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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第伍章 第一幕
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第伍章 第一幕 3P

 デカレは『Chanter』に銃器などの獲得を期待していたようで残念がる。


「私たちも未だに使い勝手が良い剣や槍、ハルバートが主流……運良く、Dの持っている『Industry』製の『18C-7』が一つだけ。はたまた、王国軍でも小火器や重火器を取り入れていますが、近接武器は健在。銃は遠距離から攻撃が出来るのは素晴らしいです。でも威力やスピードがイマイチで銃は持っていても意味がないと言うか何と言うか……仕様がないですよ」


 Aは隣に置いている剣に手を掛けながら仕方がないと首を竦める。


「まあ、機関銃や大砲ならば話は変わって来るのですけど」


「いや、其処まで来ると何だ……N。戦争でもするのかになってしまうからな」


 真面目に考えて意見を出したNにDが声に苦笑いを乗せ、答えた。


「う――――ん。銃やら憲兵隊で思い出したけどそれにしたってこれぐらいの町なら幾らこの地域が比較的に平和だったとしても兵士を何人か置いても良いのに」


 Oは猫背からから後ろに手を付き、背延びをするように体制を変えながら言った。


「それは難しいでしょう。此処ら一帯は一応、王都に駐屯している軍や憲兵隊の管轄です。専用に兵や憲兵隊を置くのは大都市や重要な拠点の防御が先決で常備機能するのは自警団が関の山と言うか……」


 Aが町で集められた情報や自分が持っている知識を繋ぎ、考えうる理由を提示する。


「確かに田舎にも争い事がない訳じゃないが、多くの凶悪犯罪は大都市に集中しているし、大きな盗賊団も大抵、出る場所の相場が決まっているからな。後は国境付近だ」


 Dは夜の帳に包まれた窓の外から部屋の者達に目を向けた。


「防衛に関してはとことん甘いがしかし、それにしてもこの町は揉め事とは程遠い場所にある良い所だ」


 粗方、話し合いの決着は付いた。だからこの話は終わりにしようと別の話題を仲間に振るD。


「確かにそれは私も感じました。少しだけしか見て回れませんでしたが、平和で時の流れもゆっくり、まるで昔の我々が欲していたような理想を全て集めたような……正直、悔しいです」


 Aは自分自身が持った心残りを吐露する。Nが無言のまま、首を縦に振った。


「はははっ、昔自分たちが抱いていた淡い理想、欲していた小さな幸せの見本みたいなこの町をこれから自分達でぶっ壊すって言うのだから皮肉だよね」


 先の発言と一貫して全く空気を読もうとしないOの発言は鋭かった。


 一瞬の間が空き。


「―――― 皮肉だな、本当に皮肉だ。だが、それは今までもして来たのだ。この町が特別という訳ではない」とDは自身に刻み込むかのように重ねて言葉を口にする。


「さて、暇になったことだし……そろそろ、僕は交渉の内容とこれから二、三日のどう動くのかを見張り組に伝えてこようかな? 誰か一緒に来ない?」


「H。面倒なので私たち三人で行きましょう。勿論、何かあっては困るのでDは此処で待機して貰う……のは駄目ですね。下で休憩をしているVたちに話を聞いて来て下さい」


「仕方がない、分かった。そうしよう」


 腰に剣を携えて作戦室にいた四人は全員で下へ降りることに。Dを先頭に階段を目指す。


「うん? 皆、揃いも揃って何処へ? これから何か大きなことでもしでかすんですか?」


 彼らは下に降りる途中、ある部屋の扉の前に立つHに出くわす。


 腰に剣をさしているHは暇を持て余していた。


「ああ、H交渉の結果とこれからの予定の目処が立ったからな。皆へ伝えに行く所だ」


 Hの問い掛けにDが反応する。


「なんだ、そうっすか。なら早く外の奴らの所に行ってやって下さい」


 Dの話を聞いたHは頭の後ろで腕を組むと雑な返事を返す。


「お前は聞かなくて良いのか?」とDは首を傾げた。


「見張りのシフトは何時も通りなのとこれからの行動も予想は付いているし、交渉の内容は俺も参加していたんで大体知ってますかんね、いらないっす。それに……」


 Hが扉に親指を向けて合図をした。


 差し詰め、此処で作戦の話をすると盗み聞きされる可能性があるからということだろう。


「理解が早いから本当に助かる」


「当たり前っすよ、当たり前」


 機転を利かせたHはどうということはないと言う。


「ふっ、そうだな。そう言えば、中の様子はどうだ? 変化はあったか?」


「特に何も変なことはなしですね。窓の下に見張りがいるのも効いていますよ」


「それは良かった。後、少し時間が経ったのならば、見張りは私が交代しよう。お前も疲れがあるだろうに」


「いいえ、交代は要らないっす。其処まで忙しくなかったですし」


 気さくな雰囲気で中の様子を説明し、交代の提案をやんわり断るH。


「いいや、駄目だ。私以外だと特攻隊長はOとお前だけ、もしもの時の為に出来るだけ温存していたい」


「はっは! 本当にデカ……ああ、Dは人使いが荒いや。じゃあ、お言葉に甘えてもう少ししたら交代お願いします」とHが豪快に笑う。


「了解した」


 Hに見送られ、Dとその他の者たちは下に降りて行く。


 彼らの背にはどこに居たとしても覚悟の一文字があった。


 『Chanter』を襲った盗賊団の策略は町の中に少しずつ仲間を潜入させて行き、潜入した者は個々で与えられた任務をこなし、決められた合図で集合するという極めて単純な物だった。空き家の前にいたサブリーダーの四人は潜伏先の確保と様々な情報の伝達と集まった情報を纏める。そして拠点の前に止めてある盗賊団所有の馬車の見張りも仕事の一つだ。散らばっている二十人弱は町の偵察と人質の拉致を第一の任務とし、他にも食料の買い出しやその他の雑事を受け持つ。今の時代、どの町も役割分担はある程度されていて例えば、役所など目星の付く所に行けば、情報は手に入る。それが終われば力の弱そうな者を見繕って連れ去れば良い。


 これはどの任務を持っていたとしても当てはめる物を変えるだけで支障はない。因みに空き家の前に止まっていた馬車は実を言うと彼ら盗賊団が所有している物だ。例の宣言の後、空き家の前に止められていた馬車から団員が荷物と五人の負傷者と思われる人間を空き家に運んでいる。


 また、下手な疑いを掛けられないようにと必要最低限の武器、例えばナイフ以外は馬車に預けていた。その上、匂いや清潔感も気に掛けて出来るだけ影が薄くなるように行動、一つ一つに気を使っている。何よりも誰にも気に止めないような平凡さ、これがこの盗賊団の一番の強みだった。人知れず、懐へ飛び込んで役割分担をした上、速やかに行動する。また、簡単だがチームワークが試される作戦だ。


 チームワークという言葉は言う分には簡単だが実際に行動に移すのはとても難しい。計画になかった予期せぬ事態などをもろともせず、淡々と遂行するということは恐ろしく大変だ。毛糸のセーターのほころびと同じように一本でもはみ出てしまえば瓦解するのは簡単だ。この盗賊団は一筋縄ではいかない。


 彼らと相対するにはそれ相応の覚悟とチームワークを超える何かが必要だ。


 ただし唯一、盗賊団にある問題は日数。当然、半日でこれら全てを円満に終わらせるのは至難の業。また、情報も事前に調べることは無理であまり手の込んだ作戦はこれ以上出来ない。だからマニュアル化した作戦をまずは作り、それを当てはめて結果を出す。


 一から十まで全てがオーダーメイドの個々人に合わせる職人技ではなく、物を作る工程の殆どを機械化し、逆に人を型に嵌め込むような既製品には大なり小なりの違和感がある。例えば服なら人によって体型が変って来るから袖の長さや肩幅、腹まわりの窮屈さなどを感じることは誰にでも経験があるだろう。町も同じだ。


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