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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第陸章 第二幕
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第陸章 第二幕 9P


                  *


「うぅぷ……ああああ」


「ふん、ふふ―――― ふん。ふん、ふん、ふん」


フルールが二人の元へ帰って来たのはやはり昼前。しかしそれほど長い時間、離れていたという訳でもないのに先ほどの険悪な状態と打って変わり、何故か有り得ない光景が街壁の上で広がっていた。二人の服にはそれぞれ小さな食べ零しが付いていた。


二人はというとランディは街壁に突っ伏してルーは空瓶を抱きしめながら顔を程良く赤らめて陽気に鼻歌を歌っていた。


無言のまま、フルールは額に手を当てながら呆れ果てる。


「あぁ、フルール。お帰り」


陽気にルーはフルールに手を振る。


「ルー、何がどうなってこうなるのよ?」


怒りを抑えつつ、フルールはルーへ近づいて問い詰めた。


「全くだね、訳が分からないや」


「あんたが分からない訳がないでしょ!」


「痛い、痛いって! フルール」


あまりの投げやりな言い草にフルールはルーの耳を強く引っ張る。これでは埒が明かないとフルールは責任の所在を言及するのを諦めてランディへ歩み寄った。


「ランディ、大丈夫なの?」


ランディに駆け寄ってフルールは少し震えている背中を優しく擦る。


「うん? ああ、フルール。来たんうっぷ、うえぇ――――」


ランディは声と背中を擦る手でフルールに気付き、真っ青な顔を上げてしゃべるも遂にダムが決壊したようで口から滝のように食べ物を吐き始める。フルールとルーはランディの醜態に思わず呆然としてしまった。


「あらららあ」


「本当にどうすんのよ、これ」


「どうしようもないね」


嫌な顔をするフルールにルーは両肩をすくめて答える。


「でもさぁ、ランディは僕よりもお酒飲んでないよ? もしかしてお酒に弱いとか」


「違うわ。ランディね、体調を崩していたの。目の下にクマがあったり、見ていられなかった」


背中を擦り続けながら顔を顰めてフルールは言う。


「そうかい、それならば合点が行くなぁ」


「と言うか何でお酒があるのよ、此処に! もしかして……」


「いやいや、僕じゃないよ。ランディがチーズやら干し肉なんかと一緒に持って来ていだんだ。僕はただ、御馳走して貰っただけ」


ランディの肩掛けカバンを指さし、ルーは自分の身の潔白を説明する。


「因みにバスケットの中身には手を付けてないよ」


「見張ってくれたのは分かったけどそれであたしが来るまでに一本開けてランディはダウンと」


「そう、そう」


小さく頷いてルーは同意した。


「はぁ。取り敢えず、『Pissenlit』へ運びましょ。このままだと駄目よ」


風で乱れる髪を手櫛で整えながらフルールはルーにランディを家に帰す提案をする。「うん、布団で寝かせてあげるのが得策だ」


二人はまず、近くの家から水を貰い、ランディに与える。ランディは口を濯ぎ、飲むと幾分か、顔色の方は良くなり、おまけに酔い覚ましとして貰ったミント水でランディは吐き気の方は問題なくなった。


「なら、ランディを背負うから。カバンだけ宜しく!」


「はい、はい」


「結構、重いな。やっぱり軍人さんは伊達じゃないか」


ルーは半分意識がないランディをフルールに手伝って貰い、背負いながら独りごちる。ランディの体重が重いかどうかは別として意識の無い人間と言うのは運びにくいものだ。意識がある人間は運び手が身体のバランスを考えなくとも勝手に取ってくれるが意識がない人間はそれが出来ない。


だから余計に重く感じたり、疲れが倍増するのだ。ルーとフルールは後片付けをし、準備が出来ると門の方へ歩き始めた。並び立って歩き続ける二人。先ほどのゴタゴタがまるでなかったかのように落ち着いて静かだった。


「あっそ、ってそう言えば! ランディ、ランディ?」


穏やかな時間が流れる中、門の手前でフルールは不意に思い出したあることを聞こうとランディを少し揺さぶる。このまま空気に流されて終わらせてはいけないことがフルールにはあった。


「何さあ、フルールぅ?」


フルールとは反対の方向にルーの方へ顔を置いていたランディは薄めを開けて呂律が回らないながらもフルールに顔を向ける。


「ええっとね、ランディ。さっきの話の続きを聞きたいんだけど」


「うん、あれ?」


「どうしたの?」


「いあや、フルールが二人もいるんだけどなんれさあ?」


ランディの思わぬ言葉にフルールは閉口する。


「あはははっ! 駄目だよ、フルール。今のランディは使い物にならないからね、へべれけに酔ってるから」


まともな会話が成立しない二人を笑うルー。こうしている間にも門を通り過ぎて町中へ足を進めていた。二人は近道を選ばず、そのまま大通りを通る。広場まで行ってそのまま東に向かえ『Pissenlit』へ着くからだ。行きは主に小さな通りを通っていた為、人には遭うことが少なかったがやはり大通りには人がいた。しかし店はどこも閉まっており、まるで葬式のようにどんよりとしたムードが漂っていた。


「もう、男って本当に嫌い! 自分勝手でアホだし、ガサツ!」


ランディは約束を守らず、ルーには笑われ、フルールは散々だ。ルーより前に出てフルールは少しだけ先を歩き始める。


「楽しんだもん勝ちさ」


「ふん!」


ルーの言い草にフルールは道に落ちている小石を蹴ってそっぽを向く。


「そう言えば、ルーもいつの間にか仲良くなっているけど」


フルールが不在の間に親交を深めたのだから尤もな疑問だろう。人と仲良くなることに絶対的な条件はないし、話すこともあまりないだろうがしかし、聞かずにはいられなかった。


「別に初対面でもなかったから必然だよ、必然」


何の気なしにルーは答えた。


「そう、ないのね」


特に話すことがなくなり、いつもの賑わいがない静かな町中でまたもや二人の間には静かな時間が流れる。問題が解決していないので話を長々とする気分にはなれないのだ。


「ランディ、大丈夫かな?」


静けさの中、眠り続けるランディの顔を見ながらフルールがルーにぎりぎり聞こえるくらいの声で独白する。


「もう大丈夫、ランディは立ち直ったさ」


「あんたに何が分かるって言うの?」


本気で心配をしていると言うのに無責任でおざなりなルーの物言いでかちんと来たフルールは無表情になり、立ち止る。ゆっくりと振り向き、静かな怒りが籠った目で睨みつけながら冷たい声色で後ろのルーに問い詰める。脅しで周りの空気が一気に二、三度は下がった。


「分かるさ、ランディは意地を張って貯め込み過ぎている」


ヤツ当たりが入っているのを理解しつつも同じく立ち止ったルーは臆せず、穏やかに答えた。


「ランディを子供扱いして……同い年でしょうに」


「いいや、君だって同じだろう? どうしてもランディはとっても幼くてね、放っておけない」


ルーは青空の遠くへ視線を投げかけながら無味乾燥な答えを口にする。


「多分、少し目を離したらいつの間にか一人でふらふらと何処かへ行ってしまっているさ」


「ちょっと、待って! あんたの言うことは分かるけど、あたしの質問の答えにはなっていない!」


「その言うことが分かるって時点でもうフルール、君だって気付いているはずだよ」


ルーは勿体ぶってばかりでちっともフルールが聞きたいことを話そうとはしない。


「いちいち説明する必要があるのかい?」


わざわざ憎たらしく、笑みを浮かべながら小首を傾げてルーが問うた。


「あるわ、あたしはランディの世話係だもの。ケリを着けないといけない輩がいるなら張り倒しにいかないと」


フルールは引かない。


「怖い、ひたすらに怖い」


「文句ある?」


「ないよ、全くないね」


「好きにすれば良いさ」と肩を竦めたルーが言い、フルールを追い抜いて歩き始める。


「それで続きは?」


後を追ってフルールは続きを促した。


「はぁ……それじゃあ説明しよう。ランディはね、迷っていたんだ。色々なことを抱えて」


ルーは続けて話す。


「そうだなあ――――― まるで真っ暗な森の中で一人、迷い込んだ幼子のように」


「それは何となく分かっていたわ、でもあたしが知りたいのは『迷子が何故、その森に入らなければならなかったのか?』ってことよ」

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