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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第陸章 第二幕
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第陸章 第二幕 16P

険しい表情でレザンは忠告をする。顔を上げたランディはレザンへ強い意志の籠った目を向けて首を縦に振る。短い受け答えだったが、全てが伝わった。勿論、リスクはどんな選択肢でもついて回るが先の喧嘩とは違い、盗賊と本格的にことを構えようとすればとなってくる。先の暴走よりも重い責任だ。つまりは誰もが避ける険しい道。しかし、もし成功したのならばその先に待つ光はとてつもなく大きいだろう。


「レザンさん、良いんですか?」


「良いも何も、此処で止めたとしてこの馬鹿共は裏でコソコソと事を運ぶのだから仕方がない」


不満が残るフルールにレザンは苦い顔で折れた理由を語った。


「勿論、何か確証が掴めた時に動くつもりなのだろう?」


「えぇ、当然です」


もう、悪戯に無茶な行いをするのはごめんだと即答するランディ。


「ならばこれ以上、私から言うことは何もない」


「むむむ……」とそれでも納得の行かないフルールはうなる。


「ルー。早速、話に入ろう。時間が惜しい。君にはちょっと集めて来て欲しい情報と物資がある。俺は別な準備があって手が離せないから」


「なるほど、使い走りか……何か使い走りってとっても良い響きだよね……こう、ぐっと親密になった感じ? そう思わなかい? ランディ」


シミジミと感慨深げにルーがランディの言葉に頷く。


「もう! そんなんじゃないって。俺をからかわないでくれよ」


和気藹藹と話す二人を眺めるノアが顎を撫でながら何か思い立ったように背筋を正した。


「それじゃあ、俺はもう行こうかな。明日を楽しみにしているよ」


「はい、ノアさんの期待は裏切らないと思います」


ノアは回れ右をして町役場の方へと足を運ぶ。まだ、素直になれば良いのだが、どうしても意地悪をしてしまった。ランディの目から、言葉から気持ち伝わって来ているのに。自分自身が犯した間違いだ。『Chanter』を救う為にランディを利用する形となってしまったからだ。


邪な考えがなかった訳ではない。ノアがランディと『Chanter』のどちらかを選べと言われれば、間違いなく、『Chanter』を選ぶ。何故ならこの町は自分の居場所。ノアにとってかけがえのないない大切な物だからだ。でも実際、軍人と言うレッテルで責任を全て押し付けてしまったのは言い訳が出来ない。


其処を指摘したレザンとフルールの言った言葉は強く、胸に響いた。だが、昨日の言葉はランディのことを考えての言葉でもあった。まだ、何もしていないうちから腐るのは早い。腐っていた理由は分らないが出会った日の熱さを取り戻して欲しかったのだ。あの愚直さはノアを惹き付けた。だから今は謝らない。明日の覚悟を受け止める。出来る限りのことをランディがやって今回の件がどんな形であろうと終わったのならば、ノアは頭を下げることは頭の中にある。


「もっと、器用に動けなかったかな。俺……」


ノアのぽつりと呟いた独り言は町に吹き込んだ新たな風に飲まれ、消えるのだった。

                    *


 夕日に沈む『chanter』を見る盗賊団頭領Dは拠点の二階、作戦室の窓辺に佇んでいた。仮面を付けた顔は町へ向けていたが実際の所、何も映ってはいない。あの出来事から既に二、三時間は経っていると言うのにまだ頭を殴られたような衝撃がDにはあるのだ。何より、今まで皆の見本として、指針として崩れない決意があったのだが今、その決意は揺らいでいた。何故かは分からない、でも確かに今までないほどに自分が本当仲間と盗賊行為などがしたいのかと言う疑問が強く生まれ、心が落ち着かない。そしてケジメがつかない。


「はあ……」


「D、どうしたんだい? 溜息吐いて」


今、部屋に居るのはDともう一人、Oだけだ。他の者は見張りや道具、武器の整理、その他の用事で出払ってしまっている。Oは地べたに座って剣を磨いていた。Oの剣は量産型のブロードソード。重くもなく、軽くもなく、誰もが使えることに特化した剣であった。


「いや、問題ない」


Dは何も問題を感じさせない声色で言葉を返す。ただ、声色には揺らぐ灯りのように儚い。


「ふーん」


剣に視線を向けたまま、Oは気のない返事をした。


「何だ? 私が変に見えるか……」


「問題があるように見えるんだけどねぇ……今考えているのはさしずめ、昼間の青年のことだろう? あの子、相当出来る子だったなあ」


「確かに私も戦闘のプロではないから分からないが強かった。Hがやられるとは思わなかった」


Dは気の抜けた声で投げやりな言葉を返す。覇気がないのは多分、ランディの言葉が少なからず関係して来るのだろう。折角、忠告していたのにランディが大きく彼らに関わってきたのだ。動揺は隠しきれない。丹念にボロ雑巾で磨くO。剣は気持ちよさそうに夕日やランプの灯りをキラキラと反射させた。


「そう言えば、D。あの青年と面識があるのかい? 本当の名前も知っていたし、ましてや僕たちに説得までして来た。明らかに僕たちの何かを知っている様子だったけど」


「ああ、いや彼は町の住人だ。情報収集と人質を兼ねて近寄ったのだが、どうにも上手く行かなくかった。その上、私も相当口が軽くなってな、つい必要ないことまで喋ってしまったのだ」


「なるほどね……はははっ」


「何故、笑う?」


また余計なことをして要らぬ柵を作り掛けたとDが嘆く。Dの苦言にOは剣へ視線を向けたまま、朗らかにころころと笑った。リーダーさえも笑うのだから相当に捻くれているのは間違いない。


「いや、デカレさんはまだあんな子に慕われることがあるんだなってね。てっきり、あの年頃でデカレさんに一目置くなんて僕だけかと思ってた」


「別に慕われていた訳ではない……ただ考え方が似ていて馬があっただけだ」


仮面を外し、表面にはあっと息を吹きかけると自らの服に擦りつけ、汚れを落とすD。仮面の下にあったのは顰め面。自分が引き起こしたイレギュラーがどうも気に入らないらしい。故意で引き起こしたものではないがそれでも気の緩みから来た失敗だ。この失敗はどうにかして取り戻さねばなるまい。


「でも……折角、仲良くなったのだろうけど―― 多分、あの子は僕たちに挑んでくるよ。Dは大丈夫かい?」


Oは確認を取るように手を止めてゆっくりと顔をDへ向ける。親しい間柄でも線引きは必要だ。それは例え、リーダーであっても道を間違えているのならば仲間である自身が正さねばならない。


「誰であろうと我らの道を阻むのであれば、どんな手を使おうとなぎ倒して進むだけだ。それ以外、何もない」


ぐっと仮面を強く握りしめ、己の意思を曲げることなく、さらっと言ってのけたD。譲れない理由がある限り、人が足を止めることはない。それは誰であろうと同じである。


「それでこそ僕を救ってくれたDだ。結果はどうなろうと僕はだから背中を預けられるんだよ」


「大船に乗ったつもりで安心して事にあたってくれ」


二人だけの会話がおおよそ、終わりを見せた時、扉からノックが聞こえ、開いた。


中へ入って来たのはAとH、その他にも何にかのメンバーがずらりと。挨拶をしながら入って来た何か用事があって来たらしく、真っ直ぐDの前に来た。


「D、ちょっと頼みたいことがあります、時間は開いていますか?」


「俺たちじゃあ、どうにも難しくてな。Dならもしやと思って来たんだ。他の奴らは……」


「定期報告で来ただけだ、D」


首を傾げてどうにも上手く行かないと言った雰囲気を醸し出すAと頭の後ろで手を組み、お手上げだと諦めた様子のH。AとHの頼み事に仮面を外したままのDは驚きの表情を隠せなかった。この二人は普段から頭領に対して気を使うことが多く、何でも噛んでも自分でやりたがる。そして殆どのことは終わらせてしまう。遠慮深いがDの片腕としてはとても心強いのだ。


そんな二人が珍しくお手上げと言うのだから驚くのは仕方がない。でも頼られるのは悪くない。Dはあまり緊急事態でないことをAとHの言動から悟りつつも口を開く。


「なるほど、Bたちの報告は定時報告で間違いないな? ならば先に二人の用件を聞いてからでも良いか?」


「俺や他も急ぎの報告でないから大丈夫だ。それより情けない二人に手を貸してやってくれ」


代表でBと仮面に彫られた男が答える。Bはもう二人の困り事を聞いているらしく、がっかりとした様子でDに進言する。


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