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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第貳章 仕事の合間に
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第貳章 仕事の合間に 4P

町の南側、青々とした森林地帯が広がる先。此処からでも見える山の麓が目的地だ。


ランディにとって町の外までの配達は、今日が初めてだ。


「後回しにしても良かったのだけど……如何せん、日が暮れた頃に森林を越えて山の麓まで行くのは、リスクがある。思った以上に遠いからレザンさんの言う通りにして良かった」


 頬に手をあて長く続く道のりを眺めるランディは、独り言を一つ。


昨夜の時点は、ランディも町中の配達をしてから向かう予定を立てていたが、レザンからの助言で予定を早めた。行きにしろ、帰りでも日が暮れてしまうと、道に迷う事も招かれざる客を引き寄せてしまう可能性が高い。既にレザンから山小屋へ向かう道すがらの配達を済ませながら向かう方が良いと、助言を貰って居た。只、レザンもランディを甘やかすことなく、飽くまでもルートは、ランディに考えさせた。


町の地理に明るくなる様に。言葉だけでなく、思うが儘に計画を立てて失敗し、研鑽を積めるように配慮している。


ある程度の自己裁量のある仕事を与える事も重要だ。自分の手で達成すると言う感覚も今後のランディにとってプラスとなるだろう。


「それにしてもこんな軽装で良かっただろうか?」


 改めて考えてみれば、長い距離を歩かねばならないのだからある程度、準備する必要があったかもしれない。先程、ビスケットを貰ったので軽食は取れる。水は、家から持って来たので問題ない。只、森を抜けて山の麓まで行くならば、念の為に靴や衣料を揃えても良かっただろう。レザンは、ランディの体力面を鑑みて支障ないと判断したのかもしれない。


「まあ、やるだけやってみよう。今から帰って準備をしても遅くなるだけだ」


 鼻から息を漏らし、意気込むランディ。


レザンから教わっているので森の小道は、直ぐに見つかった。距離があるだけで道順は、至って簡単。ほぼ、一本道だった。この先に町村はなく、住人しか通らないので街道の様に柵もなければ、舗装もされていない。人が何度も通り、地面の黒土が剥きだしになっただけの私道と言って良いだろう。時折、横道はあるけれど、どれも行き止まりが待つだけ。   


山への道の方が幅広いので間違える事は無い。この道の用途は、猟師や樵、山仕事を請け負う者以外には、山菜や茸、木苺、野苺やその他果実を採る為に町民が使う。


横道は、それらの群生地へ向かっている。


土の匂いと時折、花々の心地よい香りを感じながらランディは、歩く。森の中は、木陰で冷やされた風が通り、町よりも涼しい。景色に代わり映えはしないが、虫の鳴き声や小動物が動き回る物音や鳥の囀り、動植物の息づく音、雰囲気が心を癒してくれる。


 レザンの言った通り、昼間に来て良かったとランディは、改めて思った。


「さてと、川まで進めば漸く、半分だってレザンさんは、言ってた……一先ず、川まで行って一休みするとしよう。配達物の殆どは、山小屋の分だし」


のんびりと歩きながらランディは予定を考える。他の配達先には申し訳ない話だが、根を詰めると後に響く。背負子の荷物は、八割方山小屋宛。これが終われば、もっとペースも早くなるだろう。失った時間は、後で取り戻せば良い。


時折、水分補給をしながら歩度を変えず、半刻ほどで川まで辿り着いた。


少し開けた場所で川は、穏やかに流れていた。川幅は、ランディの背を二倍にした位。水位は、雪解け水が流れているのか見た限り、ランディの腰くらいまで浸かるだろう。水流は、穏やか。それに従って透明度も低く深緑色。川岸は、岩や地面にコケや草が生い茂っている。水面には、小さな魚影が見え、生態系も安定している事が窺える。もう少し上流に行けば、渓流釣りが楽しめるかもしれない。


川には、木製の簡素な古ぼけた橋が掛かっており、それを渡れば向こう岸に行ける。


迷わず、ランディは橋を渡り始める。橋は、桁橋で手摺はなく、丸太の橋柱が川へ何本か打ち込まれており、その横に主桁の細い丸太が連なり、床板は板材が使われていた。


陽の光と水で経年劣化が激しく、所々に修復している様子が見られる。歩く度に橋全体が軋む音は聞こえるも沈まないので耐久性に優れていた。橋の真ん中まで行くと、橋の古風な質感と下流に続く眺め、水面の照り返しが相まって地元ではないのにどこか懐かしさが漂う郷愁を感じる。


田舎ならではの不思議な感覚だ。川を渡り切った所で予定通り、木陰に入って一休みを取るランディ。木陰に入ると、涼しげな風にあてられてランディは、煮詰まった思考が鮮明になった気がした。先を急ぐ必要はないのだけれども自然と、目的地への道のりやその後の予定が頭を過ぎり、肩に力が入る。


「はああああ……」


 大きく伸びをしながら欠伸を一つ。木陰の誘惑は、強く眠気が一気に押し寄せて来た。されど、此処で寝てしまうと、日が暮れるまで長居しかねないので気合いを入れるランディ。


「駄目だ、寝るのは良くない。貰ったビスケット、食べよ――」


 ランディは、肩掛けの鞄を開けると、中から水筒と、ビスケットの小袋を取り出して食べ始める。本当は、珈琲か紅茶が良かったのだが我儘は言えない。


「ビスケット、美味しいな……水っての―― が味気ないけど」


ほんのりした砂糖の甘味と、香ばしさと軽い触感で手が止まらないランディ。しかしながら正午のひと時も直ぐに切り上げる羽目となってしまった。


 何故ならば、背後の茂みで何かが蠢く音が聞えたからだ。ランディは、荷物を諦めて咄嗟に手元の水筒とビスケットを抱えながら木陰から飛び出して構える。生憎、今日は剣も銃も持って来ておらず、身を守れる武器がなかった。頼みの綱は、ビスケットのみ。食べ物で気を引いて逃げるしかない。


町までの遠い道のりと軽装な事も相まって今回は、体力の著しい損耗と怪我を負いかねない戦闘は、何としても避けたい。


「……!」


ランディの睨みつける件の茂みは、時折ガサガサと音を立てつつ、か細い獣の鳴き声が聞こえて来る。穏やかな昼前には似つかわしくないじりじりと焦りの募るばかりの時間が過ぎて行く。


ゆっくりと水筒を地面に置くとランディは、ビスケット片手に茂みへと近づいて行く。額には、うっすらと汗が浮かび、手汗も止まらない。五感を研ぎ澄まし、飛び出してくるかもしれない何かに備える。


草食の動物であれば、静かに去るのを待てば、良いのだが肉食の動物となると相手の隙を伺いつつ、逃げ出さなければならない。木に登る事も念頭に置きつつ、視線を走らせて周りの様子も確認する。


茂みは、囮で背後からの襲撃も在り得る。時間を十分に掛けて木陰の荷物の所まで後、二、三歩手前まで近づいたランディ。


ランディの算段は、荷物を出来るだけ静かに回収後、速やかにこの場から立ち去る事。


 こんなにも穏やかな日に厄介事は御免こうむりたい。自然と生唾をのみながら鞄にゆっくりと手を伸ばすランディ。音を極力立てずに鞄を肩に掛けて背負子を手元に引き寄せて


 漸く、一安心のランディは、静かにその場を去ろうとしたのだが、心に引っ掛かりを覚えた。あまりにも上手く行き過ぎたからだ。それに加えて来る鳴き声は、何やら困窮にひんしている様に聞えた。このまま、去るのが吉。けれどもランディの良心が肩に重くのしかかる。


「はあああ……」


一度は、無視して順路に戻ろうとしたのだが、耐えかねてくるりと向き直ると茂みに戻る。


おっかなびっくりしつつも茂みの先を覗くとそこには、一匹の毛が長い垂れ耳大型犬が体を横にして居た。野犬だと分かり、ランディは躊躇する。

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