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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第陸章 第二幕
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第陸章 第二幕 18P

「お主も油断できない奴じゃ……でもわしからいや例え、此処にいる全員から聞けることなど殆ど何もないぞ?」と老人は油断ない言葉を放つ。言葉には気をつけろとまるでこの部屋にいる住民たちへ言い聞かせるように。


「ふむ、そう警戒しなくとも良いではないか? 取って食おうだなんて思ってはいない。……そう言えば、仲間から貴殿らの様子がどこか可笑しいと聞いてな。私の出来ることであれば、原因を取り除きたいと思った。何か生活で不自由していることがあれば言って頂きたい、逃がしてくれと言うこと以外ならば大抵の要望は応えよう」


「いや、わしらは今の所、何も不自由していない。しいて言えば、あんたがいることが目下一番に解決して欲しい」


「冷たいことは言わないでくれ、欲しい物はないか? 食糧、水、毛布、他にも色々ある。酒が 飲みたければ、少量だが提供出来る、他にも嗜好品はあるから遠慮せず言ってくれ」


Dは肩を竦めながら懐柔する。油断がないなら切り口を作るまでと言うことだ。それが例え、自分たちの狙っている情報のヒントだとしても上手く隠して聞く話術も必要とされる。


「ならば、ランプと湯、茶をくれ。真っ暗だと気が滅入るし、この年では寒さが骨身にしみるのでなあ……しかも幼い子供たちもいる」


大人たちに付き添われている子供たちを顎でしゃくりながら仕方なしに要求を提案する。毛布があるとしても春先の夜は寒さが身に堪えるのだから当然の要望である。


「火は我々にとって危険だ、建物に火をつけられては困る。湯と茶は了解した直ぐに用意させよう……O、頼めるか? 誰かに用意は任せて直ぐに戻って来てくれ」


「任された、他にはないのかな? おじいさん」


「火はどうしても駄目なのか? 蝋燭一本だけでも良いのだが――」


「Dが言った通りです」


Oは要求を飲む事が出来ないと念を押す。


「仕方がない、なら他に食い物をくれ。さっきの量では足りん、此処には育ち盛りの若造や大食らいの大人がいるからのう」


「分かりました、直ぐに用意出来るのでちょっと待って下さいな」


そしてDだけが部屋に残った。


「はてさて。食糧や他の物が届くまでの間、時間もあるから話でもしようか。私、個人としては今も色々と興味津々な物が目の前に映っているのだが、聞いても良いだろうか?」


町民たちの目が一斉に老人の下へ集まる。


「例えば、そうだな……かなりの人数を集めてしまったがそれぞれ、町ではどんな仕事をしているのかね? これくらいならば聞いても問題あるまい?」


「そんなこと聞いても仕方がないだろう? どうせ、お前さんは直ぐにいなくなるのだからわしらの私生活に首を突っ込んでどうする」


「気になったのだから仕方がない、今回も何かの縁でこういう風に出会ったのだ。折角だし、出来れば私と話したくないと言うのであれば御老体が紹介をしてくれ」


壁付近に置いてあった椅子を引っ張り、扉前に置くと背もたれを前にしてどっかりと座り込んだ。話を聞くまでは出て行かないぞと居座る気満々のD。はあと溜息を一つ吐いた後に老人が一人一人の名前と職業を上げて行く。


「ワシはパット、農業をやっている。これはワシの隣で同じく農家をやっている家の子供で名はムー、あっちはアムールと言う宿屋の倅でもう少ししたら親の後を継ぐだろう。そして――――」と言う風に一人、一人の職業や名前を出して行く老人。


順繰りに二人の娘、つまりはルージュとヴェール以外、全員の説明をした老人。


「まあ、こんなものだのう……」


「ほう、色々な業種が集まっているな。それでそちらの綺麗な服を着たお嬢さん方はどこの誰かな?」


「ひっく!」


「うぅぅぅ……」


目ざとく、Dは老人がワザと説明しなかったルージュやヴェールに注目する。内心では舌打ちをしたい老人はぐっと飲み込んで皺のある唇を舌で舐めると平静を装った風に口を開いた。


「……おお、その子らのことをすっかり忘れていたな。二人は酒屋の娘だ、名はルージュとヴェールと言う、普通の町娘だ。特に気にする必要もないだろうて? 年寄りはたまに忘れっぽいからのう……」


飄々と老人は答える。年寄りと言う言葉を利用して。いきなり話の中心になって怯えるルージュとヴェール。庇われている大人にしがみつくのが精一杯だ。


「普通の町娘にしては衣装が整っているが、そこの所はどうなのだろうか?」


不気味な仮面の下で品定めでもするかのようにじろじろと眺めるD。


「この子らの家はちょっと金貸しをやっていてのう、それで余裕がある……金があれば、子供によくしてやるのが親心ってもの。お主には分からんかもしれんが」


「いやいや、親心は理解しているつもりだ。勿論、子供は可愛いからな、目に入れても痛くないとはよく言った物だ……なるほど、無粋な質問であった非礼を詫びよう」


「非礼か―――― 親心が分かると言うのなら、本当ならばこのような所業自体と言いたい所、だがそれは不毛な言い争いになるからもう言わぬ。しかしせめても、せめてもこの子らのような子供には手を出さないべきであった。そうだろう?」


老人は小さな目に悲しみを乗せて訴えかける。


「我々は全ての者に平等だ。それは女、子供も変わらない。生きているのならば、この世と必ず、関わり合いを持つ。誰であろうと無関係ではいられない……御老体の感情論に一理あるも私の石は到底、曲げられない」


Dは愚直に我を通す。屍には感情論など、無用の長物である。


「悲しいのう……何がお前さんを其処まで駆り立てるのか。だが、一つ言っておこうか――――お前さんにとってワシの言葉に意味がないのとおんなじでワシにとっても難しい言葉なんぞ、下らん。お前さんはもう味気ない言葉で飾るほど、この世に何も魅力を感じないのかもしれんが、ワシにとっては眩しいものばっかりだ。何処まであい入れないのう」


「全くだな、御老体。これが社会と言う物だからしかないかもしれん、別に私はあなたとあいいれなくとも悲観はしない。元々の境遇が違うのだから仕方ないのだ」


老人の呟きに素っ気なく言葉をDが返す。


「……そういかい。お前さんは何があろうとも進み続けるのだな。だが一つ覚えて置くが良い。お前さんの通る道は何時か必ず報いが来るぞ」


震える皺苦茶な手で老人はDを指さしてきっぱりと言った。


「それも私は理解しているつもりだ。間抜けではない」


その言葉をDが冷たく、あしらう。


「更に突っ込んだことを聞くようだが、この町の町長についてだ。彼には家族がいるのか? それとも一人身か? どのような人柄かも聞きたいな」


「そんなことを知ったとしても何も特にはならんぞ? それにわざわざ敵対する相手にもしかすると情報な情報かもしれないことを簡単に教える訳があるまい? ワシは嘘を平気でつくぞ」


「まあ、口が堅くなることは予想出来ていた。ただ、試しに聞いて見たのだが。そこまで拒絶されるならば、無理に聞くことはしない」


これは失敗だったかと、Dが頭を働かせて別の話題を考える。だが、どうにも話題が思いつかない様子。顎に手をあてて少しの間、黙り込むD。


「後、私が気になるのは町の運営についてだ……此処には自治、つまりは町長以外の決定権を持つ組織はないのか? 例えば議会のような物だ」


肩を竦めながらDが質問の趣向を変えた。どうやら別な手を使うことにしたらしい。


「そんなものはワシらに必要ない。もし、大きく町が変わることを決めるならば、全員で集まり話し合って決める。全員が納得して決めるのだから特別な人間を作る必要はない。流石に町の代表は一人くらい、必要ではあるがのう」


Dの言葉の意図が読めない老人は疑心暗鬼に陥りながらも慎重に言葉を選んで返す。落ち窪んだ目には

疑いの色しかない。


「確かに小さな町だからこその強みだな。しかし……本当にアノ男が町の代表で良いのかね?」


Dは仮面の下でほくそ笑む。


「町長はとても優秀な人間だ。要らぬ犠牲は出さず、我々の要求に従い、自然の災害の如く、やり過ごそうとしている……」

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