第壹章 学び舎のひと時 5P
と言ってもランディには、計画していた事をやり切ってしまって代わりを務めるには、心許なかった。なので、思い切ってランディは、子供達に講義の内容を募集する事に。
今から彼らの興味を引く話題を一から作り上げる事が至難の業だったからだ。それならば、彼らが興味を持つ話を引き出してその中から選んだ方が早いとランディは、考えた。
「おかしのおはなし!」
「どうぶつ!」
「きしゃー」
「どれも知っているのだけど、あんまり長いお話は、出来ないだろうなー」
「ならきしのおはなしして!」
「騎士か……では、王国軍のお話でもしようか! それなら出来るよ」
「おねがーしまー」
「たのしみ!」
目論見は、正解だった。背伸びして声高々にあれやこれやと要望を上げる彼らから騎士の話題を選んだランディ。騎士の話ならば、子供達にとってもお伽噺の王道とも言える誰しもが耳にするし、一度は必ず興味を持つなじみ深いものだ。その道にある程度、精通していたランディならではの話題も出来るので好都合。
「あんまり、細かな部署から話しても難しいから説明は、省くね。皆さん、王国軍には、騎士、国軍兵、憲兵隊の三つあるのは、知って居るかな?」
「しってるー」
「ぼくのおにーちゃん、けんぺい!」
「きしさまのかっこうがすごい」
「なるほど、父兄にも在籍しているみたいだね。簡単に説明すると騎士は、部隊を率いたり、秘密の任務を請け負ったり、警護、その他にも一人で活動を主とする何でも屋の凄腕部隊。国軍は有事。つまりは、国同士の喧嘩が起こったり、国の中で悪さをする山賊や海賊とか、大きな出来事に大勢で対応する為の組織。憲兵隊は、町の治安、安全を守る為の組織なんだ。もっと、言えば騎士は、本来なら王国軍の所属だけれども特別に区分けされている。それは、何故かと言うと……」
「しょうちょうだから!」
ランディが敢えて話を区切ると、一人が発言してくれたので微笑みながら大きく頷く。
「そう、正解! 王国が始まってから昔話にも出る程に山ほど、活躍しているからこの国を守る最後の砦として務めを果たして来たから。騎士団に入隊出来たら名誉な事なんだ」
「ぼくもむかしばなし、すき」
「かっちょいいよね!」
「なりたいー」
「そして国軍と騎士では、他に明らかな線引きがある。知って居るかな?」
「わからない―」
「きいたことない」
首を傾げる子供達を前にランディは、話を続けた。
「あんまり、公にしてないから無理もない。騎士団に入るには、元騎士又は、在籍する騎士から推薦。つまりは、お墨付きが必要なんだ」
「ランディくん、それって弟子入りしないといけないってこと?」
「そう、鍛えて貰って師である騎士から腕章と、一筆書いて貰ってやっと始まるんだ。でも、それだけじゃあ、入れない。試験がある」
「座学と実地であってる?」
横で聞いていたユンヌも俄然、興味が沸いたようで質問を投げ掛けてきたので丁寧に答えるランディ。
知らぬ間にフルールも臍を曲げるのを止めて静かに聞き入っていた。
「そうだね、割合は、実地の試験が高い。後で話すけど、その実地試験の中で最難関があるんだ。それらをクリアしてから二年間、ユンヌちゃんや皆も御存じだと思うけど、士官学校に通う。最後に最終試験を受けるんだ」
「ランディくん、物知りだね……騎士の方に知り合いでも居たの?」
「腐れ縁と言うべきか……仲良くして貰った人が何人か。その人たちに教えて貰ったんだ」
採用の仕組みまでさらりと答えるランディにユンヌは、更に問う。ランディは、鼻高々に自分の知人自慢を交えた。段々と子供達の講義にしては、難しい話になって来たのでランディは、流れを変える事にした。
「此処で一つ補足すると、推薦は騎士なら誰でも出来る訳じゃない。階級、騎士には、下から下級、中級、上級、守護騎士って四段階があるんだけど。推薦出来るのは、上級の一握りの人と、守護騎士だけ」
「なんでー?」
「それは、騎士の定数。なれる人の数が限られているからなんだ。あんまり、多く人が来ても入れないし、下級、中級の騎士は、修行中の身として扱われるから弟子は、持てない。上級の騎士も仕事が多過ぎる上、弟子を持つ資格があるか、試験を受けないといけない」
「狭き門だね。守護騎士は?」
「よっぽどの事がないと、取らない。彼らは、選ばれた人達だから」
「選ばれた人って?」
「『王国のいし』にさ」
度重なる質問にシニカルな雰囲気を醸し出しつつ、ランディはのたまう。
「ああ……そう言う事ね」
「そもそもの話、先にも言った最難関が問題なんだ。皆は、『王国のいし』については、知って居るかな?」
「しってるー」
「このまちにちいさいのがあるよ!」
「あたしは、すこしひからせられた」
「それはみんないっしょ」
「そうか……この町にもあるんだね」
「昔からの仕来りだからね。生まれて一年した子に」
「そんな事、やる必要ないけど」
「最早、誰も英雄何て求めてないからね」
「おっしゃる通り。絶対的な英雄何て最早、時代遅れの産物なんだけど。仕来りって言葉に未だ、縛られてるわ」
此処で苦々しい表情のフルールが口を挟む。古より、王国の民はある宿命に人生を弄ばれていた。それは、目に見えない運命の因果が左右する不確定で恐ろしくもあり、心強くもあり、形容しがたいが故に人々は、一番身近な威からの啓示としてこの審判を『王国の意思』と名付けた。勿論、時代の波にのまれて形骸化の一歩を辿っているのだが。
「知っているならもう説明の必要はないかもしれない。でもね、『王国の意思』、『Volonè』が騎士団入団の最難関なんだ」
「あれが光るか、どうかで? 時代遅れも甚だしいわ!」
「寧ろ、それが重要なんだよ……此処に居る皆が知って居るけど、『王国の意思』とは、『王国石』と呼ばれる特殊な鉱石。色は、無色透明が殆どだけど、赤や黄、青等、色付きのものもあるね。俺たち、王国の民が握ると一瞬、光るのが最大の特徴。取れるのは、霊峰『Terre Sainte』だけ。巡礼地としても有名だね。採掘するのが大変で希少な鉱石――」
「そして何よりも……その石は、人を選ぶ。選ばれる基準は、分からないけど特定の人間が使うと光を放ち続ける。そして、その人は、総称として『Cadeau』と呼ばれる常人以上の力を発揮する。力は、様々だけど足も速くなるし、重たい物も持ち上げられるし、耳、目、鼻、触感も鋭敏になる。この能力は、『石』を持つ時に最大の能力を発揮する。それが騎士の条件って訳ね。考えてみれば、当たり前の事かもしれないけど」
「だから騎士団員には必ず一つ、『王国石』が与えられる。一説には、王国に対しての忠誠心とか。前世云々とか、与太話が多い。それは置いといて……だからこそ、精鋭部隊と呼ばれる所以。世襲もないし、不正が全く通じない。純粋な生まれ持っての才能で最後は、選ばれる。これのお蔭で十人以上、採用される年もあれば、誰も入団出来ない年が在るくらい。まあ、『石』にも数に限りがあるのと年々、力を発揮出来る人が少なくなっているから絞っていると言うよりも『王国の意思』がそうさせていると言うのが正しいのかもね」
ランディとフルールが交互に『王国石』について知って居る限りの事を述べた。
教会内は、珍しく緊張感と形容しがたい厳かな空気が漂う。子供たちでさえも固唾を呑んで聞き入っていた。以前もランディとフルールの間でも交わされた話題だが、お伽噺だけでなくそれだけ、騎士と『王国の意思』と『Cadeau』は、王国の民には、密接で慎重に扱われる。今も尚、王国内では、熱心に研究している者もいる位、重大な関心事の一つ。