつも通りをいつも通りにこなすだけです。守られた中での剣術しか知らない貴方には分からないのかもしれないけど……戦いは普段の生活と変わりないです。足を踏み外したら其処でお終いなんです。分かりますか、俺の言葉の意味が?」


ランディは飄々として答える。右手だけで剣を緩く構えると、そのままゆっくりと進めていた足を速める。強く左足で地面を踏みしめ、一気に剣の間合いへ入ると、右から左へ薙ぎ払う。ノアはランディの可笑しさに悪寒を感じながらすんでの所で避ける。ランディはノアの動きに関わらず、どんどんと前へ出る。風斬り音と共にランディの斬撃がノアへ牙を剥く。ただし、足の動きは変わらず、軽やかに歩みを進める。終始、ランディのペースで戦闘は行われた。


「流石、軍人だね……格好良いことを言うだけの気構えだけはあるな」


ノアは一度も剣を振るうことなく、ランディの攻撃を剣で受け、避ける。左からの斬り上げ、連続で突き、首を狙って両手で斜め左から斬りを下ろす。がちがちに身体を固めたノアが危なかしげに斬り上げを耳障りなキリキリと言う音を立てながら剣で受け、連続の突きをかわし、かわせない物はいなす。首を狙われた一撃も己の剣で受け止めた。そして鍔迫り合い。どうにも気の抜けた打ち合いが続く。


「……」


ランディは力で鍔迫り合いを崩し、ノアへ斬りかかる。ノアは力押しに怯むが、きちんと受け、痺れた腕で反撃を狙う。ランディの剣を受けると同時に構える剣に右斜めへ角度を付けて緩やかにいなし、払い、ランディの胴元を薙ぎ払い、此処で初めてノアは足を前へ出した。


このまま、一歩、手を間違えれば即死の間合いで切り結ぶノアとランディ。ノアも手数を増やして行く。突き、いなしから続けての斬り返し。ノアの攻撃はカウンターを狙う物が多かった。しかし、ランディのように自然な足の運びが出来ていない。たどたどしく、甲高い金属音と土を踏みしめる音だけがこの場を支配していた。日はだんだんと登り始めている。どうやら今日も晴天らしい。この二人のぶつかり合いの待つ先に燦々と輝く太陽が見えるかどうかはまだ分からない。


しかし、これしきのことで相互理解を諦めるのならば、あの盗賊には勝てまい。盗賊の結束は固い。ランディだけではどうにもならないし、逆にノアだけでも無理だ。止揚の先に何が待つか、それを『Chanter』は見続けていた。また、どちらも時に剣だけではなく、手や足を使い、相手を攻撃する。手数としてはランディの方が多い。勢いはランディが持っていた。また、剣術での競い合いから喧嘩のようにグダグダな戦いにシフトし始めている。


足を引っ掛けたり、踏んだり、相手の指を潰そうと鍔迫り合いで自分の剣と相手の剣で挟むなど、地味な戦いも始まった。相手の体勢を崩し、隙を作らせ、自分が少しでも有利に動けるようにと画策する。そんな中で、唐突にランディは左からの薙ぎ払い、ノアも左からの袈裟斬り。互いに相手へ交差するように斬りかかり、すれ違う二人。


「ぐっ!」


「…………」


そしてまたぶつかり合う。どちらも薙ぎ払いを放ち、剣がぶつかりあうのと同時に、いなし身体を相手へ向けたまま、足をがりりと地面に後ろへ滑らせる。更に二人は次の一手を繰り出す。右足を大きく蹴り、ランディが大きく振りかぶって斬りかかる。ノアは足腰をしっかりと固めると下段に構え、遊撃体勢を取った。互いの服が切れて剣が乱舞し、土が飛ぶ。


でも残念ながらどちらも決定打がなく、無意味な殺陣が続く。見ている分には良い。でもこれは本当の戦いではない。ノアにはランディに対しての負い目による迷いが、ランディはその迷いを機敏に感じ取ってノアのペースに合わせるように力を加減して動いている。下らない寸劇が繰り広げらていたのだ。


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