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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第伍章 第一幕
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第伍章 第一幕 1P


                 *


 盗賊団が占拠する空き家は二階建てのかなり大きな建物だった。一階は人が三十人は楽々、入る広さを持ったフロアで、飲み屋だったことを連想させるカウンターや戸棚がそのまま残されている。フロアはほぼ空っぽと言っても過言ではなかった。何故なら何処の店も廃業をする際には普通、テーブルや椅子は売り払うので当然ないし、出来るだけ損失をなくす為、建物の全てがひっくり返されるからだ。


 石壁は所々掛けており、雨漏りの所為でカビが生え、隙間風が何処からともなく吹いてオイルランプの灯を揺らす。そんなボロボロの壁にはブロードソードやハルバート、槍、弓など幾つかの武器が立てかけてある。また、床は少し前まで部屋全体には埃が満遍なく積っていたが、今は盗賊達がある程度綺麗にした。部屋全体に形容しがたい湿気た嫌な匂いが広がっている。中では十五人ほどが寛いでいた。負傷者と思われる人間が五人ほど、毛布を被せられて川の字に寝かされていた。


 時折、ゴホッゴホッと言う咳や呻き声が聞こえる。後の者は全員、いつでも行動が出来るようにとフードは脱いでいるも仮面を付けたまま。カウンターに腰掛けて話をしたり、病人、けが人の看病、武器の調整をしている。そして階段を上がって二階には部屋が五つほど。今はそのうちの四部屋が盗賊団により使用されている。一つは人質として捕えている町民たちを集めた部屋、二つの部屋は物置と仮眠用に。最後の一つ臨時の作戦会議室となっていた。


 作戦会議室では四人の者が集まっている。会議室には一回のフロアと同様、物がない。明かりもランプが一つ。質素な臨時の会議室では四人いた。仮面に彫ってある文字はD、A、N、Oの四人。リーダー格のメンバーだ。


「お疲れ様でした、D。今まで襲った幾つかの町や村よりも大きかったので一時はどうなるかと思いましたが……完璧でしたね」


 AはD、つまりはランディにデカレと名乗った男に話し掛ける。


「いや、これからが本番だ。気を抜かず、『一歩ずつ計画通りに』が一番重要だ」


 隣に剣を立てかけたDは部屋に一つだけある窓の枠に腰掛けていた。


 他の者達は全員、カバンや剣を床に置き、床で胡坐を掻いている。


「まず始めに。それぞれの任務遂行ご苦労、良くやってくれた」とDは三人を労う。


「いつも通りだったからね。余裕、余裕」


 Oは欠伸交じりの声で邪険に返事をし。


「まあ、これと言ってたいしたことはしていませんし」


 Aが照れ臭そうに言う。


「やはり、作戦成功一番の要因はHがいつも言うように内容がとても簡潔で人員に合わせてやるべきことを必要最低限に絞ったからでしょう」とNは謙遜した。


「私としては皆の手際の良さが一番の勝因だったとしか言い様がないのだが……」


「まあ、其処の所はDの作戦指揮と運の良さ、チームワークが成功の要因としましょう」


「そうだね」


 成功の余韻に彼ら盗賊団は少しだけ酔いしれる。『Chanter』の町は此処ら一帯の村や町の商売を盛り立てる一翼を担っていからそれなりに物資も資金もある。


 これから当分の間は無理をしなくとも良い。


「何だか捕らぬ狸の皮算用ではありませんが、この町から絞り取れば色々とやれることが増えますね」


「そうだな、N。本当に心強い限りだ」


 Dや周りの者たちの声も明るい。


「それにしても皆、手際良くなったね。僕たちのことを他の住人はただの旅人としてしか見えていないし、始めの頃と比べれば大きな進歩だよ。はっきり言って最初の時は此処まで大きな町に攻め込むなんて絶対、無理だと思ってた」


 仮面の下にある顎を掻きながらOがのんびりぼやいた。


「そうですね、O。私も含め、全員が自信を持って普通の旅人を演じられるようになりました。初めの頃は自然に振る舞えなくてよく首を傾げられ、焦ったものです」


「私もよくDに助けられました。今も少し怪しい所がありますけれど」


 AとHは姿勢を崩しながらふっと笑いを漏らす。


「だから僕は素直にDが凄いと思う。一人で騙すだけでも大変なのに前に立って皆の見本として振る舞うだけでなく、フォローもしてくれた。感謝しているよ」


「全くです」


「私は少し手伝いをしただけのことだ。本当に褒められることをしていないのだがな。お前たちは例え、私がいなくとも出来ていただろう」


「またまた御冗談を。あなたがいたからこそ此処まで出来たのですよ、O」


 Nは両の手を振り、否定する。


「私たち一人一人は何処かしらでDの影響を受けています。Dは謙遜して私たちにも出来たと言いますが、少なくともDがいなければ最初の計画は失敗に終わっていました」


「そうだよ、運良く全員が生き残れたとしても今と同じようなレベルになるのは倍以上の時間が掛かっていた。でも多分、全滅するのが十中八九だったよ」


 三人がそれぞれ、仮面の下から心の籠った言葉を投げ掛ける。


「元々、あなたがいなければこうして集まることもなかったんです」


「……いや、それを言うならば盗賊などと下らないこと事態を始めるべきでなかった。そうすれば」


「D、皆の能力や功績にきちんと目を向けられることも素晴らしいし、また我々の行動が正しくないからと言って自分を卑下することも正しいことではあります。でも程々にして下さい。これ以上は士気に関わります。あなたは凄いのです。あなたは死に掛けていた私たちにまだやるべきことを教えてくれました。勿論、私たちの間だけではあなたの行動は評価に値します」


 Aがぐっと手を握る。


「詰まらない結果を見て勝手にうちひしがれ、絶望していた僕たちはただ、全部を呪って死を待つだけだった。死に場所は疫病で壊滅していた故郷や大きな町の薄暗い路地裏。Dがいなければもっと酷かった」


 嫌なことでも思い出したのかのように震えるO。そう、彼らはDが纏め上げなければ、そもそも此処に居なかった存在だ。皆が独り寂しく、死の床についていただろう。


「だから自分が必要ないなんて言わないで下さい」


「―――― うむ。確かにA、お前が正しい。私も含め全員がいなければこの盗賊団が完成しないことを忘れていた。済まない」


 Dは頭を下げる。


「実を言えば私に自身がないのは先にも言ったことが関わって来る。私はお前たちに負い目を感じているのだ」


 Dは弱々しく心に秘めていたものを吐露する。


「今更だとは思うがこの際、言っておこう。私はお前たちをこのように人のすることではない盗賊なんぞに誘ったことを間違いだったと強く思っていた」


 意外な、いや心の何処かでは感じていた筈の秘め事に他の三人は息をのんだ。


「結成時のメンバーに。Hを含め、お前たち四人をついて来いと誘ったのは一人一人にあった第二の人生のようなものを見つけてやりたかったからだ……」


 言葉の節々に後悔を見せるD。


「例え、故郷がなくなった上、家族との永遠の別れがあってもこの世はまだ捨てたものではないと自分に言い聞かせたかったのだ。お前たちの幸せと言うものを見てな……しかし、一度知った心が凍てつくような寒さや寂しさをお前たちはささやかな幸せなんぞ見てはいなかった」


 全員が一様に黙り込んだまま、各々が心の内に持つ冷たい場所と向き合っていた。


「それは一緒に旅をしていて空虚な目をしたお前たちを見てよく分かった。増えて行く仲間も同じだ。お前たちは例え、新たな幸せを手に入れても……無き故郷、家族を思い、はたまた我々の与り知らぬ所で同じ境遇にいる者たちのことを憂い、満足は出来ないだろうと。そう、私のように」


「お前たちは私と似ているからな」と寂しげな笑いを上げながらDは窓枠に拳をぶつける。

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