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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅵ巻 第貳章 表裏一体
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第貳章 表裏一体 2P

 虚を突かれた。まるで己の内を全て見透かされた様な不思議な感覚を覚えるランディ。からかいも疑いもなく、父親譲りの鋭い瞳で真っすぐランディを見据え、ルージュは真意を問う。ランディの時が止まった。双子の後ろか見える窓から差す陽光に照らされて輝く埃が少し止まった様な気さえした。怪訝な顔をするヴェールを視界の隅に捉えなければ、延々と思考の迷路に嵌っていただろう。現実に引き戻され、ランディの出した答えは。



「ルージュちゃんは……大人だね。そんな風に言われるとは、思ってもみなかった。でもその深読みは、大袈裟だよ。俺のしている事は、本当に意味なんてないんだ」



「意味がないなら何でそんな事してるの?」



 素早く切り返され、心が折れそうになるのをぐっと堪える。煙に巻こうとも直ぐにその帳を打ち払って詰め寄り、言の刃を喉元に突き付けられる感触。曲者の子だけあって人の痛い所を的確に突いて来る。これは、降参するしか手はない。



「人の成す事にこの世で意味のある事何て無いのさ。たった数十年の刹那的な人生の中で何かしたってこれまでこの世界が積み上げて来た歴史に比べれば、本当に些細な事だよ」



 今度は、軽い男の役を演じてはぐらかして見せるランディ。



「そうやって直ぐにばかなこと言ってはぐらかすのは、どうかと思う」



「男としてはね。でも俺は、大人でもあるから」



「しょうもな」



「大人とは、得てしてそう言うものだよ」



 まだ、人生の半分も生きて居ない若造が何を言う。この場にレザン居たのならば、そう言うだろう。恥ずかしさで己の内焦がしながらこの時だけは、一人で良かったとしみじみ、思う。寧ろ、レザンが居てくれたのならば、こんな醜態を晒す前に助け舟を出してくれたかもしれない。己の不甲斐なさに笑いが込み上げて来る。



「でもね……わたし、フルールねえにふざけたことしたら怒るよ?」



「それは、絶対にない。約束する」



「あっそ――」



 最後の最後で入念に釘を刺され、ランディは思わず、背筋を正す。勿論、叱られた意味は、分かっている。自分がどれだけ軽薄な事をしているか。一歩でも踏み外せば、人の心を踏み躙ってしまいかねない危ない橋を渡っている。



「むっ……」



 暫し、蚊帳の外に置かれていたヴェールが不服な鳴き声を上げ、ランディとルージュの視野が一気に開ける。目頭を押さえ、そっと机の上に置いていた煙草に手を伸ばすランディ。


 普段、仕事の間には絶対に吸わないのだが、この時ばかりは、安定剤が必要だった。



「ははっ。そうむっとしないでベル。ベルは、本当に真っ正直で良い子だよ。願わくば、俺はそのまま、いつまでもいつまでも天真爛漫な子で居て欲しいね」



「むっ!」



 ランディからしてみれば、褒めた言葉の心算だったが、ヴェールに怒りの炎に油を注ぐだけだった。今度は、憤怒の鳴き声を上げながらそっぽを向かれ、困り果てるランディ。



「子供に子供あつかいは、ダメだよ。ランディさん」



「君も大概だけどね。時折、こんな風にはっとさせられるけど。一日の殆どは、力の限り全力で遊ぶ快活な子だ。どんなに背伸びしてもそれは、変わらないのさ」



「言うじゃない? このしでかしは後にひびくよ?」



「なら、その失態を帳消しにしなくっちゃね」



 さて、そろそろ面目を取り戻す良い頃合いだ。ランディは、すくっと椅子から立ち上がり、手拭いで足をさらりと拭い、靴を履くと優雅な足取りでヴェールの下まで向かうと、ゆっくりと傅き、恭しく手を差し出して嘆願する。



「麗しいご令嬢のお二人。丁度、ワタクシめも机仕事が終わりました。これから外に出て野暮用を済ませようと考えております。もし宜しければ、暇つぶしがてらにお付き合い頂けますかな? 勿論、多少乍らではありますが、道中に接待もさせて頂く所存」



「ほんとそう言うとこキライ」



「また、子どもあつかい」



 何とも胡散臭い演技が鼻につく。鼻を摘まんで目をぎゅっと瞑るルージュとじっとりした目で目の前の阿呆に呆れ果てるヴェール。はてさて、難しい年頃を相手にするのも骨が折れる。されど、乗り掛かった舟に臆してその足を引っ込めれば、格好も付かない。



「何をおっしゃる。この町きっての富豪であり、町長の役も務めていらっしゃるブラン氏のご息女相手にそんな滅相もない。これからも御贔屓にと少しばかりの気持ちですよ」



「やだやだ。ごきげんとりとか言ってるけど。あめだま、わたされておしまいだよ」



「ランディさん、じみにびんぼうですし」



 間の抜けた紳士を演じ続けるランディに対して反応に困って話題を変える双子。財布事情に関して乏しい事は、自分が一番、分かっている。勿論、虎の子はあるけれども今は、店で仕事に従事し、働いた金で生活がしたい。それは、意地と言うべきか。それとも町の一員であると自負するが故のやせ我慢か。何と言われようとも尻のポケットにある痩せこけた財布と相談して過ごす日々が気に入っていた。



「うーん。そこは、財布と相談だね。勿論、後悔なんてさせないさ」



「なさけなあー」



「かいしょうなし」



 開き直って子供っぽい笑顔と共に出てきた駄目男の常套句。不甲斐なさに失望し、肩を落とす二人。それでも捨てる神あれば、拾う神あり。軽く咳払いをした後、頬をほんのりと赤らめながら傅き、差し出されたランディの手を上品に取るヴェール。



「でも、おこえかけを受けた以上、しかたがありません。わたしたちにもたちばと言うものがあります。そこまでおっしゃるならわたしたちもそのおさそい、つつしんでお受けいたします。これからもりょうこうなお付き合いが出来るよう」



「在り難きお言葉」



「ベルもいがいとこう言うベッタベタなのに弱いよね。本のよみ過ぎ」



「うるっさい!」



 今度は、顔を真っ赤にして怒鳴るヴェールの後ろでランディは立ち上がり、膝を軽く払い、立ち上がると、ルージュに向かって小首を傾げる。



「まあ、こんな薄暗いとこで過ごすのも勿体ない。折角だから外の空気を吸いに行こうよ?」



「……しかたがない」



「そう言って貰えると助かるよ。では、出立の準備をしますので暫しお待ちを」



 素直で直球な誘いには、めっぽう弱いのか、ルージュも不服そうな顔をしながらも了承した。天邪鬼なルージュにランディとヴェールは、笑い合う。



「なんだかなあ」



「何だかんだ言ってルジュもランディさんにずいぶんと甘いよね」



「やかましいっ!」



 それからランディの外出準備が終わる前の間、ゆっくりと足を水に浸し、冷めた紅茶と共に大人しく待つ双子。実のところ、珍しくランディから誘いを受けたので期待が止まらない。


 そうなるのも致し方がないのだ。あれだけ啖呵を切ったから時間の経過と共に難易度も右肩上がりで自然と跳ね上がって行く。はてさて、双子の飽くなき探求心を完璧に満たす事が出来るだろうか。それは、ランディの頼りない腕に全てが掛かっている。



「で、そのヤボヨウってナニ?」



「商品の出張買い取り。普段なら滅多な事がなければ、やらないんだけどね。その滅多な事が起きてしまったワケだ。何でも相手は、レザンさんでも手を焼く随分と厄介な傑物らしい」



「どう言ったぐあいで?」



「主に値段交渉で揉めるらしい。彼是言って値段の吊り上げは、通常営業。後は、かの名家が所有していた調度品だの、どこそこの遺跡から発見された出土品―― はては霊峰で見つかったお宝何て言ってしょうもないガラクタも押し付けて来るんだってさ。時間ばかり掛かって店の通常業務に支障が出るくらい迷惑だからこの町へ来た際は直接、その人のやっている出店に向かうのさ。でないと必ず、店へ顔を出しに来るから」

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