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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第陸章 第二幕
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第陸章 第二幕 8P

「例え、ランディが誇れないと言ってもさ、君のしたことがなければ社会が回らないんだ」


「君は悪くない」とルーはランディへ真剣に訴えかけた。


「違うんだ! 確かに胸糞が悪い事件もあったよ。でも俺はその人の背景も知らずに……判断が到底つかないことも幾つかあった、でも俺は少数の人々を切り捨てて来た。俺は本当に正しいのか。今回、改めて考えさせられたよ」


疲れ切った顔に苦痛の色を滲ませてランディは首を強く横に振って慟哭を放った。


「僕たちは神様じゃない。全てを見通すなんて僕が全力で保障しよう、無理だよ。所詮、僕たちは如何に後悔をせず、生きて行くかが大事なんだ。全部、守ることなんて出来っこない。『二兎追う者は一兎も得ず』だよ。そうじゃなきゃ、大切な物をなくしてしまうんだ」


ルーは勢いに任せて酒を飲み、ランディに瓶を渡す。ランディもまた、一口だけ酒を口に含む。


「この町はね、僕の故郷なんだ。大切な、大切な」


風に髪を撫でられながらルーは力強くこぶしを握る。


「苦しいこともあったけど楽しいこともあった。僕は今、此処に居る。今、此処に居られるのは少なくとも『Chanter』があったからなんだ。誰かが人質に取られたり。死の恐怖を味わったり、乗っ取られたり、町を踏み躙られるのは我慢の限界だ」


青い瞳にギラギラと怒りの炎を滾らせるルー。


「盗賊団の棟梁が幾ら君の言うような人物でも僕は彼ら盗賊と町だったら迷わず、『Chanter』を選ぶよ! これだけは譲れない、君はどうだい?」


ルーの言葉はランディにとってやはりフルールのようにとてもとても眩しかった。

そして同時に自分もそうありたいと思った。


「ランディ、君は『Chanter』が好きのかい?」


「――――うん」


素朴な疑問をルーはぶつけ、ランディはそれに答える。


「ならば君はもうこの町の住人だ。自信を持って良い!」


「住人ならば、この町の笑顔を見る権利があり、守る義務があるよ」


「権利と……義務」


「そう、権利と義務。この二つは表裏一体だ」


指を二本立てルーは最も簡単なこの世の法則を語った。


「でもまだ答えは出そうにないね、これは。まぁ、君の生きて来た時間に深く、深く食い込んでいるのだから簡単に答えが出る訳がない」


持っていた瓶を話し続けるルーに渡す、ランディ。


「これから先、君の価値観が定まるまで大いに悩むべきだ」


ランディはルーの言葉に無言で頷いた。


「だけど僕は此処で敢えて提案する」


話の途中でぐびっとルーは葡萄酒を一気に煽る。


「今回、この町の笑顔を大切な物だ、失いたくないと言って君が動くのならば全ては僕の責任だ。君は、悪くない」


酔いを感じさせない声できっぱりとルーは言った。


「どういう理屈だよ、それは」


既に顔が酒で赤く染まっているランディはいまいち、呂律が回らない状態でとうた。


「僕と話さなければ君はまた別の答えが出ていたかもしれない。その可能性を絶ったのは少なくとも僕も関係してくる、責任の所在はそこさ」


ほんのりと口から酒臭さを滲ませつつ。ルーは酔いの勢いで恰好つけたことをのたまう。


「その言葉、信じちゃうよ? 俺」


「泥船に乗ったつもりでささ、ずずぃーっと」


「急に不安になって来た、選択は他にないのかい?」


あまりの頼りなさにランディは他の選択肢を求めた。


「勿論、ないよ。そんな物」


「誰が好き好んで泥船に乗りたがるんだい?」


「贅沢だな、君は」とルーは憤慨して鼻を鳴らす。


「後はそうだ、今までの人生において僕は君のいた世界とは程遠い場所にいたからせめての罪滅ぼしということだ」


「それは偽善だよ」


苦笑いを浮かべてランディはルーの言葉に文句を付ける。


「偽善という言葉にはふたつの側面があると思う。どんな小さなことだろうときちんと目を背けないやる偽善と上から目線で物を言うだけのやらない偽善」


まるで演説でもするかのようにルーはランディに力説した。


「僕はやる偽善者だからね、馬鹿にされても胸を張れるよ」


「何だか、格好良いね」


「いいや、ただ単に青臭いだけ」


「ははっ、ちょっとだけ軽くなったよ。ありがとう」


ランディは晴れやかに笑った。


「いや、ぼくは話を聞いただけさ」


どうと言うことはないとルーは肩を竦めた。


「最後はやっぱりあれだ。今後、あの盗賊はどんなことをすると思う? 軍人だった君の意見が僕は聞きたい」


ルーは風で乱れた金色の髪を撫でつつ、ランディに問うた。


「そうだな……話しのピースを繋ぎとめて行けば分かると思うけど、あの人たちは町から欲しい物を貰ってその後、何かアクションを起こし、混乱に乗じて行方を晦ましているんだろう」


手の中でチーズを転がし、ランディは纏まった自分の考えをルーに伝えた。


「多分、デカレさんならそうするし。俺も同じ手を取る」


ランディはチーズを齧りながら遠くの景色に視線を向ける。


「参ったね、僕も同じ意見だ。となると昨日出て来た最後の噂は現実的な脅威として考えないと、残念ながら」


同じく、ルーも葡萄酒を傾けながら連なる雪化粧をした山々を見る。


「間違いない。それ相応の覚悟があるなら、もしくは何も考えていないとするとあの人たちは合理的にことを進めるよ」


か細い声で声に悲しさを滲ませ、ランディは独白する。


「だからブランさんたちが波風の立たない計画を進行させている裏で誰かがもしものことを考えて動かなきゃならない」


無意識のうちに自分の手をぎゅっと握るランディ。


「まだ―――― まだ覚悟は出来てないんだけど、状況は許しちゃくれない。だから今は、今だけは真っ直ぐ、前を見ることだけに集中するよ。俺」


「その言葉、本当に心強いよ」


「君は手伝ってくれるかい?」


ランディの目に今は迷いがない。


「勿論、言い出しっぺだし。此処まで来て他人事何て卑怯過ぎるよ」


互いに向き合うと手を差し出して握る二人。互いに境遇が違いながらも手を握り、遂にランディは現実と相対する覚悟が出来た。


「そしたら後は最低一人。共犯者が欲しい、あてはもう決まっているのだけど」


手の打ちようはまだ幾つかある。ただ、人手が少し足りない。


ランディの頭には一人の人物がいた。


「仕方がない、あと一人はボコボコにしてでも無理やり仲間にするとしよう」


干し肉を咥え、口をもごもごとさせた後、ルーは言った。


「ならボコボコにするのはおれに任せてくれないかい?」


ランディは酒を口に多く含み、飲み込む。そして瓶の口を服の袖で拭う。


「昨日ぶつかって来てくれた分、俺もまっ正面からぶつからないと」


ランディは葡萄酒の入った瓶をルーに手渡し、力強く頷いた。


「ノアさん、意外と強いから僕は遠慮しとくよ」


瓶を受け取ったルーは葡萄酒を煽りながら答えた。


「そうだ。そろそろフルールも来る頃だし、言い訳考える?」


最後の最後で忘れていたフルールのことを思い出すランディとルー。


「だね、例えばフルールはある占いでそういう結果が出たとか言ったら信じてくれる?」


「無理だね、天地が引っくり返ってもありえない」


ルーは首を横に振った。


「じゃあ、あれだ。聞いた話を到底、信じられないような内容に脚色してフルールに全部、話すと言うのは」


そうであって欲しいと言う自分の願望を織り交ぜて言い訳に持って来たランディ。


「それが現実的だね」


それしかないかとルーも諦める。酒を片手に二人の問答はフルールが来るまで続いた。

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