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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第陸章 第二幕
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第陸章 第二幕 13P

弾かれたように離れるランディと盗賊。息を吐く間もなく、正眼に構えて今度はランディが突撃を図った。決して危険な距離には入らず、ナイフ特有のペースに持ち込まれないよう突きを中心に前へ、前へ攻める。軽やかにそれでいて強く変則的に身体を動かすランディ。やはり、強さは経験と体力による。それは絶対だ。この武器を持てば、自分はどんなことが出来るかと言うこと。また、それを可能とする為の体力。その二つさえあれば人を殺すことは幾らでも出来る。


「なあああああ!」


「ごほっ!」


ランディは掛け声と共に剣で二本のナイフの防御を縦に崩して体当たりをする。盗賊が斬撃でナイフを手放し、衝撃で倒れた。金属音と共に地面へ転がるナイフ。盗賊のお陰で勢いを殺しきれたランディの体勢は崩れたものの、立っていた。ランディはゆっくりと尻もちをついた盗賊の喉元へ剣を近づけて宣言をする。


「……これで終わりです」


次の瞬間、町民たちの熱気のこもった歓声が上がった。戦闘は町民たちを熱くさせたからだ。決闘と言う物はご法度であるもやはり、盛り上がるもの。ましてや中途半端な演劇ではなく、本当の命のやり取りだ。外野からして見れば、面白くない訳がない。しかし、当人の盗賊とランディの間には妙な緊張感が漂っていた。淡々と殺気が渦巻く、真っ黒な世界がそこにはあった。ドロドロとした人の悪しき側面がありありと見える瞬間だ。人の業が渦巻く、殺すだけの世界。酷く、寒くて辛い。


「殺せ」


詰まらなそうに空を見上げる盗賊はそれ以上、何も言わなかった。


「言わずもがな。真剣勝負ですから恨みっこなしと」


頬に垂れる己の血を拭い、瞳には漆黒を乗せて無表情のまま、さらりと言うランディは腕をゆっくりと引く。ひと思いに引導を渡そうとした。お祭り気分の町民たちも異変に気付いた。ランディと盗賊の言うことについて行けず、呆然とする。勿論、ルーもフルールもランディの変りように驚いてばかりで何も止めることは出来なかった。


ランディの眼は人殺しの眼をしていたからだ。本心を隠して。止めて貰いたかったが、冷たい現実を見る自分はそれを許さない。


「青年、その決着。待って貰おうか」


「そう、駄目だ。ランディ、お終いだよ」


「つっ……」


ランディの剣が盗賊の喉元の寸前で野太い声とやんわりとした優しげな声が町役場の方から止めに掛かった。ランディにデカレと名乗った盗賊団の頭領と町長のブランにオウルやセリユー等々。そしてノアの姿もあった。後ろには盗賊やレザン、その他にも話し合いをしていただろう大人たちが何人か控えている。


頭領はブランよりも先に町役場からゆっくりと四人の仲間を後ろに引き連れてランディと戦いをしていた盗賊のもとへと来た。そして座り込む仲間に手を差し出す。


「D、最後くらい格好つけさせて下さい」


首を横に振って手を握ろうとはせず、屈辱だと煤けて盗賊は言う。盗賊自身にも思うことがあるのだろう。


「お前はこんなくだらない所で離脱をするのか、そんなこと考えている暇があったら地べたを這ってでも生きろ。まだ、お前にはやるべきことは沢山ある」


「くっ――――」


Dの一言に絶対の何かがあるのか、ビクリとした盗賊は差し出された手を恐る恐る握る。Dは握られたてを強く握り返すと仲間を思い切り、引っ張り上げる。盗賊は大人しく自信の外套を払い、頭領の後ろ、仲間に合流する。頭領は仲間の動きを確認した後、仲間に手で制し、一人、ランディの元へと向かった。


互いに向き合い、あの時以来、初めての対面だ。


「どのような理由があろうと今回の闘争はこちらの手違いで起こったことだった。本来なら必要のない会合を開いて貰った故、穏便に済ませるつもりだったが、如何せん、配慮が足りなかったようだ。仲間の命と引き換えにこれ以上の愚行はしないと約束しよう」


Dは髪に目を隠す、ランディに言葉を放つ。ランディはゆっくりと顔を上げて見下すような視線を投げかける。


「全く、こんな無様な有様でよくもいけしゃあしゃあと……プライドってないんですか? あっ、そっか。所詮、下劣な盗賊風情ですもんね! すみません、失念していました」


真っ黒な目で顔には冷えた笑いを浮かべ、ランディは言った。ランディの発言に一瞬で広場は冷え切る。町民たちには緊張が走り、他の盗賊五人が無言で剣に手を掛ける。


「――― ふふっ、幾らでも言いたまえ。我らに元よりそんな物は存在しない」


最初に頭領は驚いた様子を見せたが直ぐに余裕を取り戻す。ランディの言葉は節々に幼い、強がりがあった。頭領にはそれがしっかりと見えていたのだ。


「全員、撤収だ」


Dはランディに言うことは言ったと、仲間たちに呼びかけ、隣をすり抜けてアジトへ帰ろうと足を進める。しかし、足は一歩進んだ所で止まった。ランディが頭領の喉元に抜き身の剣を突きつけたからだ。揺らぎのない真っ直ぐに伸びた剣先。そして今度はD以外の五人が一斉に剣を抜いてランディの首元へ剣を突きつける。


「ランディィィ!」


レザンの怒ったような声が響いた。ランディは声が聞こえなかったかのように剣を向けたまま。


「もう今更ですけど。デカレさん、言わせて下さい。俺の言葉は何も届きませんか……」


ランディの口から出た呟きは今にも泣き出しそうな必死の叫びだった。ランディの言葉は盗賊たちの剣に大きな迷いを与える。動揺は町民たちにも伝わった。盗賊たちだけに聞こえる声で言ったランディは力なく、剣を下ろす。習うように盗賊たちも剣を下ろした。


「今の彼の行動で人質をどうこうするつもりはない。今回はあくまで我々の配慮が至らなかったことに起因する出来事であり、無用な混乱は避けたいのだ」


Dはそれだけ言うと、何事もなかったかのように仲間を引き連れて静々と広場を後にした。ランディは俯き、剣を強く握る。嵐の過ぎ去った広場はしんとしていて。小さな風の音以外、何もない。全てが予想外でただ、出所が分らない悲しみがあり、不甲斐なさがあった。


「う――― ん。取り敢えず、皆の無事を確認すること、そんでもって誰か僕に今回の件の事情を説明してくれないかい?」


そんな沈みきった空気を一掃したのは、ブランだった。ブランの言葉に町役場から出て来た町民は我に帰ると広場の町民の元へと向かい、前任の無事を確認し始め、何が此処で起こったのかを聞き始めた。ブランにはルーがいち早く駆けつけて手短に説明をして行く。ランディには娘を他の住人に預けたフルールがつく。向かい合って二人は顔を見合わせた。


「ランディ、大丈夫?」


顔にありありと『心配』の文字を浮かべたフルールはちょっと前に見たような忙しなく、まるでリスのように怪我の確認をし始める。


「うん、大丈夫だよ。心配しないで」


青白い顔色ながらも額に汗をぬぐいながらランディがいつもよりトーンの低い優しげな声色で安心させるように言う。体調は依然としてガタガタだが、言葉通り、かすり傷しかないことが確認できたフルールは「良かった」と心底、安心する。

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