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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第傪章 忙しない日々の始まり
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第傪章 忙しない日々の始まり 1P


    *


 その日より、ランディは動き始める。無論、無計画に進める事は無く、手始めに出来る事を考えた。何せ、ランディ一人では、出来る事が限られている。教会を修繕するならば、一人でも出来るが資材や資金を集める伝手はない。礼拝に人を呼ぶにも周りの近しい人から声を掛けるのが精々だ。


先ず、協力者を募る所からランディは、考えた。幸い、ランディにはこの三か月の間に頼れる者が増えた。各所に顔が聞く者や町の情勢に精通している者、効果的な助言を期待出来る者、目的と手段が明確であれば、直ぐに動いてくれるだろう強い味方だ。


なので、協力者の洗い出しと自分なりに計画の算段を立てた。あらましは、最初にブランに資金の相談をし、レザンに資材の入手先へ取り次いで貰う。


既にレザンには、心当たりを探すお願いしているので金銭面での解決に目途が立てば、後は町大工の知り合いから助言を貰いながら教会の修繕作業を行う予定。


 次に礼拝の人集めだが、それはフルール、ユンヌ、ルー、ルージュやヴェールをはじめとした身近な友や知人を巻き込んで人伝えに町全体へ波及して行く作戦だ。少なくともこの算段までは、王都から来ている司教の前で完了したいとランディは、考えていた。


 此処までの計画が全て順調に整えば、ある程度の評価を得られる筈だ。


しかし残念ながら不安要素がない訳ではない。単純だけれども苦悩が多い道を選んでしまったから。そもそも当の本人であるエグリースが不在で説得力もない。修繕の資金だって相談には乗って貰えるかもしれないが、貸し付けて貰える担保もないランディにおいそれと借りられるか、返済をどうするかなど。


材料費だけならば、金額も高が知れている。けれども未だに賃金のちの字も無いランディには途轍もない足枷だ。


日曜の礼拝を呼ぶにしても諸事情を説明したとして集まってくれるか。エグリースを快く思っていない者も中には、多く居るかもしれない。正に今、朝早くよりもぞもぞと時折、蠢く肩掛けの鞄と共にランディは、町役場の前で立ち尽くし、額に手を当て乍ら困っていた。


「大口を叩いたものの……随分と前途多難な課題を引き受けてしまったものだ」


 正直に言えば、問題は山積みだ。エグリースに見栄を切ったものの、迷いはある。


 勿論、この問題はランディ自身の将来へ直結せず、何ら関わりがないのだからそこまで深刻にならずとも良いのだが、フルールやユンヌを始めとしてエグリースに深い関わりを持つ者達の落胆する顔を見るのが辛いからこそ、心苦しい。結論的にランディの言い分は、間違ってはいないのだが、


ランディがこの町に訪れる前から状況は、進行しており、相手方にも正当な言い分があり、あまりにも勝率の低い賭けだから気が進まないのだ。


「それでもこのまま一日中、町役場の前で立っている訳には、行かないからな―― 何はともあれ、最初の修繕がきっかけを掴めないと、始まらない。最早、目を背けてる寄付の件も最終的にはどうにかしないと駄目なのだから尻込みしている暇はないんだよ。ね、マル?」


「わうっ!」


ランディは、昨日とは見違えて綺麗になった小さな相棒へ話し掛ける。鞄の口から顔を出したマルは、元気よく吠えてくれた。昨日、ランディは家に帰るとレザンに事情を説明し、里親が見つかるまでの間、保護する許可を貰った。レザンも別段、嫌がることなくランディが世話をするのであればと、快く了承してくれたのだ。その話が終わると直ぐにランディは、温いお湯を張った木桶で嫌がるマルを丸洗い。


丁寧に水分を拭い、火を入れた暖炉の前で抱えて乾かした。そのお蔭でくすんだ毛並みは、金色を取り戻し、汚れも匂いも取れたマル。それが終わると、ふやかした温かい麦粥に屑野菜を入れた晩飯をマルに準備した。


食欲は、旺盛であっという間に平らげるマルをランディは、満足そうに眺め、寝床へ。


今朝も同じ朝食を与えて散歩がてら、里親を探す為に此処まで連れ出している。


「それにしても君は、本当に行儀が良くて助かる。それに身嗜みを整えたら俺よりも真っ当になったから尚更、悔しいよ。これなら直ぐに新しい飼い主が見つかるかも」


「ふっ!」


「よしよし、さっさと済ませて町を少し回りながら家に帰ろう。レザンさんから時間を貰ってはいるけど、流石に長く時間を空けるのは忍びない。でも、少しくらいなら寄り道しても大丈夫だから君に紹介して上げなくちゃね、この素晴らしい町を」


 ランディは、マルの頭を優しく撫でた。マルは、擽ったそうに頭を竦め、満足したのかランディの手を甘噛みし始める。恐らく、歯が生えて痒いのだろう。ランディは、くすぐったい感触に苛まれながら役場の戸を潜った。役場の中は、いつも通り閑散としており、静寂が支配していた。奥の受付まで数少ない窓の陽光を頼りに薄暗い室内を歩いて行くランディ。


 受付には、思っていた通り、顔見知りの人物が鎮座していた。


「おやおや? こんな所で珍しい。我が友、ランディくんじゃなかー今日は、どんな御用向きだい? 何か、困り事でもあるのかい?」


「知って居て尚、その白々しい態度を取るのかい?」


 ルーは、相も変わらず。窓口から真っ白なシャツと黒いベストを着て上半身だけを覗かせていた。柔らかく微笑むルーへランディは単刀直入に話を切り出し始める。


「何を今更、君が僕の性分を知って居るからこそわざとやっているのさ。からかい半分、残りは厄介事から逃げたい半分と言う所だね。そもそも君が僕の前に訪れるのは、何時もとても面白い厄介事を背負って来るからね。逆を言えば僕も君の性分を理解しているつもりだ」


 机に両肘を付き、手で顔を支えるルー。ランディは、徐に胸ポケットから煙草の入った木箱を取り出すと、その内の一本を無言でルーに差し出す。にやりと笑うルーは、煙草を受け取り、近くの蝋燭で火を付ける所まで見届けると、口を開いた。


「当然の事ながら今回も君を頼りにしているよ。ルーの言葉を借りるなら俺の性分を分かっている君は、既に巻き込まれている事に気付くべきだ。否応がなく……ね」


「君は、呪いか……その類の何かかい? 僕には、そんな呪術的な罠は必要ないんだけど。少なくとも僕には、話を聞いて了承するか、拒否するか決める権利はないのかい?」


そう言うと、煙を吸い込み、楽しんだ後、大きく紫煙を吐き出したルー。ランディも同じくランディも煙草を咥えると、大きく吸いこんで一服。思考が冴えたランディは、肩を鳴らして体を解すと話を始める。


「そもそも君が本当に面倒だと思うのならこの場に居ないね。今日、一日だけでも理由を託けて別の業務にあたる事も出来た筈だ。その余裕綽々な振りからも分かるけど、もう既に小耳には挟んでいるのだろう。それともそれ位、やってのけるものだと買被っていたかな?」


「言わずもがな、分かっていたさ。昨日、不安そうなユンヌから事情を聞いて相談にも乗ったし。朝からあからさまにフルールも機嫌を頗る損ねていた。その上、君が関わっているのだから今日にでもブランさんの所に相談と僕に依頼するであろう事も。只、僕も友人が困っている様を黙って指を咥えて見ているだけの薄情者ではないさ。それにしても君は、よく僕の事を分かってくれているみたいだね。嬉しい限りだ」


「これでも俺は、君の親友でありたいと思い、よき理解者であろうと頑張っているからね。君が天邪鬼に見せかけて気軽に話せる環境を作ってくれている所までお見通しさ」

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