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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅴ巻 第貳章 焦がれ、狂う
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第貳章 焦がれ、狂う 2P

 先にもランディが言っていたお伽噺から飛び出して来たかのような相手と再度、説明されたルーは、付き合い切れないと頭を掻き毟り、投げ槍になる。人並外れた精神力や残虐性をもってしても人の手が届く領域ではない。


「もしかして―― ノアさんから聞いたの?」


「ああ、君が何か悩んでいるから相談に乗ってやれってね」


「余計な事を。兎に角にも……到着する前に俺が打って出る。それまでの間、人の出入りに制限を。特に山側へ続く街道は、立ち入り禁止にしてくれ」


 ランディは、拳を強く握りしめ、覚悟を確固たる意志とし表明する。有言実行と言う言葉は、あまり好きではない。されど、そう言った生温い事も最早、言えない。何としても確実に仕留めねば、後がないと改めて思い知る。


「あい、分かったよ。必要なものはあるかい?」


「ない。もし出来るなら当日、フルールの気を引いてくれると助かる」


「また、君が戦場に赴くとなれば、何をするか分からないからね」


「生半可な相手じゃないから少しでも生き残る可能性を上げておきたい」


 唇を噛み締めながらルーは渋々、約束を交わす。何度も難局を乗り越える為、協力し合って来た。それは、この件も変わらない。互いに出来る限りを。どちらかが出来ない事は、どちらかが担当する。背中を預け、戦って来たのだから。


「君に其処まで言わしめる相手って……何だかんだ言って小規模だけど、二十人以上の集団を相手取ってほぼ独りで制圧した君が」


「人数は、あの時よりもずっと少ないけど……単純な力比べなら俺よりも上。考えなしに正面から正々堂々、殺り合えば確実に勢いで押し負ける。ズルしてやっと勝てるくらいだね。何とも……実入りの少ない賭けだよ」


「尚更、あの子には言えない。君も気を付けてよ? 今みたいな思わせ振りな顔をしてたら直ぐバレる。それどころじゃない。ちょっとでも匂わせたらおしまいだ」


「気を付けるさ」


 顔色の優れないランディは、精一杯の冗談をのたまう。確証はない。勝算も。本当は、弱音を吐きたい所だが、ルーに弱さを見せたくない。これからも対等な関係で高め合う友人としてありたいから。折角、積み上げた関係性をこんな出来事で崩したくないのだ。


「君、肝心な所で脇が甘いからね。気付かず、目の前で装備の点検でもやりそうだ」


「やらないって」


「正直、言わずにはいられない。信用してないもん。例をあげれば、キリがないし」


「分かったってば……気取られない様にギリギリまで何もしない」


「そうだよ? 何時もみたいにぼーっとしてれば、僕は何も言わない」


 ランディの心情を知ってか知らずか気をもむルー。前段階で気を張って本番に浮足立って本領が発揮出来なければ、仕方がない。普段通り落ち着いてその時を待つ。戦事は、先に平常心を失った者から負ける。勝利を目の前に白い歯を見せたり、敗北が近いと焦るのも然り。無心で確実に一歩一歩先に進んだ者が勝つのだ。


「兎にも角にも君の言う通りなら僕らは、本当に只の役立たず。せめても君が十全に力を発揮出来るように努める。だから……」


「言わなくて良い。出来ない約束はしたくない。それに俺は、過度に期待されると萎縮する」


「なら、終わったら一杯やろう。僕の奢りで」


 必ず帰って来いとルーは、ランディの胸に拳を突き立てる。ルーとて、守られない約束は交わしたくない。それでも言っておかねば、ランディを引き留めるものがなくなる。


 そうなれば、自身の命を賭してでも戦いに身を投じてしまう。


 本来なら別の者の役割だとルーも分かっているが、それは無理な話だ。


「本当に? 君、お金ないのに……まさかっ! 職権濫用で手を出しちゃいけないお金を」


「何だかんだで会合があったりすると、お小遣いくれようとしたりするんだよね。主に上の人へ。全員、断ってるけど。勿論、僕は下っ端だからそんなのない。後、個人の裁量で使い込みが出来る立場でもないからその可能性もない。きちんと、僕の財布から出るさ」


「会計が足りなくて俺の財布からもお金が飛び立って行く未来が容易に想像出来る」


「それは、ランディ次第さ。慎ましやかに嗜んでくれればね」


「君の方が慎ましやかに楽しめないだろう? 俺より飲む量、ずっと多いし」


 肩を竦めながらランディは、笑う。


「君が煙草ばかりに浮気しているからだ。偶には、酒ととことん向き合わなくっちゃ」


「安酒と一夜を共にする趣味は無いよ。向き合うなら高いのを買って独りで向き合うさ」


「僕の父親と一緒だね。静かに飲んで何が楽しいのやら」


「香り、味、侘び寂び。仄かに揺らめく蝋燭の火をつまみにして窓から流れ込む静かな音に耳を傾けるのさ。君には、この素晴らしさが分からないだろうね」


「問題は、他人様から只の自惚れ屋か、背伸びしたマセガキか、それとも年寄り臭いとしか見られない事。年相応と言う観念を君は、鍛えた方が良い」


「個性だよ、個性」


「只の根暗な奴だよ。自画自賛は良くない。きちんと君は、自分と向き合うんだ」


「はいはい、分かりましたよ」


 皮肉を言い合い、指揮を高めるランディとルー。


「頼んだよ、悪友」


「頼まれた」


 最後の約束とならぬ為。互いに譲れない戦いへ。これほど、心強い戦友はいない。



 夜。


「旨かった。御馳走様」


「良かったです」


「やはり、この時期からだな。野菜が旨く感じるのは」


「そうですね。冬や春先は、保存しやすいものばかりですから」


「取れたては、みずみずしくて良い。生で食べると顕著だ」


「有難み、分かります。でもこれが長く続くものだからいつの間にか当たり前になって忘れてしまうんですよね。困ったものです」


 いつも通り、夕食を二人で終え、ランディとレザンはのんびりと過ごしていた。ルーから言われ通り、普段と何も変わらない姿を装う。下らない話に花を咲かせ、のんびりと酒に興じる。レザンが本を読む向かい側でランディは、書き物をしていた。


「それを何度も何度も続けて行くのだから人とは、学ばないものだ。だが、忘れるから新たな発見がある。気付かなかった事に気付ける。思い出す事も出来る。感情が動かなければ、目の前に広がる世界が少しずつ色褪せて行くからな。まっこと、人とは不便な生き物だ」


「おっしゃる通りです。それを楽しめるくらいの器が無いと、駄目何でしょうね」


「其処まで達観しろとは言っていない。年相応に愚かしく在りなさい。何処かでこう言うモノだと予防線を張ってしまっては、何事も本気でなくなる」


 時折、机の杯を手に取り、中の葡萄酒に舌鼓を打つレザン。ランディは、目の前の紙束へ集中し、煙草をふかしながら頭を悩ませる。普段と何も変わりない光景が其処にはあった。


「上手に生きるのも重要だが、別にそれが全てではない。時には、見方を変える為、ありのままを受け入れろ。思考が凝り固まり、意固地になるのは、年を取ってからで十分だ。若い内は、見聞を広め、失敗を積み重ねるものだ」


「はいっ」


 例え、その安寧が束の間で心の中では、不安と緊張感が満たされていたとしてもランディは、しがない若者を演じきっていた。


「そうだ……話は変わるが忘れる前に一つだけお前に伝えておこう。今日から三日間の間は、不用意に町を出るなとお達しが出た。勿論、お前も例外ではない。腕っぷしに自信があるのは認めるが、必ず守るように」


「へえ……いきなりですね。分かりました。絶対に町から出ません」


「ブランも詳細は、掴めていない。きな臭い案件だ。お前でも手に負えない可能性が高い」


「そうですね。只の賊であれば良いのですが。町へ直接、侵攻して来る規模の集団ならもっと事前に話が出回ってるでしょうし。此方が隙さえ与えなければ、怖くは無いでしょう」


「少なくとも町の外からの依頼は、来ていない。急ぎの案件が来ても期日以降より受け付ける。お前は、いつも通り仕事を熟せ」


「はい」

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