表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅵ巻 第貳章 表裏一体
345/501

第貳章 表裏一体 3P

 双子を連れ立って外へ出たランディは、野暮用の概要を簡単に説明した。蓋を開けてみれば、それほど面倒事でもない様に聞こえるが、双子は、怪訝な表情を浮かべる。何せ、ランディは、この町に来てから期間が短い。また、商いの経験も浅い。そんな素人が買い付けなど、行えば失敗の二文字が目に見えている。



「ランディさん、だいじょうぶなの? そんなやっかいな人相手に」



「一応、雑貨品の原価相場は、少しずつ覚えて一通り、頭に入ってるから問題ない。骨とう品やら調度品は、専門外だから全部、突っぱねて良いってレザンさんからお達しも出てる。向こうもそれは、分かってるからあんまり見せてこないって。普通に何も無ければ、先方も仕事で忙しいからすんなりと終わるってさ。寧ろ、此処が腕の見せ所だと念を押されたよ」



「まあ、レザンさんもしょうだんの時は、ぜったいに手をぬきませんから。ランディさんにもそれくらいになってもらわないとダメなんでしょうね」



「言ってしまえば、俺の乗り越えるべき試練って奴さ」



「なら、そのお手前。はいけんさせてもらおうじゃない?」



「望む所だよ。ルージュちゃん。さて……見えて来た。あの人らしい」



 日陰の多い小道を歩いて抜け、大通りに一度出る。目指すは、行商の集まる礼拝堂へ向かう手前の露天通り。その前に襟元を整え、服を軽く手で払うランディ。相手に足元を見られぬよう、格好にも気をつかった。抜かりはない。ランディが要らぬ恥をかかぬよう双子も手櫛で髪を整え、服の乱れがないか確認する。時折、双子がはぐれぬよう気を付けながら人の合間を縫うように歩いて目的地を目指す。普段は、寄り付かない露天通りも人で混雑していた。


 使い古された日除けと木箱を積んで埃臭い布を上から被せれば彼らは、何処でも商売が出来る。どれも似たり寄ったりな商材を並べ、薄汚れたシャツを腕まくりしながら忙しなく呼び込みをする行商人達を珍しそうに見つめる双子。恐らく、二人もブランから来てはならぬとお達しがあるのだろう。好奇心旺盛な双子へ詰まらないちょっかいを掛けられると困るので注意を払いながら先へ先へと進むと商談相手の店が見えて来た。



「こんにちは。すみません、エランさんはいらっしゃいますか?」



「ああん? 私だ。何か用かね? 今、忙しいんだ」



「お忙しいところ、すみません。『Pissenlit』から来ました。何時もご愛顧有難うございます。ご依頼された商品買い取りの件でお伺いしたのですが……」



「おおっ! レザン翁の所の! これはこれは、申し訳ない。確かに今日、来店される予定でしたな! 失敬、失敬。お待ちしておりましたぞ」



 大柄で腹の出た男。薄くなった髪を整髪料で固め、目元には濃い隈。薄い唇の周りには青髭があるも手入れはされている。他の行商人と比べれば、服装も汚れがなく、くすんだ緑のシャツとズボン吊りにスラックス姿。レザンは、最低限の服装規定を重んじる。取引に値する相手か判断する指標の一つとして。商売は、金の切れ目が縁の切れ目。支払能力と約束通りの商品を期日までに数量に狂いなく、用意出来る人物でなければ。簡単に裏切られてしまえば、困るのは自分自身。少々、ガラは悪いが礼節も含め、弁えている。油断して足元を掬われないよう気を配れば、問題ない。ランディの目にもこの男は、そう映った。



「いえ、こちらこそ名乗りもせずにすみませんでした」



「いやいや、私もレザン翁がいらっしゃるばかりと思っていた。失礼だが、お名前は?」



「ランディ・マタンと申します」



「遂にレザン翁も後継者を……どうぞ宜しくっ。エラン・ピエースです」



 軽薄な笑みと共に差し出された手に応じると、力強く握られ、振り回される。店でもこの手合いは、何度も相手して来た。最初から低姿勢に徹しており、話を聞くに値する人物であると印象付けている。これで下に見られる事はない。



「そんな大層なものでは御座いませんが、本日は、レザンの名代を務めさせて頂きます」



「その歳で随分としっかりなされておる。これは、手が抜けないなあ……因みにレザン翁は? 変わらず息災でいらっしゃられるかな?」



「お蔭様で。本日は、ローブ邸で外せない仕事があり……本来であれば、主人のレザン自身が直接、お伺いすべきなのですが―― 非礼をお詫びします。申し訳ございません」



「いやはや……流石は、レザン翁。教育もしっかりなされておる。此方こそ、申し訳ない。なるほど……町の一角を担う高貴なご婦人がお相手ならば致し方ありませぬな。私の様な木っ端の行商人など、比べ物にもなりません」



「予定が無ければ、久々の再会で話に花を咲かせたかったと申しておりました」



「そう言って頂けるだけで有難いものです」



 町の事情をある程度、知って居るのか引き際を弁えている。本来なら使い走りではなく、対等な立場の者が出向くのが常識だ。今回、ランディの課題とは言え、此方が些か無礼を働いている。あくまでも名代であると意識を持ってランディは、レザンに謙遜なく、この任を全う出来る人格と手腕があると所作や言動で誇示した。



「因みにお連れは、何方だろうか?」



 それから話題がランディから隣の双子たちに移る。商談に子連れとは、滅多にない。二人が話をしている間も静かに待っているルージュとヴェールに何か感じ取るものがあったのだろう。この年頃ならば、騒がしくしている筈だ。おまけに身形も風格がある。何かあると、勘ぐるのも寧ろ、当然と言えよう。首を傾げるエランに対してにっこりと笑ってランディは、恭しく手を差し出して双子を紹介した。



「ああ、申し訳ありません。ご紹介が遅れました。此方は、クルール家ご息女、ルージュ嬢とヴェール嬢です。此度は、後学の為に商談へ是非、参加したいとおっしゃられたので―― 僭越ながら私がご案内の役名を仰せつかっております」



 名前を聞いて直ぐに合点が行ったエランは、手を叩き、わざとらしく驚いて見せた。



「ほおお―― これは、これはっ! 先ほどから只ならぬ雰囲気と気品を感じておりましたが、まさか町長のご息女とは……御見それ致しました。ブラン町長におかれましては私も大変、お世話になっておりまして。お子様がいらっしゃるとお伺いしておりましたが……お初にお目に掛かるっ。お見知りおきをっ! エラン・ピエースと申します。何か要りようの際は、是非。ご利用、心よりお持ちしております」



「よろしくおねがいいたします。ヴェール・クルールです」



「ルージュ・クルールです」



 恐らく、関わりがないのにおべっかを欠かさない。商魂逞しいとは、正にこの事だろう。この機会に繋がりを持ちたい下心が見え見えだ。おずおずと自己紹介をする双子へ人懐っこい笑みを浮かべ、大きく頭を下げて媚びるエランにランディは、心の中で苦笑い。見ている限りでは、何か悪さをするないだろうと、察する。



「その御年で見聞を広げる為に商談へのご参加とはっ! いやはや、素晴らしいっ! 市井の暮らしへ目をお掛けになるその姿勢、まっこと、感服致しました!」



ガタイや人相に似合わず、全ての言動や行動が一々、仰々しい。少し話をしてみてそれがランディには、分かった。



「簡単な挨拶で申し訳ないのですが早速、本題に。買い取りを希望されている品は?」



「はいはい、それでは。先に一覧を書きだしております。今回は、石鹸や灯油など、消耗品が殆ど。私の都合で量も……それ程ありませんね」「ほう……なるほど。それは、実入りがさぞ、大きかったのでしょうね」



「いやはや、それほどでもっ! まあ、言い値ですんなりと決まるくらいです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ