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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅴ巻 第貳章 焦がれ、狂う
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第貳章 焦がれ、狂う 1P



 慰霊碑に足を運んだ日の午後。ランディは、相も変わらず仕事に励んでいた。一つだけ普段と違うのは、仕事中である筈のルーが『Pissenlit』で油を売っている事。常日頃から忙しい、猫の手も借りたいとぼやいていたにも関わらず、来店早々、椅子に座ってカウンターに肘をついてだらけていた。買い物もせず、訪れた理由を話す訳もなく、黙って補充作業に勤しむランディを眺め続けている。天気も良く、もっとサボるのなら適切な場所があるにも関わらず。態々何故、この場所を選んだのか。その真意は、ランディにも分からないが、特に邪魔をして来なければ、気に留めない。


「ふむ……時に君、何か抱えている事でもあるのかい?」


 居ないものだと思ってランディが作業に没頭していると、藪から棒に問い掛けて来た。まるで心の内を見透かされているかの様に。棚から視線を外し、ランディが振り返ると皺ひとつない真っ白なシャツを着た半笑いのルーが首を傾げていた。


「いきなり何さ? 特にいつもと変わりない」


「君、自分で分かって居ないけど。如実に出るんだよ。それに返答が何時もより早い。何もなかったら少し考えた後、特にないかなって戸惑いながら言う」


 自分の顔を指差し、余裕がないと指摘するルー。確かに挙動が読みやすく、単純な人間であると自覚しているも現在のランディは、仕事に勤しんでいる。一辺倒な見方で分析されるのは、心外だ。寧ろ、集中しているからこそ、余裕がないのだと突慳貪な返事を返す。


「別に……いつも一緒とは限らないさ。今、仕事してるし。俺が単純なのは認めるけど」


「君の良い所は、隠し事が下手な事なんだ。駄目だよ。唯一の長所を台無しにしちゃあ」


「喧嘩……売ってる?」


「今だって遊びが無い。いつもの君ならこんな些末な事でムキにならない」


 体をカウンターから起し、足を組むと横柄に振舞うルー。わざとランディの機嫌を損ねるような言動と行動を取り、揺さぶりを掛けている。姑息なやり方をこよなく愛するルー。今も笑顔が絶えず、明らかに楽しんでいる。


「聞いたからって僕が何かする訳じゃない。君がやりたいと思っている事を邪魔した事があるかい? 徹底して放任主義を貫いているこの僕が?」


「ない。ないったらない」


 相手にするだけ無駄だとランディも分かっている。態々、相手の得意な領域で挑むほど馬鹿ではない。これ以上、話す事はない。ランディは、拒絶してルーを跳ね除ける。此処でスちょっとでも隙を見せれば、付け込まれるからだ。堂々と正面から踏み込んで来るので明らかに第三者からのタレコミがあり、ルーはその実態を知る為、此処へ来ている。


「この期に及んで懲りず……また、死地へ赴く心算かい?」


「こんなにも穏やかな地でそんなものはないよ」


「別に元からあるとは、言って無い。もう一つ。指摘すると君が何かに警戒している時は、目に生気がない。油断なく、全身で辺りの気配を吸い込む様に窺う。と言う事は……何か、良くないものが此処に向かっているんだね?」


 転んでもただでは起きないとばかりにルーは、形振り構わず、当てずっぽうにランディへ質問を投げ掛ける。煮ても焼いても食えないのならどんなに手間が掛かっても特殊な調理法を利用して食べようとする。勿論、目的遂行の為ならば、相手の心情など二の次だ。


「そんなものは、来ない。来たとしても絶対にこの町の敷居を潜らせたりしない」


「はあ……君は、事の重大さが分かって居ない様だ。僕は、君に個人的な興味でこの話をしているんじゃない。役場の職員として君に問い質しているんだ。それが分からない程、君も馬鹿じゃない筈。何かあれば、僕らは、きちんと皆を安全な場所へ誘導しなければならない」


 椅子から立ち上がり、ランディの目の前まで来ると、胸倉を掴んで来た。そして、真剣な眼差しをランディに向けつつ、事の重大さを説く。当然、ルーにも後に引けぬ理由がある。


 町の安全を一番に考えているのは、ランディだけではない。一人で全てを背負うには、ランディと言う存在が小さいとルーは、言っているのだ。本気のルーに戸惑うランディ。


「好い加減、君も責任感と言うものをもっておくれ。君一人で解決するって言ってもたかが知れている。場合によっては、ブランさんに動いて貰う必要も出て来るんだ。秘密裏で何とか出来る状況じゃない。情報の公開は、僕も必要最低限に留めるから……」


 低い声で懇願するルーにランディは、根負けした。


「三日後……良くないものが来る」


「この前科者め。やっと口を割ったか」


 やっとランディが口を割るとルーは、暴言を吐き、深々と溜息を吐いた。


 そして胸倉を離し、額に手を当てて表情を曇らせる。


「っ!」


 酷い言い草にランディは、ルーを睨みつけた。


「そう、睨まない。それにしても参ったな……その様子だとまたとんでもない事になりそうだ。君は、この町とって幸運の金糸雀だ。勿論、炭鉱に居る奴だよ」


「悪かったね」


「君の所為じゃないから仕方がないんだけどね。言い過ぎた、ごめん」


 怒るランディを宥めすかしながらルーは、状況の整理を始める。一つ一つ町の置かれている現状に光を当てて把握してから対処法を考えねば、簡単に足元を掬われる。 


 今は、じっくり腰を据えて備える時。差し迫った状況であるならば、尚更だ。


「君は、どうやってその情報を知ったのかな?」


「説明し辛い……例えるなら特有の臭いを嗅ぎ分けていると言うべきか」


「君は、犬だったのかい? いや……『Cadeau』か」


 ルーもそれ以上、深く追求する事はなかった。それは、ランディの浮かない表情を見て配慮したのだ。また、『Cadeau』と言えど、その察知能力が異質であった事も理由の一つ。


 当然ながら今、この場で問いただしたとしても状況が好転する訳でもない。


「その一種だと思って貰って構わない。今も山の方から肉が腐ったような臭いみたいな感じのが風に乗って此処まで漂って来ている。日を追う毎により酷くなっているよ」


 うんざりした顔で鼻を摘んで見せるランディ。


「何が来るのは……流石に教えてくれないか」


「君は、知らなくて良い。知ったら本当に戻れなくなる。俺も大概、人から蔑まれ、非難され、物を投げつけられても文句が言えない殺人鬼だって自覚はしてるけど……これから来るのは、俺以上にタガが外れている危険因子だ。理性も何もない。只、殺戮を好む」


 笑顔を取り繕いながらランディは、首を横に振る。冗談交じりに自分を卑下してみせたが、話の内容は、荒唐無稽だ。俄かに信じがたい話ではあるものの、この期に及んで嘘を言っても仕方がない。実情は、ランディ自身も己にのしかかった緊張感を強がって誤魔化している。


 思った以上に最悪の事態であると、ルーは理解し、生唾を飲む。


「……勝てる見込みは、あるのかい?」


「今、葬り去っておかないと際限なく、無差別に不幸をばら撒き続ける。生憎、捕らぬ狸の皮算用をしている暇はない。言っておくけど、単純に頭数を揃えて問題は一緒。寧ろ、足手纏い。被害が増えるだけで何の解決にもならない」


「そんなのやってみないと分からない」


「君は、足を失っても次の生贄を求めて彷徨い続ける亡霊に勝てる算段は? 腕が無くなっても剣を……銃を取り、求める意味も分かんなくなって形骸化した飽くなき欲望を満たそうとする悲しい物の怪の類いにどう抗う?」


「偶に君が真面目な顔をして荒唐無稽な話を呟くのを聞いて……僕がどう思うか。君には分からないだろうね。勝手にすれば良い」


「あの時とは違って君やノアさんと組んでもみすみす君たちを見殺しにするだけだろう。それだけの面倒事だ。こころづかい、感謝するよ」

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