第貮章 自警団活動記録〇二 1P
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「考えたんだけど……ワタシって邪魔だよね? とっても言いにくいんだけど、この状況って……折角、二人で出掛ける日に水を差しちゃてるみたいじゃない? 良いの、良いの。何にも言わないでっ! やっぱり、外すよ」
「喧しい。黙れ。殺すよ?」
「ふざけるのも大概にしてね……何で私が居ると思ってるの?」
「ルーもユンヌちゃんも揃ってつれないなあ……折角、気を利かせたのに」
流星群の夜から二日経ったある日の午前中。ルーがユンヌを連れ立って『Pissenlit』を尋ねて来た。珍しく平日に普段着姿の二人が訪れた理由は、厄介事の相談。その事情を聞かされれば、ランディも冷かしの一つくらいしてやりたくなる。と言うよりも腕を組みながら少し考えた結果、断る体の良い理由がこれだった。
「そもそも発端は、誰の所為だと思ってる?」
「ほんとに全くもう……」
まるで責任の所在はお前だと言わんばかりに二人は椅子に座っているランディを睨み付けるが、それは正しくない。今回は、珍しく巻き込まれた側なのだ。
「無茶ぶりが凄いブランさん」
「……」
「……」
揃って黙る二人を前にランディは、肩を竦める。今回ばかりは、文句の一つもいってやりたい。明らかに諸悪の根源は別にあって自分が責められるべきではないのだから。
「だって俺が招いたもんじゃないよ? それに直接、頼まれたのはルー。君の筈だ」
「君だって分かってるだろう? 僕を介してブランさんは、君に依頼したんだ。君って奴は、ほんとに厄介事を惹きつける天才だよ」
「まあね……でも逆に考えても見てご覧よ? 君が一人で全う出来ていれば……態々、俺を引っ張り出す必要も無く。ユンヌちゃんと楽しく出掛けられたのに」
「君以外に適任者が居るもんかっ! 僕には、専門外だっ! それにユンヌは……僕らのお目付け役。君のお目付け役たちのどっちにも予定があったから」
「そう……私は、完全に巻き込まれた側っ! 私だって……来たくて着いて来てる訳じゃないの。ブランさんの押しが強くて負けたのっ!」
「左様か」
自分が行かなくても良い方向性に持って行きたいのだが、どうやら決定事項らしい。重い腰を上げて大きく伸びをしながらランディは一言呟く。
「ほんとに……手が掛かるなあ」
「君が言える立場かっ!」
「どの口が言うのっ!」
普段の素行が悪いだけに反論の余地は無い。ランディの弱みを的確に狙い打って来る。最近のキレる二十代は厄介であると心の中でランディは思った。ならば、此処は一つ案じるしかあるまいと意味ありげにユンヌを見つめるランディ。
「……」
「急に黙って見つめられると……反応に困る」
じっと見つめられてユンヌは、不安そうに視線を泳がせる。ルーには大凡、これからランディが何を口走るか分かっていたが、敢えて黙っている事にした。
「そんな眉間に皺を寄せていると可愛い顔が台無しだゾ?」
無言でランディの向こう脛を勢い良く蹴り飛ばすユンヌ。脛を押さえて悶絶するランディに対して更に拳を振り上げ、鉄拳制裁を加えようとするユンヌ。
「一応、まだ怪我人だからユンヌ……程々に。後、思惑にまんまと嵌ってる」
「分かってるっ! 煩いっ!」
胸ポケットから取り出した煙草に火を付け乍らルーは、やんわりとユンヌを制止した。このままでは、一向に話が進まない。ユンヌは引っ掛かってしまったが、ルーは騙せない。ランディの思惑など、手に取る様に分かる。悪戯に時間を引き延ばし、全く関係の無い話で二人に本来の目的を忘れさせるランディの下らない一計だ。
「だけど—— ほんとに急な話だね」
「まあ……仕方が無いんじゃない? 時期が時期だけに」
「先方も秋口までには、馴染みの場所か地元で落ち着きたいんだろう」
「そう言われれば……納得」
胸に手を当てながら怒りを鎮め、冷静さを取り戻すユンヌ。それから頭に浮かんだ疑問を口にするとルーは煙草をふかしながらランディはと言うと痛みに悶えつつ、答えた。
「因みに名前は?」
「それが分からないんだって。気分屋でふらりふらりと各地に訪れては、後からその人だったって判明するのが殆ど。顔馴染みにならないと名前すら教えて貰えないらしい」
「随分と……難儀な話だね」
「それならどうしてブランさんには、その来訪が分かったの?」
「知り合いの貴族様が顔馴染みでこの町に来るって事を教えて貰ったんだってさ」
此度のブランから依頼された厄介な案件とは、とある重鎮と接触を取る事。そしてその案件に厄介さが付き纏うのは、その重鎮の存在が秘匿されている事にある。それが本人たっての望みか、それともお国の思惑なのかが定かではない。言ってしまえば、この様な小さな町で生活を営む町民なら普段、関わり合う事も無い相手なのだ。
「何方にせよ……会ってみないと何も分からない訳だね」
「そう言う事。特徴は事前に聞いてるし。先方が露天通りに居るのは間違いないって話」
「勿論、それも重要だが……俺にも仕事があるからね。申し訳ないけど、そっちが先。少なくとも配達だけは終わらせなくちゃ。話が始まらない」
しかしながらランディにも予定があるのだ。元々、一日の予定の中で想定していなかったのでその時間を作るのにも骨が折れる。幾ら町長の依頼とは言えど、ランディも生活がかかっているのだ。二つ返事で了承は出来ない。
「分かってるって。配達を終わらせてからでも十分時間はある。問題ないよ」
「今日は、珍しく多くて二十件くらいあるから時間掛かるけど……本当に大丈夫?」
「本気で言ってる?」
「勿論、本気。その間、時間を上手く潰しててくれ。二人でお茶をしてればあっという間さ」
「……」
呆然とする二人の前でランディは、咳払いを一つ。目頭に指を当て疲労の色を見せるルーと頭を抱えるユンヌを目にすれば、にやけ笑いが止まらない。お手並み拝見とランディが首を傾げるとルーは、煙草を咥えながら両手を上げて降参の意思を示す。
「分かった、分かった。手分けをしよう。それくらいは僕らも手伝うよ。一刻も早くこの任務が終わらせないと僕が落ち着かないんだ。さっさと楽にしてくれ」
「何だか……ほんとに私だけ振り回されてない?」
「迷惑料は、ブランさんに請求してくれ。これ以上、僕の心労を増やさないで」
「はいはい」
まんまと仕事を手伝わされ、二人は肩を落とす。一体全体何故、こんな目に遭わねばならないのだろうか。ルーの頭の中で原因となった嫌な記憶が蘇る。
事の発端は、二日前の出来事だった。
「二日後、この町に行商の鍛冶屋が訪れる。その方と交渉して貰いたい」
「……本気で言ってます?」
「ああ、本気も本気さ。どうにもその方がかなりの名工って話でね。是非とも僕は、業物を一本譲り受けたいワケなんだ。自警団の案件として此処は一つ。頼まれてくれるかい?」
その日、ルーはブランの執務室に呼び出され、長椅子に座らされると呼び立てられた理由を聞かされる。それは、非情に返答に困る案件であり、ルーの思考を空回りさせるに十分過ぎるものであった。何せ、専門知識など皆無なのだから。
「上長であるブランさんたってのお望みとあらば……と言いたい所ですけど、僕には目利きなんて出来ませんよ? 武具に関しては、全くの素人です」
「君の親友に丁度良い適任者が居るだろう? しかも自警団の一員でもある。是非、あの子を連れて行ってくれ。そうすれば、君も楽だろう?」
「自警団は便利屋では無いです。と言うかその言いぶりだと狙いは……最初からアイツでしたね? ならそうおっしゃって下さい。ですが……途轍もなく無理難題な話ですね。そもそも僕には、アイツと接見の許可が下りてません」




