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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅴ巻 第肆章 止まらぬ心の声
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第肆章 止まらぬ心の声 3P

 これまでの心配事すら杞憂に終わり、ブランは笑う事しか出来ない。既に己の手が届かない所で決着がついていたのだ。国の随一の戦力ですら簡単にあしらって見せると豪語している。誰が何をしようとも目の前の青年を止める事は出来ない。


「でもそうなると……この件は、誰にも説明出来ない。君がレザンさんにも言えない訳だ」

 この町だけでは、収まらない。元より、王都がひた隠しにしている案件に関わってしまったと分かればどうなるか誰にも分からない。


「最早、なりふり構っていられない状況ですからね。町長としての立場があるブランさんにきちんとお伝えすべきだと俺は考えました」


「気をつかってくれてどうも。確かに僕は、知っておかねばならぬ事だね」


「本当は、言う必要がないなら黙っておこうと。誰も巻き込みたくなかったので」


「いや、遅かれ早かれって奴だよ。寧ろ、これでより対応がしやすくなった」


「そう言って頂けると、助かります」


「良くも悪くも君と言う存在は、大き過ぎる。今、それが詳らかになれば、要らぬ混乱が生じるよ。


 何としても隠し通さねば。少なくとも受け入れる態勢が出来るまでは」


 これまでの山積していた課題は、消え去ったが更に新たに大きな問題が増える。何としてもこの秘密は、守らねばならない。課されたお題目ならば、その決まり事に沿って対応すれば正解は、自ずと見えて来る。しかし、問われたお題目には、正解がない。誰も答えを知らないから新たにその答えを見出さねばならない。ランディ、ブランの双方は、新たな境地に立たされた。誰もが受け入れられる答えを求め、探す長い旅路が始まったのだ。


「幸い、今回の件を上手く取り繕うには、材料が揃っている。言ってしまえば、君が納得出来る口実さえあれば、良い。君以上に精通している者は、この町に誰もいないのだから。レザンさんに関しては、僕からも口添えしておく。一先ず、町全体への説明は、僕が話をした前兆を君も偶々、耳にして類似した犯行を行う集団に覚えがあり、行動に移した……と言った具合にしておこう。どうだい? これなら無理がないと思う」


「それが現実的なのでしょうね」


「申し訳なかった。先の情報を君へもっと早く君に届けられていれば……レザンさんと拗れる事はなかっただろうに。今となっては、この口実も使えないだろう。一先ず、君の口から本当の事を伝えれるまで待つよう、僕からもお願いをしてみる」


 ランディだけに全ての責苦を負わせるのではなく、町の長として一端を担おうとしてくれている。その心意気が何よりもランディにとって嬉しかった。例え、人の限界を超えたとしても一人の人間に出来る事は、限りがある。逆にその限りがあるからこそ、まだランディは人として生きて居られる。その瀬戸際を行き来するが故、誰よりも大切さを知って居る。


「ありがとうございます。後は、俺自身が説明をすべきなのでしょうが……」


「簡単には行かないね。先ずは、レザンさんが懸念している事を聞いてみるべきだ。時間が掛かったとしてもそれらを一つずつ潰して憂いを取っ払うしか、手立てはない」


「ですね」


「どんなに頑張っても遠くない未来にこの答えへ行き着くだろう。寧ろ、行き着いて貰う為、パン屑を落として置く方が良いかもしれない。自発的に気付いて貰った方が君も楽だろう」


 ブランは、静かにランディを諭す。ランディの想いを汲んだ上でそれでも変わらないものはないと教える。どれだけ願っても何れ、変化は訪れる。その変化が訪れたとしても変わらぬ関係性を構築する為、備えねばならない。受け入れて貰える新たな関係性を。


「でもそれは、今じゃない。レザンさんも準備が出来ていない。だから準備をして貰おう」


「はい」


「大丈夫、いざとなれば僕が付いている。そうだ、三人で話をする機会を作ろう。予定はおって僕が直接、レザンさんに伝える。だから安心して」


 思わぬ心強い味方ができ、ランディは胸を撫で下ろす。ランディよりも長く付き合いのあるブランならば分かる事もあるだろう。また、隠し事のない今なら素直に背中を預けられる。


「ご迷惑をお掛けして……」


「いや、そんな謝罪は必要ない。君の背負う運命は、重た過ぎる。それこそ、一人では背負いきれない程に。だから少しは、その重荷を分けて貰いたいのさ」


「ありがとうございます」


 ブランの言葉にランディは、深々と頭を下げた。ブランは、椅子から立ち上がるとランディの目の前まで歩いて行き、右手を差し出す。一蓮托生。ランディがこの町を思い、行動し続けるのならば。ブランもまた、ランディに対して力を貸すと言ってくれた。


「終わりが見えているなら無問題。僕の宿題は、口添えと日程調整だけだし。これ位なら屁でもない。後は、この問題が解決するまで何度も話をするだけなんだから。君みたいに何かある度、とんでもない御業を要求される訳でもない。時間なら幾らでも費やせる」


 ランディは、差し出された手を握り返す。すると、ブランが笑った。


「僕の面倒事は、これで済んだ。後は、適当な脚色をして現実味を追加すれば。正確に接敵出来た訳も死骸の見つかった地点から割り出すとか。君が怪我をした理由は、思わぬ伏兵がいたとか。適当な理由を捏ね繰り回せば、大丈夫。君の方で何か懸念事項は他にあるかな?」


「特に何も―― ご厚意でレザンさんとの話し合いに力添えが頂けると仰って貰えました。後は……個人的な悩みが一つくらいでしょうか?」


「この際だから話して行きなよ。詰まんない事でも何でも良い」


 握手を済ませた後、ブランはランディの肩を軽く叩いて催促した。既に想定外の話を聞かされ続け、ブランも大抵の事は、驚かなくなっている。今更、一つ二つ増えた所でブランは、動じない。その厚意に甘え、ランディは己の懸念を包み隠さず、明かそうと決めた。


「では―― お言葉に甘えて。実のところ、今回は俺自身に甘さがありました。基礎訓練は、きちんと取り組んでいたのですが、その……力を使う事は、殆どなかったので制御が追い付かず。余計な負荷が身体に掛かってしまって。もう、使う機会がないと願いたいのですが、それも叶わない願いでしょう。ならば、何処か人目につかない場所で訓練し、感覚を取り戻しておきたいと考えました。いざと言う時、守りたい人達を守れる様に……」


「はああ……必要がないと言っても君は、聞かないだろうね」


 茶色の瞳から並々ならぬ強い意志を感じさせるランディ。この数日で溢れ出した想いと共に己に課した決意は、重い。ブランが何を言っても揺るがない。それだけ此度の出来事は、ランディに強い衝撃を与えたのだ。その決意を突き通すには今一度、己を見つめ直し、鍛え直す場が必要だった。一切の甘えを排除し、武の道へ精進する為。取り返しのつかない後悔で涙を流すのならば、戦場で流す苦痛の涙の方が何倍もマシだ。過去に経験した友との永遠の離別みたく、悲惨な出来事を未然に防ぐと誓ったが故の決意である。


「剣を構えている間なら。俺は、誰にも遅れを取りません。けれども現状は、それから程遠い状態です。たった一度の詰まらない敗北で全てを失いたくない。絶対に負けたくないんです。何かあったその度に一歩遅れを取り戻す為、全力で走るより、能動的に誰よりも早く一歩先の所に居たいのです。それなら安心して事に当たれます」


「分かった、分かった。それも僕が場所を幾つか選定しておこう。自警団で使う用地として立ち入り禁止にしておけば、誰の目にも触れる事はない」

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