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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅷ巻 第貮章 自警団活動記録〇二
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第貮章 自警団活動記録〇二 11P

「へえ……」



 話せば、想像していた人物像とかけ離れている事はよくある。また、自分とかけ離れた世界に存在している事も。風貌からきっと、好みは女性らしいものだろうと決めつけてしまっていたが、己の描いたものとはずれていた。まだまだ、未熟者だと反省するランディ。



「ランディ君は?」



「俺は、肉料理が大好物です。そのまま、焼いて塩胡椒をふれば完璧。肉団子も焼いたり、トマトで煮込むのも好きですね。野菜は、煮込んでクタクタになったのが好物です」



「何とも……ふふっ。失礼を承知で言いますが、子供っぽいですね」



「素材そのものの味わいを楽しむなんて考えてません」



「人生の半分、損していますよ」



「何とでもおっしゃって下さい」



 どの野菜も苦かったり、極端に酸っぱかったり、土臭いものばかり複雑な風味ばかりで甘みも旨味も少ない。それならば、直接脳に訴えかけてくる単純な塩気や香辛料の刺激の方が良い。例え、子供じみていると笑われてもランディは胸を張って言える。



「しかしながらとっても意外です。普段の言動や行動は、あんなにも大人びているのに」



「食事の好みだけだったら誰にも迷惑はかけないでしょう。普段の言動や行動に関しては、節度を持って対応しているだけです。外面はそれっぽく見えても中身は子供のままです」



 何処にそんな判断材料があったかは分からない。普段から若輩者扱いを受けてばかりなのでお世辞込みだったとしても嬉しさを隠せないランディ。



「誰しも完璧な人はいません。そんな一面があっても可笑しくない」



「そうですね。セリュールさんにもそんな一面が—— すみません。もう、言いません」



「……からかうのは良いですが、後先を考えて」



「はい。以後、気を付けます」



 下らない失言の所為で死の一文字が脳裏にちらつく。碧い瞳から放たれる鋭い視線から逃れたい一心で震えながらランディは、必死に首を縦に振る。



「では、別な話を。ランディ君の趣味は?」



「最近は、ルーと遊びに出かけるので熱中しているのは、ダーツやカード遊びが殆どですね。勿論、運動も好きですが、玉遊びやら競技の類は殆どやってません。日課の訓練ばかりです」



「私も同じですね。護身術の訓練とマルの散歩だけ」



「仕事もありますし、身体を酷使して疲れてしまっては問題なので仕方が無いですね。体を動かす事以外なら読書もします……諸事情により活字から離れたくて暫く読んでませんが」



 話題が互いの趣味へ切り替わり、ランディは直近の記憶を振り返る。思い出せば、思い出す程に自堕落な日々を送っていた記憶しかない。もう少し創作的で建設的な趣味を始めた方が良いかもしれないと自省する。執筆もやっているが、あれは少し形質が違う。自発的に新たな世界へ飛び込んで取り組まなければ、趣味とは言えない。勿論、現状は養生が優先。きっと己が落ち着くまで後回しになるだろう。



「何かきっかけが?」



「少し前にかなりの時間、強制的に座学をみっちり叩き込まれまして」



「それはいけませんね。例え、どんな事情があろうとも社会情勢くらいは掴んでおかねば」



「勿論、週一回届く新聞は読んでいますよ。後は、町内の回覧も。情報の収集は別ですからね。休みの日に読んでいた小説などから遠ざかっていただけです」



 話の折にランディが読書から離れているのが気になったセリュールが質問するとげんなりしたランディは、その理由を詳細は省いて説明する。その説明にセリュールも納得してくれた。そんな読書の話でセリュールは何かを思いついたのか持っていた網籠を漁り出し、中から一冊の本を取り出すとランディに見せて来る。



「そうですか……私も読書は好きです。私の場合は、学術書ですね。神学や哲学……最近は、天文学に興味があり、邸宅にある本を漁っております」



 許可を貰い、ランディはセリュールの愛読書を開くと確かにそれは天文学に関する書物であった。恐らく、初歩的なものであるのだろうが内容が頭に入って来ない。事象を説明する為の図解ですらも。専門外なのもそうだが、分野が別であってもあの地獄の日々がどうしても頭に過る。もう二度と同じ目には遭いたくない。折角、積極的なセリュールの一面が見れたのにも関わらず、心と体に染みついた教訓を再確認するだけになってしまった。



「あれだけ大きな夫人のお宅なら当然、書物庫もありますもんね」



「はい。図書館とまでは行きませんが。大部屋にずらりと本棚が並んでおり、様々な分野の本が取り揃えられております。夫人は、嘗て教鞭を取っておられたので当然と言えば、当然ですね。しかも時折、私が分からない事があって質問させて頂くと十中八九、お答えか、それに関連する本をお渡しして下さいます」



「至れり尽くせりですね」



「はい。主従関係にありながら師弟の関係でもあります。私は恵まれています」



 単に仕えるだけの相手では無く、師として教えを乞う関係でもあった。知らなかった二人の関係性にランディは、胸を打たれる。尊敬だけでは無く、様々な想いがセリュールの声から伝わって来る。それら一つ一つが本当に素晴らしい物だとランディは思った。



「ちょっと、夫人の書庫に興味が湧きました。今度、お伺いしても?」



「是非。私が邸宅で作業中であれば、案内が出来ます」



「有難うございます。日を改めてお伺い出来る日時の相談を」



「ええ。何時でもおっしゃって下さい」



 本自体には、興味が湧かなかったランディでも夫人の書物庫には惹かれた。訪れる機会を作って見学をさせて貰うのも悪くはない。約束を取り付けた後、少し話疲れたランディは三本目の煙草を取り出して火を付けるとセリュールが煙を立てる煙草をじっと睨んだ。



「吸い過ぎは、体に障ります。気を付けて」



「本数制限にあるので大丈夫ですっ! それだけじゃありませんよ? 飲酒もです。基本的に特例以外、原則禁止。規則正しい生活から少しでもはみ出したら……」



 植え付けられた恐怖が蘇り、ランディの頬が引き攣る。既に限界のギリギリまできりつめている。煙草だけが唯一の楽しみであり、心の拠り所なのだ。これまで取り上げられてしまえば、ランディも精神崩壊が始まる。流石にこれだけは目を瞑って貰いたい。ランディは、懇願する。嫌がらせの類では無く、本当に心配されての忠告なのは分かっているがこれだけはランディにも譲れない。必死なランディにセリュールは引き気味になる。



「其処まで管理をしているとは……徹底ぶりは、流石ですね」



「オマケに食事制限もありますし、生活指導もありますよ? 最早、自由と言う言葉は、俺の生活に存在しません。精神的に参ってます……どうか……どうかお目こぼしを」



「可哀そうになってきましたね……少しだけですよ?」



「はいっ!」



 許可を貰い、ランディの顔に笑顔が戻る。どんな心的外傷を与えられたらこうなってしまうのか。普段は、厳しいセリュールですら流石に憐れんでしまう。



「朝早くからの鍛錬をはじめ、君の生活態度は、節制されていると思いますが……消化に悪い物や飲酒は、ご法度です。後は、睡眠時間もしっかりと取らなければ……少し前まで睡眠時間を削って色んな出来事に従事していたでしょう? 自責では無い事由であっても蔑ろにした結果です。きちんと受け止めなさい」



「はい……」



 当然、甘やかすばかりが優しさではない。強いられているとは言え、強いている側にも正当性があり、それは他ならぬ当人の為を思っての行動だ。それを忘れてはならないと教え、諭すのも己の役割だろうとランディに言い聞かせるセリュール。

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