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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第壹章 学び舎のひと時
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第壹章 学び舎のひと時 6P

「随分と峻厳な話ね」


「これだけは、譲れない絶対条件だからね。その力がなければ、務まらない程、過酷だし。英傑と呼ばれる相応しい尤もな選別方法だよ。ましてや、成れれば莫大な財産が築け、騎士団の名を汚す事さえなければ、名声も富も己がまま、将来が約束されている。こう聞けば、違和感は無くなる筈だと思うよ」


「確かに……」


「まあ、団員の中にそう言った邪な考え方をする人は、居ないけどね。団員である事に埃を持っているから」


「そう聞くと、安心だね。騎士様何て、何かのお祭りで遠目で見る事しか出来ないから」


「只の堅物でしょ? 何の面白味もないわ」


「まあ、そう言わないで。そんでもって更に騎士の最上位、守護騎士だけど……」


「しんけん!」


「しんそう!」


「しんじょう!」


 此処で又もや、子供達の中から声が上がる。此処からは、子供達の方が良く知っている話題だが、補足の説明を欠かさない。


「良くご存じだね。『神剣』も『神槍』も『神杖』もお伽噺で有名だ。その他にも『神楯』、『神弓』、『神拳』等と言った二つ名を持つ人達は、必ず守護騎士だった。守護騎士とは、『王国石』を手にすると、石が蒼く輝く人達だけが選ばれる。その力は、絶大で遥か昔には、山をも動かす事が出来るとか、海を割ったり、空を切り裂いたり、霊獣と呼ばれる怪物と戦って勝ったり、戦で大きな功績を立てたりと大きな戦力。勿論、二つ名を持つ人は、ごく一部。今の守護騎士は、十二人居るけど二つ名は、団長の『神剣』のみ。因みに今の『神剣』は、二代目なんだって」


「素性は勿論、名前さえも絶対に公表されない謎に包まれた人達だね」


「だからこその二つ名なんだ。王国内も一枚岩じゃない。騎士に対して良からぬ考え方を持っている人も少なからず居る。その他にも諸外国の密偵や刺客も含め、何処に敵が居るか分からない状況だからこそ……だよね」


 現状、獅子身中に虫等、数えれば両手では足りない程の組織や個人が存在し、それらに対して絶大な戦力と言える騎士が利用されない措置が必要である。勿論、産業革命が進み、その他の戦力も数多に出現する今、更に言えば、騎士の役割も成手も減少傾向にある今、重要視される理由は、なくなりつつある。また、人々が平和である事を望むからこそ、無くなるべきなのかもしれない。本来ならば、必要とされない力であると。


「当たり前の措置ね。それで情報通の貴方も挑戦したわけ?」


「俺? 俺は、無理だって。そもそも、弟子入り出来る騎士に知り合い居ないし。意思にも選ばれなかった。条件が圧倒的に足りていない」


「つまんない」


「でも、ランディくん。士官学校には、入れたんだから充分、凄いよ!」


「只の足軽みたいなもんじゃない」


「フルールの言う通り。雑兵の一人に過ぎない。勿論。いざ、戦となればそれは、騎士とて例外じゃないけど。違いは、最前線に出る機会が早いか、遅いか位だ」


「そんな事、言わないで……ランディくん。皆、命は平等で大切なものよ」


「ユンヌちゃんの言う通り。命は、平等だ。言葉が過ぎたね。申し訳ない」


フルールの問いにランディは、寂しげに笑いながら答える。そんなランディにユンヌは、不安気な表情で訂正した。


「さて、フルールの時間も俺が使い切ってしまったので終わりにしようか。ユンヌちゃん、宜しいかな?」


「結構です。皆には、難しい話が最後に出て来てしまったけどね」


「たのしかった!」


「また、やってほしい」


「いっぱい、おはなしききたい」


「またの機会、楽しみにしているよ。それでは、休憩時間だ! 今日は温かいし、天気も良い。皆、少し足を伸ばして遊んでおいで!」


「はーい」


 ランディの号令と共に椅子から立ち上がると、三々五々に教会から足早に日の光が煌々と照らす外へ出て行く子供達。その背をランディ、フルール、ユンヌは微笑みながら見送る。


「さてと……今回は、俺の独壇場だったね」


「フルールが無茶するからよ」


「仕方がない。あたしだけが悪いんじゃないもの」


「格好から入ってやけに張り切っているから俺は、期待してたんだよ?」


「そんなの知らないわ」


 迷惑を掛けた事へ申し訳ないのか、言葉には刺があるものの、しおらしい態度のフルール。


ランディは、苦笑い。ユンヌは、ふくれ面。フルールに非がある事は、明らかだが二人にも思う所があるのであまり強く叱責が出来ない。


「でも大事にならなくて良かった。ランディくん、あれやこれやと動いてくれてありがとう。この埋め合わせは今度、させて貰うね」


「いや、フルールにも同情の余地はあるから。仕方がない。でも無茶は、やっぱり良くない」


「無茶じゃないわ……」


「もしかすると、君が大怪我を負ったかもしれないんだよ? 子供達の安全もそうだけど、俺が一番心配だったのは、そこだった」


「……」


「ランディくんの言う通り。私も心配したよ」


 但し、怪我の可能性があったので注意だけは、フルールへ促すランディとユンヌ。


 老朽化している教会が全焼する事も在り得たので尚更だ。


「今回は、矛を収めるけど……この怒り、何処に向ければ良いのよ?」


「そうしたら今度、俺もお給料を貰えるってレザンさんから言われたから何処か、美味しい物でも食べに行こうか? 俺の驕りでね、フルールのお勧めの店で」


「ほんとに?」


 どうにもこうにも腹の虫が収まらないフルールへランディが食事に誘った。あまり褒められるやり方ではないが、ランディにとって現状の策で最善のものは、これしかなかった。


 思った通り、フルールの興味を引く事は出来た。期待の籠った視線がランディに突き刺さる。思わず、フルールの尻に尻尾が生えて大きく振れる様子が連想される程に。


「約束だとも。ユンヌちゃんも来るかい?」


「私は、御遠慮させて貰おうかな……ランディくんに申し訳ないし」


「こんな事、滅多にないのに? ユンヌ、勿体ないよ」


「今日だってご厚意で来て貰えたのにその上、ご飯を御馳走して貰うなんて出来ない。また、別日で私からお誘いするのが、正しいでしょ?」


 現金なフルールに呆れつつもランディの誘いをやんわりと断るユンヌ。ユンヌは、ゆっくりとランディの下へ向かい、両手でランディの手を包み込んだ。


「そんな事、気にしなくても」


「気にしないで。ランディくん、フルールをお願いね!」


「確かに―― 畏まった」


 淑やかな笑みを浮かべるユンヌに照れながらランディは、了承する。そんな二人の雰囲気は、我が道を行くフルールが気にする訳がなく、妄想を膨らませていた。


「さて……何処にしようかな……久々にお肉を思う存分食べたいなー」


「どこでも良いよ。只、俺の財布にも限度がある事をお忘れなく――」


「甲斐性なし―― まあ、そこんところは、考慮して上げるわ」


「助かる」


 ランディの泣き言にフルールは、真面目に答えた。御馳走して貰うのだから少々の妥協は、

あって然るべきだろう。フルールとて、鬼ではない。


「それにしても今日は、珍しく様になってたじゃない? 話すだけの講義であそこまで子供達の興味を引くなんて。大体、他の人もそうだけど。何かしらの体験学習みたいに得意分野を実際に見せたり、やらせたりするのが殆どだからびっくりしたわ」


「何も肉体労働だけが俺の取り柄じゃないさ。頭を使う……この場合は、会話能力でも優秀なのさ。見直してくれたかい?」


「褒めるんじゃなかった……」


 珍しくランディは、褒められたので図に乗った。フルールは、呆れ顔で溜息を一つ。

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