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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第貳章 仕事の合間に
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第貳章 仕事の合間に 8P

「なるほど……偶々、この場に居合わせてしまった君は、聞き耳を立てる訳にも行かないけど、気になって仕方がない。悶々とした気持ちを抱え、壇上でうろちょろしていたのかい?」


「正解なんだけど……ランディくんは、私を小さな女の子とでも思っているの?」


「ごめん、ごめん。つまりユンヌ女史は、動揺して右往左往していたと」


 先程より、話題をはぐらかして遠のこうとするランディ。正直に言えば、この話題には、あまり乗る気がなかった。それには、組織と言う大きな繋がりがエグリースの後ろには控えているからであった。ランディには、分かっている。恐らく、自分には何も出来ない事も。


「ユンヌ、この馬鹿は、放って置いて話を進めて頂戴。何時まで経っても話題が堂々巡りよ」


「いや、これは俺からの忠告。聖職者の内情に首を突っ込む事は、あまり好ましくない」


 大きく溜息を一つ吐いた後、ランディは己の黒髪を掻き上げると、話を始める。


「君たちだって知って居るだろうに。彼方には戒律、つまり独自の法と規律が存在しているんだ。内情を知らない俺たちが首を突っ込んでも碌な事にならない。場合によっては、不敬罪でしょっ引かれて罰則も課されるだろう」


「確かに……それはまずい」


「悠久の歴史と権威が未だ尚、息づいている……彼方、聖職者は自分達の信条へ勝手に土足で踏み入り、好き勝手言われるのをとても嫌っている。つまり今、渦中に飛び込む事自体が抵触してしまう。先生方は、秘密がお好き。だから放っておいて問題ない」


 つまり、丸腰でお家事情に首を突っ込むのは、避けたいと言う話。下手に手を出すと、火傷を負いかねないし、場合に寄っては、身の回りの人にも悪い影響を与えてしまい兼ねない。


「恐らく、視察で間違いないけど……」


「少し癪だけど、ランディの言う通りね……毎年、この時期に視察へいらっしゃっているし」


「ランディくん。勿論、私もそこは弁えているのだけど、今回は違うわ。此処、二、三年前から書面や直接、司教様から教会の運営についてエグリースさんは、忠告を受けているの」


 ユンヌは、白魚の様に細い人差し指を口元に当て乍ら言う。


「恐らくは……献金や運営の費用の事だね。エグリースさんは、経営の面に関して疎い感じは、分かる。奉仕活動や宣教は秀でているけど、それだけじゃ、運営は出来ない」


「その上、教会もみすぼらしいし……品位もないってね。私は、それが清貧を掲げる国教の理念へ忠実に従っていると思っていたのだけど……司教様は、そうじゃないみたい」


「エグリースさんは、自分に改善出来る事は、やっているわ。使用人も雇わず、全部自分で教会を運営しているし。でも献金を慈善活動に全部、注ぎこんじゃったり……この教会も一度、建て替えの話が上がったのだけど。エグリースさん、『困っている人に施しを』って言って首を縦に振らなかったり。まあ、色々とお上の方の意向と反りが合わなかったみたい」


「随分と反抗的と言うか―― 考えものだね」


 フルールとユンヌは共に呆れ顔でエグリースをボロクソにこき下ろす。その様子を見てランディは、苦笑いで言葉を濁す。現状は、エグリースにとってとても不利な状況であるのは、間違いない。身から出た錆と言ってしまえば、それまで。手助けをしたいのは、山々だが先程の話にもあった通り、タダでは済まされない。


「まあ、他の司祭様と比べてエグリースさんは甘いから。本来なら日曜の礼拝も強制と言うか、確実に参加するように仕向けたり、献金も割り当て分を確保するのに尽力しているわ。使用人も雇って雑事は周りに任せて教会の運営にしか目を向けてないの。結論から言えば、彼方の原動力は、司祭として在り続ける為の保身と行く行くは、司教になる足掛かりとして……これは、野望かな。それが正しい姿勢なのは、知って居るけど、そっちの方が俗世って奴に塗れているんじゃないかってあたし、個人は思うわ」


 この場では、誰もがその先の答えに敢えて触れたがらない。的外れの議論ばかりが白熱し、その先に進んでしまうと、後戻り出来ないからだ。


「周りの司教、司祭からしてみたらエグリースさんは、己が本当の務めを放棄してよそ見ばかりする怠惰な人だ。綺麗事って言うのは残酷な表現だけど、どんな手段を使ってでも資金や物資をかき集めなければ、組織は存続出来ない。エグリースさんの信念は、尊敬に値するけれども全体的に見れば、組織に貢献していないお荷物なのさ」


「そうなると最悪、町の司祭が交代になってしまう可能性も在り得るわね」


「先代の司祭さまが高齢の為に勇退されてから十年位、務めて頂いているのに」


「恐らく……この町は、王都の付近では大きな町の部類に入るからもっと献金を期待しているのかもしれないね。あまり、耳触りの良い話ではないけど」


「私は、今のままが良いなー。もしかすると学校としても役割もなくしちゃうかもしれないし、祭事も厳かなものになると楽しくないし……」


 真に三人が欲するのは、きっかけだ。此方側が火種になるのではなく、相手方が疎ましく思い、食いついて来る事が最良。そうすれば、被害は最小限で済む。されど、若造三人だけで用意できる材料ならば、見向きもされないのがオチ。


「エグリースさんのお話は、詰まらないし。御小言は正直、癪に障るけど、王都式の勤勉な愛想の無い司祭さんよりはマシね。出会い頭に叱られるのは、御免こうむりたいわ」


「俺の見解を述べさせて貰えるのであれば。それは、フルールの普段からの素行の問題であってエグリースさんどうこうって話ではないのだけど……」


「いつもとんでもない事をやらかしているランディに素行にとやかく言われるのは心外」


「偶に思うけど……よくそんな会話でランディくんは、意思疎通が出来るね」


 不意にユンヌは、ランディとフルールのちぐはぐな会話に首を傾げて問うた。ランディは、笑いながら首を振る。この短期間でランディも成長している。経験則により、己の立ち位置を理解し、どう立ち回れば良いか等、幾つか定型を作っているので造作もない。


「コツは、言いたい事をきちんと伝え、何を言い返されても耐え忍ぶ事。後で落ち着いた時に納得して貰うんだ。薬だってそうだよね? 飲んでも直ぐには、効能があらわれない。先の先を見据えているのだよ。一種の処世術って奴かもしれない」


「なるほど……勉強になる」


「とても失礼な話だわ! 暫く、口を利いてやんないだから」


 ランディとユンヌの話にフルールは、むくれて白い頬を膨らますと、あらぬ方向を向く。


「兎にも角にも俺は尊敬に値する司祭さまと巡り会えたのだからもう少し、教えを乞いたいと思ってる。日曜の礼拝でも目を掛けてくれて町の事を教えて下さったり、俺自身に何か不自由はないかとか。親身になって頂いているからね」


「ランディくん、真面目に忘れず、遅刻もせず、お行儀よく参加してくれているからエグリースさん、とても喜んでいるわ。それにお説教で分からない事があれば、終わった直ぐに質問して理解を深めてくれる模範的な信徒だって」


「お金ばかりはどうしようもないけど……教会の修繕とか、礼拝に皆で参加するように説得したり、俺たちに出来る事から手掛けて行こう。フルールも異存はないかい?」


「ふん!」


 結論として各自で可能な限り、行動に移してみる意見で合意に至る三人。一人、了承しているか、不安な所もあるが概ね、理解を得ているだろう。


そんな密談の中、話が終わった様でエグリースの書斎が慌ただしくなって来た。物音に気付き、背筋を伸ばして居住まいを整える三人。


「如何やら話が終わったみたいだ。少し、様子見をしよう」

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