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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅵ巻 第壹章 見るに堪えぬマリオネット
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第壹章 見るに堪えぬマリオネット 3P

「いやいや、僕の方こそだよ。人には、人の都合がある。きちんと把握していなかった僕が悪いんだ。また、明日にでも改めてお伺いする。寧ろ、気をつかって貰って申し訳ない」



 申し訳なさそうに頭を下げるランディに対してアンジュは、首を横に振る。顎に手を当ててせめても何かちょっとした埋め合わせでもと考え、即座に思いつく。




「……そうだ。これから俺たち、軽食を取ろうと思っていたのですが。一緒にどうです?」



「あたしは、そんな話、聞いて無いっ!」



「いやいや、少し前までお腹が減った、減ったってまるで雛鳥がご飯を催促してるみたいに鳴いていたじゃないか? 俺は予め、それを予見してラパンに席を押えて貰っているのさ」



「むっ……聞いて無い。勿論、ランディの奢り?」



 今日は、二人で出掛ける約束を予め、フルールに取り付けていた。先に目的の場所を告げる事無く、フルールを引き連れている。誘う側としては、それなりの準備をする必要があった。だからある程度の予定は立てている。フルールの興味を引く箇所は、きちんと押さえている。これもその一つだ。



「……仕方がない。今日は、俺が持とう」



「それなら話は、違う。善は急げ。早く行かなくっちゃ!」



 満面の笑みでランディの背中を叩くフルール。ランディは、げっそりとした顔でわざとらしく肩を落とす。けれど、これも計画の一つ。フルールは、すんなりと落ちた。上手く事が運び、ランディは、心の中でにやりと笑う。後は。



「アンジュさんもどうです? 俺が胸を張ってお勧め出来る店なんですよ」



「いやはや、在り難い申し出だけど……折角の逢引きのお邪魔だ」



「気にしないで下さい。町の外から来ている人との会話なんて久々なので。寧ろ、俺としては、道中の話をお聞かせ頂ければ嬉しいのですが……」



「賑やかしになれば良いのだけど……面白い話なんて出来ないよ?」



「どんなお話でも。如何せん、平凡な田舎故に刺激や華やかさがないものでして」



「艶やかな花なら君の横にいるだろう?」



「確かに大人しく椅子に座って窓を眺めながら哀愁を漂わせていれば、そうでしょうね……でも残念ながらそんなしおらしい所は一切、見せないもので。口を開けば、金糸雀の様に忙しなく囀り、ウサギの様に町のあちらこちらを飛び跳ね、落ち着きもないので―― かっつ! っ! はっ! うっぐっ!」



「――」



「君、そんな事ばかり言ってたら命が幾つあっても足りないよ?」



 呑気に本人が居る前であれやこれやと言い始めれば、結果は明白だ。フルールは、すっとランディの首元へ後ろから細い腕を回し、絞めに掛かる。突然の事で回避の動作も間に合わず、しっかりと固定され、呼吸が出来なくなるランディ。段々と青白くなるランディの顔を眺めながらアンジュは、呆れて首を横に振る。



 それからランディの後ろに隠れ、顔が見えないフルールへ一言。



「フルールは?」



「……何でも良い。それよりも早く、お店に行きたい」



「そうかい、そうかい。なら有難くお邪魔させて貰おうかな?」



「……願ったり―― 叶ったりです。さあさあ、行きましょう」



 漸く解放され、ランディは呼吸を荒げながらも笑顔を絶やさない。二人の背中を押して誘導を始める。少々、やり過ぎた所もあったが、全て予定通り。勿論、これで終わりではない。寧ろ、きっかけに過ぎない。此処から全てが始まるのだ。



「そう言えば、アンジュさん。此度は、どうしてこの町に?」



 道中、やる事も無いのでそれとなくランディは、アンジュがこの町へ訪れた理由を尋ねる。



「そうだね……元々、根なし草の旅で王国中、色んな所を回って居たのだけど。丁度、この町の近くを通りかかったから寄って行こうと考えたんだ」



「そうなんですか。何処を回られていたんですか?」



「うーん。そうだね。その前にそろそろ、その敬語、要らないんじゃないかな? 君、フルールと年が近いのだろう? なら僕もそんなに変わらないからくだけて貰って構わないよ」



 アンジュは、問い掛けへ答える前にランディの敬語が気になり、指摘する。強要した訳でもないのに遜るランディに対して逆に気をつかってしまう。簡単に言えば、見えない隔たりがあるように感じてアンジュ自身が気まずいのだ。



「……ランディは、あたしと同い年。アンジュは、あたしの二歳年上。アンジュはあんまり畏まった感じが好きじゃない。だから大丈夫」



 アンジュの考えを察してか、フルールが不愛想な顔付きをしながら補足を入れる。その補足を受け、ランディは合点が行き、頷く。



「そうなんだ。良いんですか?」



「勿論。寧ろ、他人行儀で居られる方が辛いんだ」



「なら遠慮なく。アンジュくんは、これまで何処を回ってたの?」



「直近の二、三年は、南側を中心に。その前は、北から東側の一帯を」



「凄いなあ――」



「世界を見て回りたくてね。言ってまだ、王国しか回れていないんだけど。でもね。王国は地方によって風土が違うから毎日が驚きの連続だ。新しい出会いと名残惜しい別れの繰り返し。心動かされて本当に暇をしないよ」



「何だか浪漫に溢れるな―― そういうの、憧れる」



「単純に一か所には、留まれない性格なのさ。そこまでのもんじゃないよ」



「何が憧れるよ? どの口が言うの?」



 まるで一度も地元から出た事がない田舎者の様に感心するランディに対してフルールが一言ちくりと刺す。元々、ランディも流れ者で偶々、この町に居ついているだけだ。もっと言えば、ランディは王都からこの町へ訪ねて来た。更に更に言えば、以前の職業柄で遠征なども何度かあった筈で何も知らない訳がない。ランディからしてみれば、単なる世間話の一環の相槌。けれど、真の田舎者のフルールとしては、それが癪に障る。



「そう言えば、ランディくんも外から来てたんだよね? 僕が居た二年前は居なかったし」



「そうだね……この町に訪れたのは大凡、半年前くらい。それまでは王都に」



「逆に僕は、王都へ訪れる機会がこれまでなかったな――」



 フルールの心情を察し、アンジュはやんわりと話題をランディの身の上に変えた。それから自身も王都へ訪れた事がないと明かす。フルールの感心が向くに違いないと目論んでの事。思い返せば、ランディは王都の情勢をフルールには話していなかった。心なしか、これまでの利器でなかったフルールの感情の見えない瞳に少し光が宿る。



「一度は、名所を訪ねてみたいと思ってる。王国の中心としての名は伊達じゃない。大聖堂とか、王宮、大きな跳開橋、その他にも見所は沢山あるからね」



「実際は、道路も酷く汚れてるし、貧困層の過密地区があったり、工場が出す煙が臭い上に人も多いから年がら年中、空気が淀んでる。煌びやかな所は凄いけど、明暗がはっきり分かれてるんだよ。住むのには適さない。ちょっと、観光で摘まんどく分には申し分ないけど、とことん目を向けて行くと見たくないものまで見せられる」



 正直に言えば、ランディは、王都の話題があまり好きではない。知らない者にとって伝聞のみが判断基準。つまり隣の芝は、青く見えるのかもしれない。だが、遠くからなら煌びやかに見えるそれも身近になってしまえば、幻想だとわかってしまう。それを嫌と言う程、経験して来た。これまで語ろうとしなかった理由は、それだ。



「まあ、そんなもんだよね」



「俺も多少は、色んな所へ赴いたけど、都市部よりも田舎の田園風景とかの方が良かった」



「それはあなたが田舎者だからでしょ?」



「否定出来ないね。やっぱり、広い空と何処までも続く野原の方が心安らぐ」

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