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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅷ巻 第肆章 再誕と誕生
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第肆章 再誕と誕生 3P

「何とでも言いたまえ。それが大人ってもんさ」



「正直に言うね? さいこーにダサい」



「身長が大きくなっただけで中身は子供」



 止まぬ抗議の声。これでは、二進も三進も行かない。どうすれば、上手く切り抜けられるか。考えた結果、ランディは確実な手立てを思いつく。



「ならこうしよう」



「?」

「こうしよう?」



 双子に語り掛けながら袋を背負い、徐に店の入り口へ歩み出すランディ。不可思議な行動に双子は首を傾げる。ここまでは狙い通りだ。双子が完全に油断した頃合いを見計らって扉を開け放ち、ランディは高らかに宣言する。



「今から駆けっこして俺が先に着いたら俺が決めた予算内で。君たちが勝ったら言う通りにしてあげよう。よーい、ドン」



 合図と共に全速力で小道を駆け出すランディ。面を食らった双子は、立ち尽くすも直ぐに後れを取った事に気が付き、顔を見合わせた後、走り出す。



「っ! 信じっらんないっ!」



「ズルして勝とうなんておとなげないっ!」



「ははっ。悔しかったら追い付いてご覧よ」



 ランディに追い付こうとするも距離がどんどん離れて行く。双子は、息を切らしながら文句を言うもランディは聞く耳を持たない。双子の言う通り大人気ない賭けだ。だが、夏の陽気を背に走る三人にもう暗い影は一つも無い。


 これでやっとまた一つ。他愛の無い日常が帰って来た。



「なっとくが—— ゆかぬ」



「おっきなチョコレート持って口の周りをベタベタにしながら言われても……ねえ?」



「——っ! ——っ!」



「ベルも何か抗議したいって強い意思は伝わって来るけど。全力でビスケットもごもごしてたら内容までは分からないよ。くれぐれも喉に詰まらせないでね。後、二人とも。今日いっぺんに食べるのは駄目だからね? 俺が菓子、買い与えた所為で夕食、一口も手を付けなかったってセリユ―さんから小言は言われたく無い」



 結局、賭けはランディの一人勝ち。無茶な願いは叶えていないものの、大きな紙袋を両手に抱えるルージュとヴェールは、ランディに買い与えて貰った菓子を頬張っていた。



「分かってるって」



「育ちざかりだからだいじょーぶです」



「ほんとかなあ……」



 口うるさく小言を言うランディに双子は、胸を張って答える。果たしてそれを完全に信頼して良いのだろうか。ランディは、疑ってしまうも信じるしかない。何方にせよ、宿屋まではそう距離も無いのでそんなに多くは食べられないだろう。きちんと見張って置けば後々、苦情が来る事も無い筈だと自分に言い聞かせ、納得するしかない。



『それにしても——』



 最近、何かと出費が大きい。後悔はしていないものの、そろそろ節制をせねば。困窮している訳では無い。きちんと貯えもある。されど、油断をして良い理由にはならないのだ。節度ある生活には元々、慣れているのでそれ程、苦でもない。



「暫くは……大人しくしておこう」



「何かおっしゃいました?」



「なーんにも。そんな事言ってる間に宿屋に到着だ。ほら、お菓子片づけて。後、口元もこれで拭いて。チョコやらビスケットの欠片を顔につけてたら幾らご令嬢と言っても恰好が付かない。君たちはブランさんの名代……つまり代わりで来ている訳さ。だから失礼が無いよう十分に気を付けるんだぞ?」



「わかた」



「はい」



 素直に手拭いで口元を拭われる双子。忠告にも頷くと何の躊躇いも無く、菓子が詰まった紙袋をランディの肩掛け鞄へ。額に手を当てて呆れ返るランディに双子は肩を竦める。



「最早、何も突っ込まないぞ?」



「わたしたちがつっこんだからだいじょーぶ。だってお客のれーじょーがおかしのふくろ持ってあらわれたらだいなしでそ?」



「わたしたちにはじをかかせないで下さい」



「はいはい」



 お高くとまった扱い辛い娘の様な物言いに言い返す言葉も見つからない。一体、何処で学んできたのやら。身近に悪い見本は、沢山あるのでそのどれかだろう。だからと言って淑やかで強かな女性の真似をされてしまってもそれはそれで困りもの。頭を悩ませた所で今直ぐに解決出来る訳でも無いのでランディはさらりと流す。



「服も大丈夫? 菓子くっつけて無い?」



「だいじょーぶ」



「もんだいなく」



「服の皺も伸ばしたかい? 裾が出てたりしない? 靴紐は?」



「おかあさんか」



「君たちになら母と呼ばれてもやぶさかじゃないね」



「だれもがすれちがいざまにふりかえる高貴な女性になってから出直して下さい」



「それは、無理難題な話だ」



 宿屋に入ると双子の恰好を細かく確認し出すランディ。そんな忙しないランディを双子は、ぴしゃりと跳ね除ける。皮肉を言われつつも可笑しな箇所が無い事を確認し、ランディは胸を撫で下ろす。



「そう言えば……帰りはどうするの? 俺が送って行く手筈かな?」



「いいえ。役場でとうさんとおちあいます」



「帰りはゆうがに馬車」



「なら、心配は無用だね」



 宿屋の主人からレーヴが滞在する部屋を聞き、廊下を歩きながら帰りを気に掛けたが、それも杞憂に終わる。それから目的の部屋の前まで来るとランディは、双子の方へ振り返った。



「この部屋だね。念の為、二人に注意しておくけど。相手は、職人気質で気難しい爺様だ。言葉遣いくらいならそんなに目くじら立てない。でも不躾に室内の私物を弄ったりしたら拳骨が飛ぶ。後は、暇そうにふらふら体を揺らしてたりするとしゃきっとしろって怒られる」



「……気をつけます」



「がってんしょうち」



「じゃあ、行くよ」



 何せ、相手が相手だ。普段から地位の高い客人を相手にしている難解な老人だからこそ、余計に気を張ってしまう。最後の忠告も済ませ、ランディは背筋を伸ばして扉をノックする。



「入り給え」



「失礼します」



 室内から返答が聞こえ、ランディは双子を伴って部屋に入るとありふれた簡素な室内で備え付けの椅子に座り、煙草をふかす背広姿のレーヴがいた。



「坊、やっと参ったか。てっきり忘れられているものだと」



「申し訳ございません。こんなぎりぎりに。何かと多忙だったもので」



「仕方があるまい? この地で生活を営んでいるのであれば。坊にもこの町での地位や役割がある。それを優先するのは当然だ。無理強いをしていた訳では無かった。寧ろ、某の考えが足りなかったな。申し訳ない」



「いえ、折角のお誘いです。必ずお伺いする心算でした」



 温和な表情でランディを迎え入れるレーヴ。そんなレーヴにランディは、深々と頭を上げた。訪れた理由は私用もあるが、先に片付けねばならぬ事がある。ランディは早速、後ろに居る双子を紹介も兼ねて自分の前へと立たせた。



「さて……俺の私用の前に。レーヴ翁。本日は、客人をお連れしました」



「例の件か……町長の息女が名代で訪れると聞いている。童たちで間違いないか?」



「はい。『Chanter』町長、ブラン・クルール氏の息女。ルージュ嬢とヴェール嬢です。翁と知己であり、またブラン氏とも家族ぐるみの付き合いがある俺が適任であると。此度の仲立ち、仰せつかまりました。何卒、良しなに」



「ルージュ・クルールです」



「ヴェール・クルールです」



 ランディの紹介に双子は、固い表情でぎこちない屈膝礼でレーヴに挨拶をする。その姿を目にしたレーヴも立ち上がると丁寧な辞儀を返す。



「そう畏まるものではない。坊が仰々しい所為で童たちが固まって人形になっておるぞ?」



「俺の立場も考えて下さいよ。かなり神経を使ってます」



「知れ者め。生兵法は大怪我の基だ」



「はい……精進致します」



「無暗に某の機嫌を取る必要は無い。ブラン氏より娘達に式典用の装飾品を所望と事前に承っている。故にご機嫌取りは、某の仕事。坊よ、某の仕事の邪魔をするな。ルージュ嬢、ヴェール嬢、ご機嫌麗しゅう。さあ、早速で申し訳ないが此方へ。既に準備は万端である」



「全くもって立つ瀬が無いなあ……二人とも行っておいで」 


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