第伍章 第一幕 7P
「でも今の君は馬鹿だけだ! 軍人の端くれだったというならば何故、己の矜持を持って戦おうとしない? 今も君の心には生きているのだろう、違うかい?」
既に笑顔が崩れているノアは歯を食いしばり、ひたすらランディを煽り続ける。
「誇りがあったんだろう! 王国の剣として皆の希望と憧れ、命を一身に背負い、誰よりも先に戦場へ赴くことが! もしかして軍から離れたら忘れてしまったのかい?」
此処まで言われてもランディはノアという現実から顔を背けたままだった。
「そうか、今の君には何を言っても駄目だな……」
ノアは力なく言うとランディの胸倉から手を離す。ノアの力がなくなったランディは自力では立てず、へたり込んで固い地面へ落ちた。
「もう少しマシな顔になったらまた来るよ、ランディ」
ランディの様子に酷く落胆したノアは肩を落とすとランディから離れ、役場の方へ足早に戻って行った。ノアは出来ることが少なくとも、それでもランディを置いて先へ進む。
そしてランディ以外、誰もいなくなった薄暗い通りでは。
「―――― っ、分かっているんですよ、俺だって! 自分がどうすべきかなんて!」
響き渡るはまたもや置いて行かれたランディの悲痛な叫び。
何処に居ようが冷たい現実は直ぐ隣にいる。
逃げ場などと言う物は存在しない。




