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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第肆章 あからさまなパンくず
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第肆章 あからさまなパンくず 5P

「……酔わせて何するつもり?」


 自分から話を振っておいてその返答はないだろうとランディは苦笑い。嫌に期待を込めた視線をランディに向けるシトロン。もう、オチは見えているが誘われている以上、乗るしかない。詰まらない答えをあれこれ考えるよりも効率が良い。


「君が今、考えている事より三割増しの事を?」


「そうなると……政治討論を朝までだね。これでも詳しいんだぞ? オジサンたちと話を合わせないといけないから。お日様が顔を出す前くらいに解放しようと思ってたけど、折角だからランディくんの要望には応えないと」


「ごめん、俺の想像の遥か上を行ってた―― 楽しそうだけど何卒、ご容赦を」


 目を瞑って満足そうに頷くシトロン。予測していた通りで少々、腑に落ちない所もあるが納得するしかない。何より、この戯れも楽しいのだが話を先に進めたかった。


「まあ、冗談はおいといて。この後、野菜の納品をしに町へ来るからレザンさん所に寄って貰える手筈になっているの。相談しないで勝手に決めちゃったけど、応対して貰えるかな?」


「勿論、大丈夫さ! 昼を食べたら直ぐに帰るよ」


「何? お昼なんて! 何て、ぜいたくなっ!」


 わざとらしく、驚愕の表情を浮かべ、両手を口元に当てるシトロン。これも思っていた通りの反応だったので肩を落とすランディ。昨日の醜態で著しく体力を消耗し、食べ物も喉が通らなかったのをシトロンも知って居る筈だ。


「昨日の夜が散々だったからね……朝が食べられんかったのだよ」


 シトロンは、右手の人差し指を振ってランディの言い訳を途中で遮る。これから言われる事もランディには何となく想像がついた。酒飲みに言い訳や二言はご法度だ。酒飲みとしての資格がない。ただ、分かって居ても言いたくなる時もある。


「仕方ない、それが世のさだめ。寧ろ、その状態から朝ごはん食べれるようになって一人前」


「こりゃあ、一本取られたね……我ながら情けない」


「もうちょっと頼もしくなってくれないと私の付き添いは任せられぬ。夕食は、また今度ね」


「おきづかいどうも」


「昨日、約束通り来てくれて皆でいっぱい飲んでくれたからねっ! それで十分」


 きっちりと叱りつつも最後にとびっきりの笑顔で恩に着せないシトロンには勝てそうにない。話に一段落がつき、ランディは昼食に向かおうとシトロンに別れを告げようとした途端に又もや、背後から声を掛けられてあっさりと予定が覆されてしまう。


「ランディーさーん!」


「ランディ―さんっ!」


「おおっ、ルージュちゃんにベル。こんにちは」


 振り返れば、背後にはルージュとヴェールが待ち構えていた。双子は、妙に興奮した様子でやけに期待の籠った視線をランディに向ける。どうやら双子も何かしらの情報を持って来てくれたようだった。


「ちびっ子たちめ。誰かを忘れちゃあいないかい?」


「ごめんなさいっ! シトロンねえ、おはよー」


「シトロンねえ、ごめんなさい。いそぎの話だったので」


「おはよーう。それにしても焦るなんて珍しい。訳を話してみるが良い」


 周りが見えていなかった双子は、ランディのすぐ後ろにいるシトロンに声を掛けられてやっと気づいた。普段は、見られない双子の様子にシトロンは訝しげに問い掛ける。


そんなシトロンにヴェールは、もどかしそうに事情を説明した。


「そうなの! ランディさんがひろったこいぬの事で」


「何だい? マルマルの里親探しを二人も頼まれていたのね……さては、見つけた?」


「せいかーい! ちょうど、今からお店に向かうところだったんだー」


「二人もって―― 言う事は……シトロンねえも?」


 三人、女子が集まればと古人はよく言ったものだと、この場においてどうでも良い感心をしながら盛り上がる三人を尻目に段々と姦しくなって来たこの場をどう収拾しようかとランディは、考えあぐねていた。勿論、双子が見つけて来た里親候補についても知りたいが、当初の目的からかなり遠ざかり始めている。このままでは、飯にありつくのもままならない。


「そうだね、私も見つけているの。つまりは好敵手ってやつよ」


「まあ、マルのお家探しが本題だから誰が勝ったとか、負けたとか、そう言う勝負事ではないさ。それで二人は、誰に声を掛けてくれたのかな?」


「昨日、ふじんにおはなししたらきょうみがあるっておっしゃってました」


 シトロンの横道にそれる話を軽くいなし、双子に問うと。なるほど、なかなかに有望な候補をきちんと紹介してくれた。ランディは、双子の頭を労いも兼ねて褒めながら両の手で撫でる。ルージュは少し鬱陶しそうに目を瞑りながらも。ヴェールは、耳を真っ赤にさせながら俯いて大人しくランディに撫でられていた。その様子をシトロンは何とも言えない複雑な表情でじっと黙って見つめるばかり。


「それはありがたいお話だ。どうしようか……俺が直接、マルと一緒に邸宅へ参上した方が良いかな? それともいらっしゃって頂いた方が良い?」


「きょう、おみせに来てもらえるって。買いものしたからって」


「なら、早めにご飯を切り上げて帰らないと」


「急ぎでなくても良いよ? 午後のお茶が終わってからだって」


「それは助かる」


先のシトロンと同じ様に話は、とんとん拍子で進むのだが、代わりにランディの午後の予定が過密の道を驀進し続ける。ランディもその危機感に少しずつ苛まれて焦りが生じる。


現状、夕刻には司教との約束が最優先事項だ。それまでにマルの件を丸く収めつつ、結党に向けて体力を温存せねばならない。それには食事を是が非でも成し遂げたかったのだが、更にその予定は思わぬ人物によって三度目の横槍が入る。それは。


「やっと見つけた。ランディ……探したわ。それとシトロン、ベル、ルージュ……おはよう」


「えっ? フルール、お疲れ―― って、うわっ!」


又もや、背後からか細い声を掛けられて振り返ると其処には、普段の元気が全て消し飛んだ満身創痍のフルールが。髪だけは綺麗に梳いて一纏めにして前に垂らしていたが、化粧っ気がなく、艶やかな頬も今日は青白く、茶色の瞳には生気がない。いつもの服装に厚手の紺色の肩掛けを身に纏っている。未だ、ランディ以上に体調が悪いに違いない。足元も覚束なく、やっとの事で歩き、此処まで来たのだろう。


「はえええ」


「うーん……」


「やっぱり、想像の通りだったわ。化粧くらいきちんとしてきなさいな」


 反応は、三者三様。事情を知らないルージュとヴェールは、心配そうに口元に両手を当ててフルールの有様に驚き、事情を知って居るシトロンは、呆れ顔で肩を竦める。


 同族のランディは朝方の己と重なり、フルールの心中穏やかでない事を共感する。


「随分と三人とも失礼ね……人の顔見てその反応はないんじゃない? シトロン、今のあたしには、髪を整えて白粉叩くのが精一杯だったわ」


「どんな時も女を忘れるな。これ母さんの言葉」


「はいはい……あんたの母さんは正しい」


 シトロンの一言がフルールに突き刺さる。シトロンは、男女に限らず当然の正論を突き付けているのでフルールはぐうの音も出ない。先程、叱られたランディと同じだ。


「それにしてもよく外に出られたね。風前の灯火じゃないか? 今にも倒れそうだよ」


「フルールねえ……ちょうしがわるいならねてた方が良いんじゃない?」


「うん、私もそう思う」


 一方的にお叱りを受ける姿を見て理由を知らない双子は、フルールに同情するのだが、シトロンは慈悲もなく、淡々と事実を述べた。最早、其処にランディの知るシトロンは居ない。


「双子ちゃんたち、心配は無用よ。昨日の夜、私ん家に皆と一緒に来て散々、はしゃいで遊び倒した結果だから因果応報って奴ね」

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