第傪章 『Peacefull Life』 15P
フルールはランディに呆れつつも納得の行かない顔をして続きを聞こうとはしなかった。ちょっとだけ補足をするならば、誰しも特別扱いと言う言葉に憧れるとだけ言っておこう。
「うん? 何か俺、フルールの機嫌を損ねるようなこと言った?」
「いいえ、それよりもランディ。あなた、そろそろ帰ったほうが良いわよ? レザンさんもそろそろお店を開けるだろうから」とフルールは乱暴に答えるとまたもやだれる。
「そうか、なら少し急がないと」
「まあ、頑張りたまえ。若人よ」
偉そうな物言いにランディがふっと鼻で笑い、無言で親指を立てた。
「……そうだ、良い物上げる。はいこれ」
「うん? おっとと」
フルールがカウンターの上の何かを手に持つと出て行こうとするランディへ雑に投げた。
声に反応したランディは振り返ると危なっかしげに何かをキャッチする。
フルールが投げた物は。
「パン?」
そう、しっかりとした外皮で胡桃の香ばしい匂いとレーズンの甘い匂いがするパンだった。
「そう、今日のお勧めのレーズンと胡桃の菓子パン」
フルールは頷く。
「貰っちゃって良いの?」
「先行投資って奴。どうぞ御贔屓に、ってこと!」
カウンターで潰れているフルールが照れ隠しでそっぽを向く。
「ありがと。それじゃあ、またね」
ランディはパンを口へと持って行きながら礼を言った。
「ん!」
フルールの一言を背にランディがパンを加えながら外に出る。外は雨が止み、雲の隙間から太陽の光が漏れている。町は無彩色と有彩色が入り混じってまるで塗りかけの風景画だった。
「うん、おいしい」
ランディはフルールから貰ったパンを一口ほど噛みちぎり、咀嚼をする。食べながらゆっくりと歩きだしたランディ。朝から沢山の出会いがあった。迷ったり、焦ったり大変だった。
だがこれから毎日、地味で落ち着いた日常が続くのかと思うとランディはと笑いがこみあげて来る。やまない雨はないことが分かってランディは嬉しかったのかもしれない。
「何だか 落ち着けた がするよ、 。君にこんなも 穏やかな を欲しかったなあ……」
風に声をかき消されながら過去の遺恨と向かい合い、今の幸せを深く、深く噛み締めた。
まだまだ、分からないことだらけだが。でも一歩、一歩確実に進むランディの敵ではない。
こうしてランディの日常は少しずつ形になっていったのだった。




