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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅴ巻 第貳章 焦がれ、狂う
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第貳章 焦がれ、狂う 6P

 間髪入れず、次の相手へ狙いを定め、ナイフは、他の三名に回してランディの突撃。二人目は、細身で猫背の短剣両手持ち。ランディの剣筋を上手く交わして来る。何度も何度も斬りかかるのだが、寸での所で上手くかわされる。更に隙を狙って短剣の乱舞がランディを襲う。四、五か所ほど、浅い傷を負って服に血が滲む。単調な攻めでは、崩せない。


 一度、距離を取ったランディは、剣を地面に突き立てて腰からナイフを二本抜く。同じ間合いでの勝負に転じ、互いに目にも止まらぬ速さの応酬が続く。ナイフは、深手を負わせるのには物足りなかったが回避の速度と小回りのきいた動きには対応出来た。刃を弾き合い、急所を狙って地味な命のやり取りを繰り広げる。そんな中、不意を突いてこれまでにない短剣の鋭い一撃がランディの首筋へ真っすぐと向かって来た。


 ランディは、咄嗟の反応が出来ない。こま送りでゆっくりと迫る短剣を前にランディは、大きく目を見開く。すると次の瞬間、ランディの姿は、蒼光の残滓を残して相手の前から跡形もなく、消えていた。手ごたえ無く、空を斬る短剣。そんな相手の背後をいつの間にかランディが取っている。ランディは、相手の両方の肩口へナイフを深々と突き立てた。そしてまた、姿を消すと今度は、地面に突き立てた剣の横に移動している。


 肩口に刺さったナイフにより、稼働範囲が制限され、明らかに動きが鈍る相手の両足をランディは、剣でまとめて切断し、動きを止めた。距離を取る為、宙返りをして振り向きざまに斬撃を飛ばす。剣の刃から解き放たれた蒼き斬撃は、音を追い越して風を切り、目の前の敵に向かって行く。斬撃に触れた瞬間に敵の体は、文字通り消し飛んだ。三人目を目の前に息を少し荒げながらナイフを操り、残りの二人へ十本ずつ差し向ける。


 操るナイフは、確実に効果を上げている。相手の足止めと時折、裂傷を与え、戦力を削るのには充分であった。頬に薄っすらと切り傷が入り、血が滴り落ちる。その血を服の袖で拭い、剣の血糊を振って落とすと槍を手にした自分と体格の似た三人目へ。真っすぐ切っ先をランディへ向けて突進してくる残党。単調な動きは、読みやすいとランディは、油断していた。槍をかわした所で乾いた発砲音と共にランディの右足に衝撃が走る。


 しまったと負傷した箇所を見ると、銃で打ち抜かれていた。すれ違いざまに銃の発砲。奇をてらった戦法は使ってこないと高をくくっていた怠慢。焦りを覚えつつ、右足を庇い、距離を取っていた相手へ追撃。槍でナイフの挙動に対応出来ていなかったのか、先ほどの相手よりも苦戦する事無く、切り掛かって何度目か斬り結びを経て首を落とすと、左の拳を強く握り、蒼光を纏わせて真っすぐ突き出す。残党の腹部に衝撃を炸裂させ、大きな風穴を開ける。大きな血溜まりを作りながらも辛うじて上半身と下半身が腹部の両端で繋ぎ止められた状態でもふらふらとランディへ向かって来る三人目。明らかに動く筈のない状態でも止まらない相手を前にランディは、ある種の憐憫を覚えた。


「もう……止まれ」


 目にも止まらぬ速さで残党とすれ違うランディ。何もなかったように思えたが、一拍置いてから残党の体が細切れとなって地に崩れ落ちる。


「はっ……はあ。三人目。つぎっ!」


 全てのナイフを残党の片割れに差し向けて狙いを定めたのはがっしりとした四人目の剣士。足を負傷した為、なるべく時間を掛けたくない。今のランディは、どんな手を使ってでも勝たねばならない。距離のある相手の前でランディは、右手を突き出し、手を開いた後、ぐっと握りしめる。すると、何処からともなく現れた蒼い炎が四人目の残党を包み込む。必死に残党が振り払おうとも纏わりつく蒼炎。空から降る雨すらも瞬時に蒸発させる地獄の業火にじりじりと身を焦がされ、少しずつ足から炭化して最後は、灰も残らず燃え尽きる。残ったのは、地面の焼け焦げた跡のみ。


「ぐっ―― 少し調子に……乗り過ぎた」


 力を使った後、ランディは、心臓の箇所を左手でおさえる。思わず、手から零れ落ちそうになった剣を握り直し、ふらつく足に活を入れ、最後の五人目をその瞳に捉える。大柄でランディよりも五割増しの身長と大きく腹の突き出た鎚矛持ちだ。既に二十本ものナイフに取り囲まれている。何本か捌ききれず、身体の至る所へ深々と刺さり、動きを物理的に阻害されていた。


「残るは、お前一人。お前の顔が五人の中で一番憎い。今でも覚えているよ、その顔……キールを殺った奴だ。お前だけは、確実に仕留めたと思っていたんだけど」


 左から右へ剣を薙ぎ、正眼に構える。歩く事もままならず、左足を大きく引き摺って向かって来る相手へ最後の慈悲として一撃で仕留める事にした。今にも爆発しそうな程、早まった心臓の鼓動に眩暈を覚えるが、ぐっと堪えて集中する。腕に蒼光が集中し、それが剣の刃に伝って行く。


 全ての光が行き渡った瞬間、ランディは剣を振り下ろす。すると先ほどとは、桁違いの大きな斬撃が真っすぐ飛んだ。雨や空気を切り裂いて地面に大きな傷を作りながら残党へ迫る斬撃。衝突の瞬間は強い光が生じて見えず、残党を消し飛ばしても尚、勢いは衰える事なく、方向を変え、一気に空高く打ちあがり、雲を切り裂いて空の彼方へ消えて行った。斬撃を見送った後、剣を地面に突き刺し、杖代わりにして膝をつくランディ。息も上がり、肩を激しく上下させて立つ事もままならない。


「っ! 久々に全力を……出し切った。弛んだもんだ、俺も。いや、体力は……そんなに変わってない筈だから力に翻弄されているだけか……時々、人里離れた場所で使うべきか。体を慣らして感覚を取り戻さないと。無駄な力が体中を駆け巡って負担になっている」


 自己分析をしながら雨露に濡れた草地に大の字で倒れ込む。大きく息をしながら動悸が落ち着くまでじっと堪える。徐々に火照った体が雨で冷やされて行く。


『まあ、何にせよ―— 敵は、取れた。でも、確認不足は宜しくないなあ……あの時、全部終わらせたとばかり……思い込みは、良くない。加えて町を無用な危険に晒してしまった。こればかりは、言い訳出来ない。何とか、自分で尻拭いは出来たけど……次はない』


 動かない体に鞭打って先ずは、負った怪我の治療を簡単に済ませる。それから散らばっていたナイフを呼び戻し、一本ずつ返り血を手拭いで軽く落としてから嚢に戻して行く。剣を鞘に戻し、手放した銃と外套も回収し、出立の準備も整った。


「雨も止みそうにない。このままだと、風邪を引く。直ぐに帰ろう……流石に疲れた」


 痛む体を引き摺り、ランディは馬を繋ぎ止めた場所まで歩く。


 途中、何度も立ち眩みを覚え、ふらつきながら這う這うの体で馬の所まで戻るランディ。


「帰ろう。君も本当にご苦労様」


 馬の背を軽く叩き、労うと一気に跨る。帰りも長い。馬を走らせる体力も残って居ないのでゆっくりと歩かせるのがやっとだ。視界が雨と蓄積された疲労と痛みでぼやける。時折、意識を持って行かれながらも道順に沿って歩かせる。徹頭徹尾、馬もランディの指示に従ってくれたお蔭だ。きちんと調教されている馬を選んでくれたレザンに感謝しかない。

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