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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅴ巻 第肆章 止まらぬ心の声
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第肆章 止まらぬ心の声 9P

「変わらぬ日々を刺激的なものに変える隠し味は、得てしてそんなもんだよ。それにユンヌは、平和呆けして感覚が麻痺している。ちょっと前まではこれが当たり前だったんだ」


「当事者でもない癖に偉そうな物言い」


「君たちは……」


 歯を食いしばり、怒りの炎を静かに燃やすランディ。指図でも助言でもない。これは、警告の心算であった。詰まらぬ義憤に駆られ、道を間違えぬよう。その思いを一切、無視してルーは更にランディへと詰め寄る。


「これでもまだ何かごにょごにょ言う心算かい? 仕方がない。君が満足するまで幾らでも付き合おうじゃないか。幸い、時間はたっぷりとある。君の逃げ道を一つ残らず、潰してしんぜよう。最後の最後まで足掻いて袋小路に入った瞬間―― 君の負けだ」


 臭い台詞を平然と吐き、容赦なくランディの逃げ道を潰して行くルー。ましてや以前、自分が司祭エグリースに対してそっくりそのまま放った言葉でもある。つくづく嫌な巡り合わせだ。ランディの意志が揺らぐ。


「こう言われると、随分と阿保らしくなるだろう? やっと、表情が何時もの情けない君に戻ったね。この前からずっとそうだった。どうすれば、普段通りの君に戻るか考えあぐねていた。実際は、こんなに簡単だった。今の君を取り巻く状況が不安定だってのは、知っている。頼りにしていたレザンさんとも険悪な関係になっているし、フルールとの仲も最悪。その上、この話が町中に知れれば、針の筵だ。君からしてみれば、怖いのだろう。でも味方だっているんだよ。ブランさんとかそうだね。言ってしまえば、この町一番の権力者だ。それに僕もユンヌもノアさんもそうだ。後は……シトロンも一応……」


「あああ、それ。最近、何かそこら辺で話がこんがらがってる感じある」


「それは、僕と同じ見解かな?」


「予測が外れてると良いけど」


「何を懸念しているか分からないけど……俺は、単なる玩具だよ」


 おまけに思わぬ所で話が横道に逸れ、どつぼに嵌る。気付けば何故か、変に勘ぐる二人へ釈明する羽目になっていた。ルーとユンヌ、どちらも一筋縄でゆかぬ。対話力ではなく、そもそも話題が劣勢である事。加えて手の内を全て知られているが故に傾向を対策されてしまっている。何よりも大人ぶって変に理屈をこね繰り回す手間が足枷となっていた。


「ふっ」


「なるほどね……」


「タチが悪いだろ?」


「これ、何てびょーき?」


「朴念仁って一生治らない病気」


「さいあく」


 俄かにはしゃぐ二人を見て額に手を当てて呆れ返り、言葉も出ない。そして、いつの間にか、相手の度合いに飲まれ、真面目に話をしていた自分が馬鹿らしくなる。一度、熱くなり過ぎた頭を冷やす為にランディは、立ち上がると琥珀色の酒瓶を片手に外へ出た。扉を締めず、煙草に火をつけ、ショットグラスにウヰスキーを注いで一気に煽る。


「まあ、この件は今、触れるべきじゃない。ただでさえ、状況がごちゃごちゃしているのにこれ以上、課題を増やすべきじゃない。こっちはまだ、燻ってるだけで火事になってないから盛大に燃え盛ってから片付けるべきだろう」


「それじゃあ、遅い」


 外で物思いに耽るランディを横目にルーは、ユンヌと耳打ちし合う。何も此度の事件だけが状況をひっ迫させている訳ではない。常にランディを取り囲む環境も変化し続けており、それは良くも悪くも様々な所で作用している。全てが簡単に。一筋縄では行かない。勿論、二人が話している事は、憶測に過ぎないが。


「僕としては、それはそれで楽しそうだからどっちでも良い。蚊帳の外の僕らにそもそも現状、どうなっているのか。詳しい事は、分かんないし。ランディが言った可能性も捨てきれない……限りなく零に等しいけど」


「絶対ないと思う」


「馬が合うね。同感だ」


「私は……二人共、友達だから。今の内からさり気なく探りは入れとく」


「そうしてくれたまえ」


 ランディが戻って来ると二人は背筋を正して平然とした態度に戻る。そんなルーとユンヌを恨めし気に見つめるランディ。


「さっきから耳打ちして二人だけの会話、楽しい? これだから好一対の相手するのは疲れる。目の前でいちゃいちゃしてさ。独り身の事、考えた事あるかい?」


「喧しい。タチの悪い拗ね方をするな。君の話は、まだ終わってないぞ? それでこれからどうする? 最悪の時機に差し伸べられた手を手酷く振り払ったんだ。君の失態は、山ほど見て来た訳だけど、これまでの仲でダントツのヤバさだ。この失態を取り返すのは相当、骨だ。今となっては、話も聞いて貰えず、門前払いが関の山」


「だから俺は……」


「今までは、フルールが君に歩み寄っていた。これを機に君も歩み寄るんだ。君も同じくらいあの子に興味をもたなくっちゃ。そうでなきゃ、恩返し何て夢のまた夢だよ」


 ランディの言い分を聞かず、決定事項だと言わんばかりにルーは、指図を止めない。麦酒の入った瓶を机の上から乱雑に持ち上げると、ジョッキに注がず、一気に傾けて飲み干し、その勢いでルーは、口を開く。


「……困ってるなら困ってるって言え」


 そうじゃない。困ってないとは言えなかった。実際、困っている。ちっぽけな行き違いでしかないのにこれ程までに困るとは思ってもなかった。だから全てを諦めた。解決が絶望的だったから。それで良いと思っていた。心の平穏が取り戻せるのなら。


「これまでのお願い事は、誰かの為だったもの。今度は、ランディくんのお願い、教えて」


「俺は……俺は……」


 万策が尽き、ランディは戸惑い、叱られた子供の様に焦りで言葉を見失う。


「何でそうなんだよっ! どうして其処までお人好しになれるっ! 俺は、君たちの幼馴染を酷く傷付けた。何時も騒動の渦中に居て町の中でも一際、異端な存在だ。関わっても損ばかり。良い事は何も無い。手を差し伸べられても―― 振り払って八つ当たりもして……人が離れて行こうがお構いなしだ。どれだけ悪くてもこんあ風に傍若無人な振舞いをする。本当によく分からない。頭、可笑しいんじゃないの?」


 だからこそ、願う。己の分まで。


「君たちは、日の当たる場所で日々の生活に埋没すべきであって……俺みたいに日陰で落ちぶれる奴に構っている暇なんてない。別に俺は、君たちの為に自分を犠牲にしていない。気にしなくて良いんだ。だから……お願いだから」


「君の分まで笑って居ろと?」


 独りにして欲しかった。こんな馬鹿げた煩わしさから逃れたかった。分かり合う事などないのに途方もない会話を交わし、分かった振りをして間違い、挫折を繰り返す。もう、こんな茶番は懲りた。此処まで歪んでしまった関係性をランディは望んでいない。


「ふざけんなっ!」


「ルーっ」


「お前が笑え。お前が日の当たる場所に居ろ。勝手にそんなもん押し付けんなっ! 自分のしたい事ならで自分でやれよ。僕らは、ひと様の願いを叶えてやる程、余裕なんてない」


 勢いよく机に両手を突き、ルー激昂する。我を忘れて顔を真っ赤にして珍しく怒鳴り散らすルー。ユンヌは、止めようとするもその胸に秘める想いの一端を垣間見て黙り込む。


「笑えないって言うなら笑わせてやる。その為ならなんだってやってやる……」


 叫び疲れたのか深く眉間に皺を寄せ、最後は尻すぼみになりながらルーは、呟く。


「……俺だってどうしたら良いか分からないんだっ! もう、嫌って程、頭の中がぐちゃぐちゃで展望も見えない。誰かに縋ろうにもどう縋れば良いかも……何をすれば、この状況から抜け出せるかも分からない。俺自身が取れる手立てを見失っている以上、これから良くなる事はない。だから誰も巻き込みたくもないっ!」


「やっと言えたね」


「長かった」

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