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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅷ巻 第貮章 自警団活動記録〇二
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第貮章 自警団活動記録〇二 5P

「そう聞いてしまうと、心穏やかな話ではないのですが……と言うか、聞きたくなくなってきました。震えが止まりません」



 現状、事件や事故よりも日常の些細な出来事の方がランディにとっては恐ろしい。何せ、己が置かれている状況が状況だけに。蒼い粒子が消え去り、今度は顔が真っ青になるランディ。不安に駆られるランディを見て女は、己の胸に手を当ててどっしりと構える。



「そうでしょう。そうでしょう。だからこそ、困った時の私なのです。存分に身も心も委ねて頂きたいものです。さあ、ご遠慮なく」



「……」



 調子に乗って女が腕を大きく広げ、待ち構えるもランディは応じない。怪訝な表情を浮かべるランディに軽く咳払いをした後、詰まらなそうな声で話を始める。



「さて、冗談は此処までにいたしましょう。今日のランディ様には災難の相が」



「天気の予報みたいな雰囲気でいきなり胡散臭い占い師みたいな話になりましたが、大丈夫ですか? 流石の俺でもはいそうですかと納得出来ません」



「そうおっしゃられますなら私のお節介は此処までです。どうぞ、素晴らしい一日をお過ごし下さい。ええ、どうぞご勝手に」



「ごめんなさい。言葉が過ぎました。お願いします。お手をお貸し下さい」



 女の機嫌を損ね、ランディは慌てて謝罪の言葉を述べる。自分が知り得ない情報を知っている彼女の助力が無ければ、きっと酷い目に遭う。そう己の直感が囁くのだ。煙草の燃え滓を地面に落とし、ランディは姿勢を正して集中する。



「素直な子は、大好きです。起こり得る未来の可能性をそのまま詳らかにしてしまうと更なる混乱が生じます。ですからこの場では、対策の手立てをお渡しいたします」



「何故、お話して頂けないのでしょうか? 事前に知っていれば、幾らでも回避の手立てを思いついて対応が出来ますよ? 態々、そんな回りくどい事をしなくても……」



 何が起こるか分からなければ、本末転倒だ。出来る限り、情報の開示をして貰わねば、対策の取りようが無い。もし、その手立てとやらがあったとしても役立つかどうかも分からない。ならば、自力で回避に徹するのが最適解だろう。



「ランディ様。世の中とは、巡り巡るものです。どれだけ上手く逃げおおせても帳尻合わせが必ずやって参ります。その帳尻合わせとは、後に状況の悪化も付随して訪れる厄介極まりないものでして。詰まる所、早めに手をうってしまえば、最小限の被害で済まされるのです」



「その……逃げられない前提の話は何処から?」



「宿命と呼ぶものです。若しくは、日頃の行いが祟ったと表現した方がよろしいですか?」



「身に覚えが……ダメだ。沢山あり過ぎて否定出来ない」



「そうでしょう。されどっ! ランディ様専属係の私は、決して見捨てる事など致しません。此処まで随分と勿体ぶってお話をしましたが……どうぞお納めください」



 図星を突かれ、頭を抱えるランディに女は、やんわりと顔を上げさせて微笑む。詐欺の常套句の典型的な流れに嵌められている訳だが、縋れるものなら何でも縋りたい。



「これは……お札ですか?」



「左様に御座います」



 女は、まるで奇術の様に胸元から何かを取り出すとランディの手に乗せる。女からランディに手渡されたのは、白紙の短冊三枚だった。皆目見当がつかず、ランディは困惑する。何処からどう見ても単なる紙切れ。これでどう上手く立ち回れと言うのだろうか。たった三枚の紙に己の命運を託すのは、少々。いや、とても心もとない。



「この三枚の札にどんな力が……」



「ご説明いたしましょう。お困りの際は、一枚取り出して何かを思い浮かべてみて下さい。するとあら不思議。その願った事をこの札が現実化します」



「……本気で言ってます?」



 理解が追い付かない。これまで幾度となく、驚倒させられて来た訳だが、今回ばかりは女が本気で言っているのであれば、頭が可笑しいとランディでも思ってしまう。まだ、狐に化かされていると言われた方が納得出来る。勿論、ランディの存在自体もびっくり箱の様なものだが、流石に此処までの無茶苦茶は出来ない。



「お疑いのようであれば、お返し下さい」



「いいえっ! 折角のご厚意を無碍には出来ませんっ! 大切に使います」



 疑念の解消は一先ず、後回し。例え、その過程が分からずとももし、誰もが欲する有能な機能を持ち合わせているのならば、貰っておいて損は無い。回収されまいとランディは、子供の様に紙切れを胸元へ引き寄せ、ぎゅっと握りしめる。



「ふふふっ。補足の説明をいたしますと、それに願い事をする場合。具体的なもので無ければ、効力を発揮しません。つまり、ぼんやりとした内容では弾かれます」



「具体的な例としては?」



 形式的な説明だけでは、使い方すらも感得に届かない。頭上に疑問符が浮かぶランディの頬に女はひんやりとした手を添えながら説明を続ける。



「単純に目の前で起きた状況を打開するものが欲しいと願っても札は、決して答えません。その状況を打開する為にご自身がお考えになった最適解をお望み下さい」



「なるほど……俺が今、無性に煙草が吸いたいと過程しましょう。しかしながら火をつける道具を持っておらず、所持しているのは煙草だけ。その場合、この御札に持っている煙草が吸いたいと願っても駄目で火をつける為に燐寸が欲しいと願えば……」



「ご理解が早くて助かります。おっしゃる通り、その札が失われる代わりに願われた道具や事象がランディ様の下へ回り回って届けられます」



 使い方は、ぼんやりと分かった。相変わらず、その根幹にある仕組みはさっぱり。おまけに謎を呼んで風が吹けば桶屋が儲かる理論がどうしてまかり通るのかと言う疑問まで増えた。勿論、そんな疑問を紐解こうにもランディには、その一端に手を伸ばすのでさえ、己の一生を捧げねばなるまい。それよりも与えられたものをどう活かせば良いか考える方が建設的で現実的だ。そもそも土台に非現実的な事象がある時点でどうにも矛盾しているのだが、そう納得するしかない。年を追う毎にあまりにも現実味の無い事象が頻発するのでランディにも現実と仮想の境が分からなくなって来た。



「はてさて……便利なのか、不便なのか」



 改めて三枚の札と向き合ってみると果たして使い勝手が良いのだろうかと考えてしまう。


 懸念すべきは対処すべき事案が発生した際、必ずしも悠長に考えている時間が与えられる訳が無い事にある。差し迫った状況の中で己の機転がものを言う。それは、ランディが一番苦手とする分野だ。寧ろ、得意な人間の方が少ないだろう。


「先の先を考えてお使い下さい。さすれば、思い通りの結果となりましょう」



「そう考えれば、これが俺にとっての最適解なのですね?」



「左様に御座います」



 逆に考えれば、全てが自由。己の発想力次第で負が零に。場合によっては、正にもなると彼女は言いたいのだ。勿論、選択した責任は当然、己に降りかかって来る。されど、それくらいの制約が無ければ面白味が無い。己の力を試してみたい。そんな欲望が表に出て自然と笑みが零れる。詰まる所、ランディは自身と彼女に試されているのだ。



「流石……専属係とおっしゃるだけの事はありますね」



「お気に召して頂けました? 見縊って頂いては、困ります。見た目だけではありません。中身も優秀なのです。それからもっと褒めて下さい」



 女は、満面の笑みを浮かべる。もし、彼女に尻尾が生えていたならきっと千切れんばかりに振っているだろう。女は、ランディの頬に添えていた手を引っ込め、恭しくお辞儀をした。

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