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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第伍章 第一幕
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第伍章 第一幕 4P

 その弱点を補う為。勿論、計画の規格に合うような大きさの町や村を自分たちの持っている数少ない情報の中で吟味し、狙うようにしている。でもいつか、このパターンが読まれたら逆手に取られてしまうし、今まではイレギュラーが小さかったから問題なかった。


 そして今回は状況が違った。彼ら盗賊団の常識を超えた者がいる。その超越者は一度燃え出すと止まることを知らず、彼らの全てを燃やし尽くすだろう。


                  *


 盗賊団が着々と行動を進めている一方、ランディは町役場の一番広い会議室で始まる会議を後ろの方で立ったまま、聞こうとしていた。だが、周りの情報がいまいち頭の中へ入って来ない。ぼやけた思考の中をランディは今も泳ぎ続けている。ランディはあの一件から上の空になっていたのだ。今もどうして此処にいるのかさえ半分、分からない。ランディが呆然自失に陥ったのは事の展開があまりにも早く、衝撃的だったからだ。


 何も変わらない日常が。


 この町の笑顔が。


 明るさを持つ穏やかな色が。


 ランディの前から一瞬にして消えてしまった。


 なくならないと信じきっていた物、全てが奪われたのだ。


 その結果、ランディの中には一つの矛盾が生まれた。


 この町の小さな幸福を奪った者に対しての怒りとデカレから感じた印象の間に今は揺れ動いている。怒りの炎はランディの中で轟々と燃え続けている。この炎はちょっとやそっとのことでは収まりそうにはない。でもデカレと名乗った男は。


 少し話しただけとは言え、思いは、考え方は一緒だった。だからデカレの全てを疑い、二組、押し潰すことがランディにはどうしても出来なかった。若さ故の愚かさから起因する嘘であって欲しい、何か裏があるのだろうと舌にこびり付くような甘さ、その下らない甘さの所為で根拠のない妄想が頭の中で錯綜する。もう余裕がなく、後退りなど許されないと言うのに。つまる所、何もかもが中途半端で身動きが取れず、悩んでばかりなのが今のランディだ。


 情けないランディが何故、このような場にいるのかはレザンに名目上はオブザーバーとして実際の所はただならぬ様子が心配だからつれてこられた。


 会議の議長は町長であるブラン。


 一番前の議長席に陣取り、後ろに執事のセリユーを従え、隣には書記として役場職員のオウルがいる。シャンデリアの灯りに煌々と照らされた議場は議長席を囲む円形で町の男たちが年功序列で順々に座り、若者は後ろで立っている。ランディの近くを見れば、町医者のノアや役場職員のルーなどの顔見知りが何人かいた。このように夜遅くまで会議が出来なかった理由は盗賊団との交渉があったり、数少ない情報を纏めに奔走していたからだ。


 そして一言で場内の状況を表すとすれば『混迷を極めていた』が正解だろう。皆が一様に沈黙を保ったまま、事態の把握が現状に追い付かず、それぞれが困惑と恐怖の色を顔に見せていた。そして大体の人数が集まった所で会議の始まりにあたり、ブランからこれまでの詳細な経緯、盗賊たちとの間にもたれた交渉の内容が皆に話された。


「いやー、困ったことになったね。皆、態々集まってくれて本当にご苦労」


 自身も相当に追い込まれている筈なのだが他人を気遣い、なるだけ緊張解すような口上をするブラン。


 しかし、町長が錯乱していては元も子もないのだ。上に立つ者は如何なる時も冷静さを欠かさず、全てを理解し、皆を引っ張って行ける者でなくてはならない。『統括すること』は首長の義務であり、手腕が問われるのだ。


「まず、現在の状況を軽く説明しよう。盗賊たちの構成人数は三十人弱。目的は勿論、金品と食糧。事の始まりはどう言うべきかな……彼らが事を起したのは昼過ぎだけど皆から寄せられた情報によると朝から暗躍していたらしいからね」


 ブランは「まあ、其処ら辺は曖昧でも良いかっ」と言い、綺麗に髭が剃られている顎を撫でた。


「茶色の外套。これだけで何となく分かるとは思うけど、彼らは朝からこの町の詳細を聞いてきたり、観光目的の旅人やらが観光地の中継地点として此処を訪れるのは山の道が通れるようになる春から。その上、行商人でもなければ、まだ冬の蓄えが残っている筈の中途半端なこの時期に大量の買い物をしたりと不審な点が多かった。だね、オウルさん」


「ああ、ブラン町長余りに印象が薄かったので深く考えていなかったが今、考えてみれば不審な点が多い。茶色の外套を着た男たちがうろついていたのは諸君の記憶にもあるだろう。実際、私も大通りでも役場でも何人か見た」


 のらりくらりとした口調で軽い雰囲気を醸し出すブランと終始、しかめっ面なオウルの言葉に町民が一様に頷く。


「結論から言うと、彼ら盗賊団は最低限の動きがとれるように準備をした後、この町を電撃のように強襲したって訳だ」


 事のあらましを説いたブランが苦笑いを浮かべる。


「彼らの素性は今、此処ら一帯の巷で有名の可笑しな仮面を被って町や村を襲う時代錯誤な盗賊らしいね。ご丁寧に名乗ってくれたし」


「間違いないだろう。『Roi』から臨時の通達に記載されていた人数と特徴が合致している」


「まあ、此処最近二、三カ月くらいで起きている事件だから報告もおおざっぱな物しかなく、立ちまわりも上手いから調査も思ったように進まない。憲兵隊も王国軍も春になって本腰を入れるつもりらしかったから確かな情報がこれしかないのが現状なんだ」


 溜息を吐きながらブランは両手を上げてお手上げの格好をした。


「今回の賊は今までの賊。まあ、殆どが伝説やら歴史と成りつつある上、主流は組織犯罪集団、俗に言う暴力団へ移り変っているのだから宛てにならんが何かが違う。私なりに盗賊を型に当てはめるならば、綿密な計画を練って満を持して町を襲う計画的な犯行と手当たり次第に襲う場当たり的な犯行のどちらかと考える」


 大まかな概要を話したブランから入れ替わるようにオウルが細かな点について自らの考えを交え、集まっている者たちへの説明を引き継いだ。


「しかしあの者たちは計画性を備えてありながらその癖、何処で突発性が見え、行動に隙がある。例えば、計画があるのなら何日も前から偵察や物資の調達をしているだろう」


「僕も其処は気になっていた。実際、盗賊なんて物は見たことないから偉そうなことは言えないけど、何だか中途半端だったね」


「ああ、一昔前からそうだが大抵が大小関わらず、ほぼ無計画の荒くれ者が主流だった。綿密な策略を立てるのは何処かと繋がっているからあまり派手なことが出来ない組織だな」


 盗賊団の行動を分析し、オウルは少ない情報に補填して行く。


「町を襲うにあたっておおよその手順をマニュアル化していると考える。手間暇かけて何処か一つの町を狙うのではなく、また何も腹案持たないでただ、目に着いた町を襲うような短絡的で力業、そして失敗のリスクが大きいこともしない」


「まあ、オウルさん。これ以上考えるのは後にしよう、大体のことは皆も掴んだと思うし。何より話が逸れちゃう」


 深く、深く思考の森へ分け入ろうとするオウルの肩を叩き、ブランは待ったを掛けた。


「済まない、出来るのなら色々と考えて見て何か解決の糸口が掴めると思ってな……さて、後は賊の要求だが、ブラン町長」


「うん、任された」


 終始、笑顔だけは崩さないブランが席から立ち上がる。


「じゃあ、本題に入ろう。彼らが要求したのは身代金が五千ルボロ、それと町にある食糧と医療品を少しだった」

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