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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第陸章 第二幕
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第陸章 第二幕 2P

どうやら気分転換をして来いという命令らしい。ランディはおっとりとした顔に思わず、苦笑いを浮かべた。今の自分ではレザンには敵いそうにない、悔しいが今は素直に甘えるしかないようだと諦める。ランディはメモに書いてある通りに戸棚から特にこだわることなく、目についたブドウ酒を取り出し、食物庫から干し肉とチーズを少し失敬した。チーズと干し肉は布で包み、ぶどう酒はそのまま。最後に肩掛けのカバンへ全てを詰め込むとランディは裏口から外へと飛び出した。合鍵で扉を閉める。


「そう、飛び出したのは良いけど行く宛てがないや。あははっ……」


「はあ――」と溜息をつくとランディは静かな町中を正門の方へふらふらと歩いて行く。


「仕方がない、あの場所に行くか」


何処へ行こうかと歩きながら悩んだ末に思い浮かんだのがノアと初めて出会ったあの場所。あの場所でもう一度、自分を見つめ直そうとランディは考えた。ランディには既に自身がやるべきことが見えている。昨日は感情が先行し、目を背けていただけ。後は腹を括るだけなのだ。言い方を変えるならば、甘い幻想から目を離し、最善の落とし所と向き合う覚悟を決める。残された時間が少ない以上、自ら進んで動かなければ、もう穏やかな日々を取り戻す方法がないのだ。


何か盗賊団には町を襲い続ける理由があるのかもしれない。しかしながら実際に行っている行動は看過しようがない。絶対的な悪として処分されねばならぬ。善悪と言う言葉が頭から離れないランディは立ち止って空を見上げる。今日も青空には太陽が輝いていた。


「俺は……人を断罪する正当な権限がないし、ましてや明確な基準さえ持ち合わせちゃいない。敵に感情移入をするもその敵に対しての妥協をして貰える手立ては何も考えていない。あるのは結局、盗賊団も含めて誰も死なずに自分の居場所を守りたいって欲望だけ―――― 本当に苦しいなあ」


人を裁く権限などそれこそ神しか持ちえないのだから。


「どうして俺、なんだろう? 何で一番良い解決方法が遠いんだよ……」


情けない声で問い掛けるもかつて神と崇められた太陽は答えを教えてくれない。裁く権能を主張する絶対的な拠り所や完璧な判断基準が人にはないから人は人を裁けない。法や裁判所があるじゃないかと思う者もいるかもしれないが、司法を司る裁判所だって社会秩序を守る為の一時的な機関に過ぎないのだ。そこに人間が介在する限り、私情や情勢、その他様々な因果に呑まれて一律の結果が出ることはありえない。だから裁判所は真実を知る為の場所という地位に収まるしかなかった。


正に人の限界を示す存在だ。また、法は所詮、人が作った物に過ぎず、自らの都合でしかルール作りがなされない。


毎年、附則や改正で意味が少しずつ変化し続けていることを見れば良く分かるだろう。


勿論、ランディとて例外ではない。一向に出せない答えを頭の片隅に置きながら。


一人、地面の方に視線を向けがちになり、目的地へ行く小さな通りをふらついていた最中。


「ランディ! やっと見つけたこんな所に居たの?」


歩いている通りの前方からからランディは不意に声を掛けられた。驚いたランディが顔を上げて見ると。声を掛けて来たのはランディから家一軒分ほど離れた所にフルールがいた。ちゃんと身嗜みを整える時間がなかったのか、髪の乱れが目立つフルールは真っ白なシャツに厚手の灰色のカーディガンと赤い腰巻き、そしてクリーム色のロングスカートに茶色の外套を羽織っており、手にはバスケットを下げている。何処かへ向かう途中らしい。そう言えばフルールとは昨日の騒動で逸れてしまい、その後も碌に話すことなく、バラバラになったままだった。


「―――― ああ、フルール。おはよう」


下を向いていたので声を聞くまで気付かなかったランディがうっすらと力無く笑いながらフルールに挨拶をした。


「『あぁ、フルール。おはよう』じゃないわよ、本当に! 買い物の時に逸れたまんまで昨日からずっと心配したんだからね、全く……」


呆れ顔のフルールはランディに小走りで詰め寄る。そしてお転婆そうな顔に安堵の表情を見せ、人差し指でランディの胸を指す。予想通り、と言うべきだろうか。ランディは怒られた。やはり相当、心配されていたらしい。ランディは騒動の現場を事細かに見ていたからフルールの安否は分かっていた。


だが、フルールの方は現場に居合わせなかったし、情報も少ない上、町の人々が全員、ランディのことを知っている訳ではないので安否が分からないのは当然だ。


「ランディのことを知っている人がこの町にはまだ少ないから誰に聞いても分からないしか言わないし、父さんは会議が終わった後は黙ったままで聞いても『会議室は人が多過ぎて確認出来なかった。でも人質にリストには名前がなかった、でもただリストに載ってないだけでもしかすると……』ってことしか聞けなかったの。そんでもって昨日は外出禁止で『Pissenlit』にも行けなかったから。今朝、やっとレザンさんから聞いて安心したんだよ?」


フルールは腰巻に手を当てながらため息を吐く。


「本当にごめん。君の所へ早くに顔を出すべきだったよね」


「そうよ! あたし、のんびり屋なあなたのことだからお菓子や物に釣られて知らない人の後を着いていちゃって人質として捕まちゃったのかと冷や冷やしたわ」


ランディの謝りにフルールがふんっと鼻を鳴らし、ふてくされた様子で皮肉を言った。


「あははっ、流石にそれはないよ、子供じゃあるまいし。これでも自分の身は自分で守れるからね、一応」


偉そうに胸を張るランディ。


「そっか、見た目と行動はあれでも軍人さんだったから大丈夫よね。心配して損した」


「何だか言い方が酷くないかい?」


「いつも通りじゃない」


「……確かに」


フルールの言葉にランディは肩を落とし、少しだけがっかりする。


一方、フルールはランディの様子を特に気にするでもなく、バスケットの中身を覗き、中身を確認していた。何か壊れやすい物でも入っているのか、慎重に扱っている。


「フルールはこれから何処へ行くの? 何だか大荷物だけど」


バスケットを見て、気になったことをランディはフルールに聞いてみることにした。


「ええっとね。丁度、あなたの所へ行くつもりだったの。今朝、レザンさんが町役場へ行く途中、父さんを誘いに来たのだけど。その時『ランディの様子が変だから時間がある時にでも相手をしてやってくれ』って頼まれたから」


バスケットを背中の方に隠し、頬を真っ赤にしてフルールははにかんだ。


「そっか、後でレザンさんに改めてちゃんと謝らないと」


申し訳ないと思ったがフルールの様子にランディは首を傾げた。


「ランディ、あなたのそう言う所は良いと思うけど、違うよ。『ありがとう』でしょ?」


「確かにそうだね。『ありがとうございました』だ」


ランディとフルールはお互いに顔を見合わせると小さく笑った。だが、いつもの他愛無い会話なのだが盛り上がりに欠ける。やはり、心配事が大き過ぎるので会話がぎこちなかった。


「それで……話は変わるけど人質に取られた人、特にまだ小さいブランさんの所のルージュちゃんやヴェールちゃんたちは心配だね」


「えっ、ランディ。あの子たちのこと知ってるの?」


「まぁ、ブランさんの所へ行った時。挨拶をしたんだ」


「そう……」


ランディは思い切って人質の。特にルージュやヴェールの話を敢えて切り出した。幸せや不幸は分け合うのが一番良い。幸せは喜びあえば、二倍になるし、不幸は共感すれば重さが二分の一になるからだ。フルールはランディ以上に『Chanter』への思い入れがある。フォローも出来るならやっておくべきだろう。


「うん。色々な人から聞いたけど、子供で人質に取られたのはあの子たちだけなんだよね。ちゃんとご飯、食べてるかな。怖いことされてないか心配」


思いつめた様子でフルールはいつものお転婆な雰囲気に陰りを見せる。


重い空気が嫌でもこの場を支配してしまう。


「昨日の会議室で聞いたけど人質に取られた人はきちんとした待遇が約束されていたみたい」


ランディは記憶にある情報を手繰り寄せ、何とかフルールを安心させようと試みる。

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