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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第貳章 条件と隠し事
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第貳章 条件と隠し事 4P

思わず、此方が気圧されそうになるほどの邸宅の正門前。目の前の門は閉ざされているから入れなかった。また、詰所もあるのに肝心の門番がいない。


どうするべきかとランディが考えあぐねた。


「気にするな、ほら行くぞ」


「うえ? 勝手に入って良いんですか?」


ない頭を捻るランディの隣でレザンは当たり前のように門を押し開ける。


自由奔放な振る舞いのレザンに冷や冷やさせられるランディ。


「うむ、問題ない……それと一つ君に教えておこう。ランディ」


レザンがまるで小さな子供に聞かせるような口調でランディの右肩に何故か手を掛ける。


「はい、何でしょう?」と言い、きょとんとするランディ。


「この町では何かを求めても必ず与えられる訳ではないし、探し物をしても見つかる可能性は五分五分、門は叩いても開かれない」


冗談なのは分かるが、レザンの顔には相当の怨念が込められていた。誰とは言わないが、様々な人間に迷惑を掛けているらしい。レザンは言いたいことは言ったと門の中へと入ってしまう。


「いや―――― あのう、偉い方の邸宅ですから勝手に入るのは無礼かと思ったのですけど」


追い着きつつ、ランディが声を掛ける。


「気にするな、立派なのは本当に見た目だけだ」


正門から近い玄関に着いたレザンは立ち止る。


「わっ、分かりました」


ランディも右に習えとあたふたしながらレザンの二歩手前で立ち止った。レザンは厳しい人だ。でも、その厳しさは優しさから来るのだろうとランディは思った。玄関に着くと流石のレザンも呼び鈴を鳴らす。直ぐに中から扉は開けられ、短い茶髪の燕尾服を着た若い男が二人を出迎える。執事は精悍な顔立ちに優しさが溢れる目、真一文字に結ばれた口。身長はノアと同じくらいで体格が良い。黒の燕尾服と白いシャツのコントラストに眩しさを感じる。


「うわあ……」


ランディは蛇に睨まれた蛙のように固まって動かない。何故ならランディは格式や礼儀作法と言う言葉にはめっぽう弱いからだ。今まで一般庶民と軍人などと気品には程遠い生活を送って来たから。正門で戸惑ったのはそれが原因だ。


「こんにちは、レザンさん。お久しぶりですね」


ランディを慄かせた若い男はレザンへ丁寧な対応をする。頭を下げる角度は三十度。


背筋が真っ直ぐ伸びた恐ろしく、綺麗な挨拶だ。


「ああ、久方ぶりだな」


「はい! 今日は我が主ブランに用談があっての御訪問と聞いております……確か、主人からは新しく住まわれる方についてのお話と聞いていましたが」


親しき中にも礼儀ありとセリユーが邸宅の管理者としてレザンに用件を聞いた。


「そうだ、用件というのはこの子の相談でな。ほらランディ、彼はこの邸宅で執事をやっている、セリユー・ミエルだ」


「レザンさんから御紹介に預かりました、セリユー、セリユー・ミエルです。どうぞ、宜しくお願い致します……ランディ君で良いかな?」


ランディが緊張していることを直ぐに察知した執事、セリユーは笑顔でなるべく、フランクな話し方をする。


「はっ、はい! ごっ、ご丁寧にどうもありがとうございます。ランディ・マタンです!」


大人の余裕を持つセリユー。ランディはセリユーのような落ち着いた雰囲気を持ちたいと内心思った。幾らレザンが何と言おうと腐っても町長の家だ、雇っている人間も半端ではない。


「ランディ君、そんなに緊張しない下さい。それでは中へ御案内させて頂きますね。此処では冷えてしまいますから」


再度、頭を垂れながら二人に中へ入ることを勧める執事のセリユー。


「ああ、頼む」


「おっ、お願いします!」


邸宅自体は三階建て。民家の十軒分の幅はある。中へ入ると最初にランディたちを出迎えたのは大きなエントランスだった。目の前には階段。また階段を含め、床は真っ赤な絨毯が敷いてある。そして所々に高そうな美術品が。内装も豪華で掃除もしてあり、埃一つない。


「外套をお預かり致します」


セリユーは泥落としのマットで靴の汚れを落とすランディとレザンの外套を預かり、コート掛けへ引っ掛けると邸宅内の案内を始める。


「緊張するな、ランディ。右と左で手と足が一緒に出ているぞ」


「あはははは」


動きがギクシャクして調子が狂っている。そんなランディをレザンは窘める。一階のある部屋の前で立ち止まり、扉を開けてレザンとランディを中へ招くセリユー。此処が応接室らしい。


「では、此処でお待ち下さい。只今、呼んで参りますので」


セリユーは二人に対になっているソファーの片方へ座らせ、暖炉へ火を入れる。そして外から熱い茶を持って来ると部屋から出て行ってしまった。レザンはゆっくりと茶を楽しみ、寛いでいたがランディは辺りを忙しなく見ている。何処を見ても部屋に置いてある調度品は高そうなものばかりが目に入り、落ち着かない。ストレスが溜まる一方だった。


緊張で落ち着けず、肩に力ばかりが入る苦しい時間が五分ほど経った。そろそろランディの痺れが切れる寸前の所で扉の方からやっとノックがされる。中に入ってきたのは二人の男。一人はセリユー。もう一人は軽い印象を与える三十歳前半位の男。身長はランディと同じだろう。黒髪をオールバックで後ろへ流し、一癖も二癖もあるような目つき、面白いことを嗅ぎ分けられそうな鼻とへらへらした口。黒の背広に灰色のベスト、特注であろう赤いシャツ、スラックスはやはり、上と合わせての黒。まるで悪魔だと文句が言われそうな格好だった。


「いやはや、済みません。遅くなりました」


男はセリユーを後ろに控えさせ、反対側のソファーに座った。


「昨日ぶりですね、レザンさん」


「ああ、昨日ぶりだ」


簡単に挨拶を済ませる二人。


「休みとは言え、僕も忙しい身。早速、本題に入らせて貰うよ?」


「構わん、此方もとっとと終わらせたいと考えていた」


男が親しげに話しているのにレザンは気も漫ろで急かすばかり。


「はいはい、それで今日は僕にある青年がこの町に住みたいと言うから相談に乗ってくれとあなたに聞いたのですけど、其処の彼が今回の相談事か……な?」


男はこの時、初めてランディを視認する。やはりこの男が町長で間違いない。町長にしては随分、若い気がするが何かの才覚を感じさせる人物だ。しかしランディを視認してからはぽかんと口を開け、顔をじっと見るだけで相談事には興味がない様子。親しげな印象は何処かへ行き、応対も何故か上の空。ランディは緊張して思わず、身震いをする。その時、右耳のイヤリングが窓から入る陽光に当たって光った。


「ごほんっ! そうだ。ブラン、今日相談しに来たのはこの子のことだ」


レザンはブランの態度が気に入らないのか、意識を此方に向けるよう、咳払いで注意をする。


「ランディ、これはブラン・クルール。先ほども言ったが半分趣味で町長をやっている馬鹿だ」


苛立ちが目立つ不機嫌なレザンの紹介は雑。


「……随分、酷い言い草だなあ。レザンさん。まあ、僕の紹介はそれで良いや。僕を呼ぶ時はブランでお願いね。青年! それで君の名前は?」


古い仲なのかレザンの憎まれ口をサラッと流す、ブラン。


「あ、はい! 名前はランディ、ランディ・マタンです。えっと、五日前にこの町に来ました」


「そうか、そうか! 宜しく、ランディ君。いや、何だか面白くないからランディと呼んでも良いかな?」


「はい。ブランさん、宜しくお願いします」


「それで君はこの町に住みたいらしいね、どうしてだい?」


「はい。それではまず、最初に俺の事情からお話しします。そもそもの始まりは……」

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