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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅴ巻 第陸章 真っ白な天使
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第陸章 真っ白な天使 4P

 尚も食い下がるフルールにランディは、無言で答えを迫る。既に一度は、互いの合意がなされているのだ。それが覆る事はあり得ない。恐らくこれが境地の一端なのだろう。少なくともランディは、フルールの事を許している。互いに傷つけ合った結果、許し合える関係にやっとなれたのだから。此処から先の事は、ランディも考えていない。


「そう、あたしも間違いよ。ねえ、お願い。あたしの間違いを貴方の間違いで塗り潰して」


「いいや、君は間違いじゃない……君はいつも正しい」


「貴方は、言った。この世界は、ずっと間違い続けてるって。なら、あたしもその一部だもの。だからあたしも間違いの一つ。違う?」


「……」


 それでもフルールは、己が許せない。理解の幻想に身を委ねたが故にその深い沼に嵌り、本質を見失ってしまった。独善の奥底で眠るランディのちっぽけな願いに気付けなかったのだ。本当は、心の何処かで分かって居た筈なのに。


「貴方が歪んでいると思って居る事もそれは、あたしを含めた世界が歪んでいるから」


「ならば、俺たちは出会うべきでなかったのかもしれない。この前も言ったけど、君を帳尻合わせとして使ってしまっている俺も間違いの一つだ。全てのきっかけは、俺にある。ならば、断罪されるべきは俺の方だ」


「どうしてそうなるの? 何が正しくて何が正しくないの? どして貴方一人がその間違いに全て対処しなければならないの?」


 あくまでも己の忠義に従い、この関係の役割を全うしようと尽力するランディ。全ては、目の前のフルールの為に。己の本質を引き出してくれた彼女に報いようとしていた。だから汚れ役も進んでかってでる。その献身的なランディにフルールは納得が行かない。何故ならフルールは、それを求めていないからだ。ずっと変わりない。フルールは、ランディと対等で在りたい。平行線上にある中で何処にあるかも分からない境界があると今も信じている。その一端をたった今、垣間見たのだから。


「あたしは、あなたに出会えて良かった。例え、ランディがこの出会いを間違いだって言ったとしても。確かにあたしが置いてかないでって言うのもその人に言えなかったからかもしれない。でも今、言っているのはあなたに対して。他でもないランディに。もう、あんな後悔したくないから……何処かいつも寂しげで誰よりも他人と一緒に居たいのにそれを必死に堪えてるあなたに何かしてあげたい。この気持ちに嘘偽りなんかないっ!」


 頬から壁に突き立てられたままになっていたランディの手を取り、両の手で包み込むフルール。どれだけ苦痛があったか。今あるその痛みは、全て自分の為の痛みだ。フルールへきちんと向き合おうと。理解しようとした結果だ。今度は、フルールが返そうとする。


「もう、何度もランディが垣間見た地獄を……貴方の言葉を通してあたしも見て来た。その地獄が一生、終わらないって事も知ってる。そして、このすれ違いに終わりがない事も。でも……それでもあたしは、まだ続けたい。こんな仲違いを何回、繰り返したって良い。その度にあたしがそれでもって言い続けるから」


 終わらせてなるものかとランディの考えていない終着点をフルールは、見出そうとする。


「だから……」


 フルールのたった一つの願い。それは。


「……だから終わり何て言わないで」


 境界のその先をフルールは、望んだ。


「駄目ならもう一度、始めからやり直そ? お互いに間違っていたのならまた、やり直せば良い。何度でも同じ間違いがあっても……その先が目も当てられない悲惨な終わりでも。そんなのどうだって良い。だってこれ以上に悲惨な終わり何てないもの」


「―― 目に見える地獄だよ。それは」


 その甘美な誘惑にランディは、首を横に振る。それはあってはならない。この訳の分からない関係性をだらだらと惰性で続けてもその先に未来が無いからランディは、否定したのだ。誰も救われない未来など、ランディが一番許さない。


「それじゃあ、君が救われない」


「誰かのくれる安い救い何て要らない。だって、あたしにもあたしの物語があってその物語の主人公として歩むから。自分を救うのは自分、ただ一人だけよ? 他の誰にだってそんな格好良い役は、譲ってあげない」


 フルールの志は、ランディのそれと同じ。言葉にせずともずっと態度で示し続け、己に課した鉄の掟。自分らしく生きるにはどうすべきかと考え、至った結論だ。フルールなりに考えたその結論をランディは、否定する事が出来ない。それは、自己の否定にも繋がる。


「それがあなただったとしてもね」


 フルールは、ランディに救いを求めていない。そっと、握りしめたランディの手を胸元に寄せ、思いを伝えるフルール。救われたいのではない。救いたいのだ。


「どんな結末を迎えるか分からない。本当に分からないんだ」


「そんなの誰も一緒。あたしだって分からない」


 だから足掻くのだとフルールは言外に滲ませる。


「本来、この町に俺なんかいちゃいけないんだ」


「誰かに許可を貰う必要なんてない」


 それは、他人が決める事ではないとフルールは言う。


「また、君を傷付ける……」


「そしたらあたしもきちんとやり返す」


 何処までも対等であろうと、フルールは覚悟を示す。


「また、俺は剣を握るかもしれない……」


「その時はまた、こんな詰まんない喧嘩すれば良い」


 終わらないすれ違いに終わりを。何度でも何度でも言葉を重ね続けよう。互いが理解の先に居ると知り、理解を超えた共通認識があると分かればそれで良い。フルールの意思は固い。


「貴方が死ななければ、幾らでも繰り返す」


 永遠の別れさえなければ。


「だからこれだけは約束。生きて帰って来て。お願い」


 止まらないのなら必ず戻って来る事をフルールは望む。そもそもの論点は、あまりにも己の命を軽んじるランディの姿勢から端を発している。


「そうじゃなきゃ。こんな下らない言い合いですら、もう出来なくなっちゃう」


 今回もランディは勝てなかった。


「幾度となく相対したけど、君には勝てないな……本当にズルい」


「何度だって負かすわ。だって貴方、負けないと止まらないんだもの」


 恐らく、この選択は後に響く。今を受け入れれば、更なる困難がこの先、待ち構えているだろう。もしかするとこの出来事で新たに生まれた共通認識すらも超える何かが待ち受けているかもしれない。不安要素を考えればきりがない。けれど、ランディは乗り越えられそうな気がした。これまでは、自分一人の戦いであったがもう違う。


「ほんと、甘いわ。いっつも勝ち逃げが許されると思ってた?」


「結果がなければ、無意味だ。それをこれまで何度も思い知らされた」


「もう結果ならずっと出してる。これだけやってまだ満足出来ない?」


「求められる限りは……」


「なら、あたしはもっと別なのが欲しいって言ったら?」


「例えば?」


 今、どんな顔をすれば良いかランディには分からない。歓迎すべき出来事だろう。やっと、理解の先に辿り着いたのだから。されど、それは新たな出発点でもある。これからどうすれば良いか分からないランディにフルールは新たな道標を示す。


「そうね……仕事でレザンさんの右腕として認められたとか、ルーと一緒に下らない馬鹿騒ぎをしたとか、後は……誰を好きになったとか、本当にどうでも良い事」


「それが一番、難しいんだ」


「そう? 簡単よ?」


 そう言うと一気にランディの体を引き寄せ、屈ませた上で額と額を軽くぶつけるフルール。薄暗い室内で互いの熱がより近く感じる。唐突な展開にランディの思考は完全に停止した。そのまま、ゆっくりと目を瞑ったフルールの顔が近づいて来る。ランディも目を瞑り、顔を寄せた所でフルールの手によって遮られる。


「……すると思った?」


「割りと真面目に」

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