第伍章 第一幕 2P
「だからあの日、一つの提案をさせて貰った。『我々の小さな人生に一花咲かせる為、世の中の不条理さを訴えかける盗賊にならないか』と……だから私はもう一度聞きたい。お前たちは後悔してないか?」
Dは三人に問うた。
痛々しい静けさが四人を包み、何かが永遠に成り掛けた。しかし、その沈黙をOが破る。
「Dも言ったけど、僕たちはもう悲しい経験をした。そして同じような同胞がまだ多くいるのにこの期に及んで自分たちだけが幸せになるのは偽物にしか見えないよ。だからこれで良かったんだ。勿論、これは皆の総意だよ?」
姿勢を正した三人が仮面の下から真剣な眼差しを向ける。多分、誰に聞いたとしても同じ答えが返って来るだろう。
「本当にありがとう」
Dは自分が孤独の中にいないことを改めて知った。どんな形にしろ。まだこの世に絶望するのは早いと分かったDは自分が望む物を手に入れることが出来たのだ。現実を理想のはざまでもがいていた先にあった物はやはり優しさと希望だった。Dに怖い物はなにもない。でも成功の良いんに浸ることや、過去の出来事に思いを馳せるのは止めて現実にもどらねばならない。現実は直ぐ其処にある。此方の事情を察して止まらないし、決して目を背けることも出来ない。
「さて成功の祝いも結束を固めるのも良いが……そろそろ現状の話に戻らねばなるまい」
「そうだね、やるべきことはまだまだ沢山あるんだ。気を引き締めて行こう」
鶴の一声で三人の纏う空気は一瞬にして固くなる。
「まあ、他にも下にいる者たちに労いや現状の話を直ぐにしようと思うが、その前に――全体へ正確にそして素早く伝えられるよう出来るだけ不安要素は潰して置きたい。お前たちも交渉に参加していたのだから分かっている通り、町長と人質解放の条件と期限を話しあった」
「えぇ、概ね成功したと言っても過言ではないでしょう」
「しかし私は彼らの対応の中で少し違和感があった。勿論、お前たちにもそれそれなりの引っ掛かりを感じたかもしれん。それを今、考えよう」とそれぞれが肯定する。
「町長は全ての条件をのんでくれましたね。私は内心、とても驚きましたけど」
「要求した金と食糧はそのまま。私たちが出て行くまで此処の建物周辺の指定した範囲に住む町民の一切を排除、最後に約束の期限は今日も含め、四日後の朝方まで」
Aは少し前まであったこの町の町長ブランとの交渉の結果を諳んじる。
「今までの村や町なら全部の要求に必ず一つはケチ付けてきたよね。身代金の金額を下げてくれとか、期日を延ばしてくれとかね」
Oが一つ、一つボロボロの包帯を巻いた指を折りながら淡々と並べたてる。
「はっきり言って此方が引けを感じるほどでした。もしかしたのならば、相手には何か策でもあるのでしょうか?」
そわそわと忙しなく体を揺らすNは相手の裏を読み、もしもの事態を考察した。
「それはないだろう。単に町の実質的な防衛に関してなら『Chanter』には自警団もあると言う報告はBから上がっているも専門の人間を雇う訳ではなく町の住人で運営しているらしい」
「はい、私もそれは全員が調べことをTが会議中で私たちがいない間で簡単に纏めてくれた報告書にもかいてありましたね」
「また、憲兵隊や王国軍は我々が問題を起した『Alto』の町の一件、また溶けきっていない山の雪の所為で此処へ来るのに少なくとも我々が指定した期限以上の時間が掛かるから辻褄が合わない。そしてこれは私の直観だが……」
「聞かせて下さい、D」
「A。私には町長の飄々とした雰囲気はどちらかと言えば、何かをひた隠しにしている虚勢があった。溜息をついたり、倦怠感を隠せていない様子がちらほら見えた」
声色に戸惑いはあるもDが自分の感じたことを説明をした。
Dは自分たちの所為で静かになっている外の町の景観に目を向けながら更に続ける。
「もしかすると我々は知らず知らずのうちに何か相手の弱点を握っているのかもしれん。まあ、それは今回二十人弱もの人質を取ったことに違いないのだろうが……」
「そう考えるのが妥当だね。後は弱みなり、Nの言うような策に気がつけさえすれば万々歳だ」
Oが全員の意見を簡単にまとめ、良いとこ取り。
「さて、大体の疑問点もすっきりしたことだし。次はこれから町にいる間の予定を簡単に考えて行きますか」とOが次の議題を示した。
「そうですね……外の見張りはやはり今の十人で二人一組。そして夜は五時間ごとに交代、昼は四時間と三時間を交互にということで。勿論、D以外の私達もシフトに入れてですが」
Aが当面の役割分担を提案する。
「それが良いだろうな、だがA私も見張りに入る。亜鉛人が現場を知らなければ、突発的な事態の対応が遅れる」と言い、Dは頭を横に振る。
「私は反対です!」
「反対はなしだ」
Aにそれ以上言わせまいとDが言葉を遮った。
「分かりました、では朝と夜に一回ずつで。人質の見張りは休んでいるものと相談してやって下さい。それ以上は譲れませんよ?」
仕方なく、譲歩案を出すA。
「お前は余裕を持て。私に気を遣い過ぎだ」
Aの要らぬ気遣いに溜息を吐いた、D。
「さて後は今後の予定だが、明日は何もせず、休んで疲れを落とす。三日目は下準備とまた、交渉の席を持ち、居最終確認。四日目は午前中に準備された金と食糧を馬車に積み先に出発させ……そして正午前、見せしめに人質を全て殺した後、同時に町へ火を放つ。我々は騒乱の最中、散って予め決めてある集合場所で落ち合う」
Dは機械のように感情の籠っていない声で計画のあらましを説明する。
Aが懐から徐に紙を出すとメモを取り始めた。
「……はい」
「段取りはそれで良いと思う」
「異議なしです」
他の者たちは賛同する。彼らはただの罪人で他人のことを考える余裕はない。
「火を放つのは此処ら一帯、用意は馬車に略奪品を積むのと同時進行で良いだろう。はっきり言って油を撒いておけば良いだけだし、早めに用意をすると気付かれる上、此方が危ない」
Dの言の葉を一言一句漏らさず、メモを取っていたAは考え事が出来たのか、ペンを止め、回し始める。
「そうですね。Dの案がベストでしょう」
少し考えた結果、他に良案を思いつかなかったAが首を縦に振る。
「勿論、三日目に細かな段取りを説明する。出来るだけ私が皆に伝えて行こうとは思うがお前達も各人に伝達を密に頼む」
「はい」
「はい」
「りょーかい」
Dは続けてこれまでの経過についても触れる。
「因みに物資と食糧の方はどうなっている?」
此処でDが細々した現状の整理をする為に三人へ問うた。
「食糧は人質とわたしたちの分を合わせても買い出した物や前回の村を襲った分で充分、足ります。弾薬に関してはやはり此処も駄目ですね」
Nが自分の隣に置いていたカバンから紙の束を取り出し確認した。
「銃器関連は値が張る上に手入れも面倒、使う機会はあまりないしな。ましてや新型の小銃や拳銃は殆どが軍の統括下。市場に出てもとんでもなく高い。後は大きな組織関連がそう言った面では強いのだが……市場に出回っている物は黒色火薬の紙薬莢の旧型鎖閂式『K-7』と『K-7』を改良して出来た金属薬莢の『K-8』。しかし、『K-7』は、施錠式と黒色火薬の相性が悪く、使えば使うほど、中の掃除が必要で命中率が下がるばかりで赤さびも酷い。『K-8』は、威力が凄い、改良点では速射時の操作性の向上、一発装填が基本だが、重重倉の追加も可能。だが、最新式の『K-9』には遠く及ばない。酷いと民間人の知識の無さを利用して『K-9』と偽り、外見だけ似せた骨董品級の物を平気で売りつける馬鹿もいる。拳銃に関しても大差ない。少し期待はしていたのだが無理だったか」




