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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第貳章 仕事の合間に
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第貳章 仕事の合間に 2P

「客注分は毎年、借りている倉庫へ届けて貰う。店に出す分を先に片付けるのが定例だ。春先と夏の祭事時期、秋の終わり頃が繁忙期だからな。これでも出稼ぎや出郷者で減った方だ。全盛期は……十台が当たり前だった。それは、さて置き。準備が出来たなら食事にしよう」


フォークとスプーン、皿を並べている間に話は、本日の予定に。レザンは、先の日程も含めて丁寧にランディへ説明する。前以って知っていなければ、支障が出るからだ。


ランディは、驚きつつも心に留めた。互いに目途が着いてから愈々、食事を取り始める。


「いただきます」


「うむ」


 ランディは、食事の挨拶の後、直ぐにパンへ手を伸ばしてベーコンと共にかぶりつく。レザンは、新聞を片手に珈琲を一口。一生懸命に咀嚼しながら口の端にパンのかすを付けながらランディは、レザンの手元にある新聞へ目を向けた。


「新聞は―― どうですか?」


「特に目立った事は無いな……遠征が延期になった事と騎士団お抱えの鍛冶師が行方をくらましたから捜索しているくらい……後は、今年の騎士団入団者のお披露目式があったらしい―― 今年は、男女十七名だそうだ」


「―― 随分と多いですね」


 手を止めてランディは、驚く。昨日の授業の内容通り、入団人数が少ない年ばかりなので尚更だ。しかしながら新聞から目を外したレザンには驚きの他に何故か、ランディが落ち着きなく見えた。口元をきゅっと結び、少しの間、己の手元を見つめた後、卵を口に運ぶ姿が目に止まったからだ。勿論、本人はかつて、士官学校に在籍していたのだから何か思う所があるのだろうと、レザンは納得する。もしかすると、友や知人が居ても可笑しくないからだ。


「年寄りも多いから人の入れ替わりが激しいのだろう。まあ、言ってもそれだけ素質がある者も多かった事は確かだろう。何にしても最近、暗い話題ばかりだったからめでたい話だ。―― 珈琲は、まだ飲むか?」


「うくっ……頂きます!」


レザンの話を聞きながらランディは、珈琲を飲み干すとレザンは、二杯目を。カップを受け取りながら何か考え込むように二個目のパンを小さくちぎりながら口に放り込んで行く。


「今日は、やけに食が細いな? いつもならば、パンの二、三個はぺろりだろう」


「いや、こう言う楽しいゆっくりした食事って思えば、久々だなって……不意に思ったら」


「そんな辛気臭い事を言うのは、やめなさい。少なくともこの町に居る間は、ずっと続く」


「それもそうですね」


「……只、そう言って貰える事は私も嬉しいものだ」


「えへへ」


 レザンの問いにランディは、はにかみながら答えると、何時もの通りに食が進んで行く。やはり、思い違いであったかと、レザンは、肩を撫で下ろす。気がかりは、レザンの心の中にも存在する。各所から様々な情報が耳に入って来るからだ。それは、二律背反。吉報も凶報も同じだけ。場合によっては、凶報が多い日も。只、今は。


今だけは、この時間がとても大切であったが為に目を向ける事は無かった。


そして、食事もお開きとなり、ランディはいそいそと外出の準備を始める。いつも通り、午前中の配達を済ませる為だ。上着を羽織るといつも使っている肩掛けの鞄を居間の椅子へ置く。腹ごなしも終わって準備万端。レザンと一緒に配達品を確認する。既に昨夜、集めていたので後は、配達先の確認と背負子へ乗せるだけなので直ぐに終わった。


「では、配達に行って参ります」


「頼んだ。配達も多いから間違えない様に」


「そうですね……三の月だったら六から七件位でしたけど。今日は……十四件ですか」


「焦りは禁物だ。今日は、時間が掛かっても良いから確実に」


「かしこまりました」


 今回は、小物が多かったのでランディ一人でも熟せる仕事であった。ランディは、玄関先で背負子を背負い、レザンへ振り向くと笑顔で挨拶を済ませる。レザンは、腰に手を当て乍ら見送った。


「さて、最初は……町の南側が多いみたいだからそっちに向かうか」


 事前に配達先の大まかなメモに取っていたので眺めながらルートを見定めるランディ。


 コツは、掴んで配達も慣れっこになった。日々の積み重ねが功を奏して今では、一端に自慢が出来る仕事の一つだ。何か、新しい事を始めたのならば、一つの成功例として小さな事であれ、得意をと言えるもの作るのが重要だ。あれもこれもと中途半端に手を出すよりも特化してやり遂げる事で自信に繋がる。勿論、仕事ならば他の事も平行して教わり、千年しなければならない場面もあるだろう。


その場合は、業務に対しての割り振りをそれぞれで自らの完成度を推し量り、完遂が近い物から優先し、出来ない事をレザンから助力して貰い、手引きを一つ、一つ完成させて更に一歩、時間の効率化を図り、出来る事を増やして行く。


その循環があるからこそ、今のランディがあると言っても過言ではない。


「先ずは、大通り側の二件、その後は……町の門付近のクラーさん。それに……珍しい樵小屋へ直接、配達もある。これは思った以上に時間が掛かるぞ」


 幾分か、メモとにらめっこをしてルートを確立し、ランディは区画で区切り、一番多い所から回る事にした。肩から下がり始めた背負子を背負い直し、メモをポケットに仕舞うと、歩き始めたランディ。小道を縫うように歩いて早速、大通りへ繰り出して行く。


 春風が吹き抜ける陽光が差した大通りでは、とても騒がしかった。馬車が砂埃を上げて闊歩し、人の話し声がまるで都会の喧騒の如く。町はより一層、色めきだっていた。その景色に懐かしさを覚えつつ、ランディは目的地へ真っすぐ向かう。行き交う人や物の様々な誘惑から逃れ、目指すは路面に堂々と店を構える一軒の宿場。木造と石造りの年季の入った外観。


「今日は、シャンブルさんかな? それともギットさんかな?」


 ぼそりと、ランディは呟く。理由は、後ほど、直ぐに分かるだろう。


 軒先下、黒く煤けた木製の寝台が彫られた看板には、これまた歴史と趣を感じる。老舗の旅籠と言っても過言ではない。そんな威風堂々とした佇まいの宿場が目的地の一つ。両開きの大きな扉を前にランディは臆せず、入って行く。中は、簡素な待合所と受付があった。木製の腰掛が八席、扉の両側に四つずつ。壁には、絵画や剥製が飾られており、石畳の床が広がっている。


今日は客が居らず、奥に宿泊の受付に黒髪の巻き髪を肩まで伸ばした女性が書き物をしていた。年は、恐らく四十代から五十代くらい。ビロード色のペティコートに肌色のステイズを着用した昔ながらの格好。灰色の瞳と目元の笑い皺が特徴的な女性だ。この宿場は、夫婦二人三脚で経営をしており、主人はどうやら離席している様だった。ランディも宿の客として訪れた事は無いが、店の得意先の一つでよく、訪問している。石鹸やその他の雑貨品を大量に買い上げて貰える上得意であった。


 今日は、インクとつけペン数本が依頼だったので手渡しの配送でも問題なかった。


「御免下さい! ギッドさん、商品のお届けです。依頼は、筆記具でお間違いないですか?」


「ああ、レザンさんとこの! ありがとね、待ってたんだ」


「遅くなって済みません」


「いいや、今日に来て貰えれば大丈夫だったよ。それよりもいつも主人が済まないね。坊やが来てくれる度に揶揄うだろう? 安心しとくれ。今は、買い出しに行ってるよ」


「可愛がって頂いているので私は、気にしてませんよ」

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