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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅲ巻 第壹章 学び舎のひと時
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第壹章 学び舎のひと時 2P

 気の抜けた返事にランディは、少し肩透かしを食らったが、話を続ける。やっと子供達に話を聞いて貰えるくらいのきっかけが出来たこの機会を逃す訳には行かない。


「因みに西の海岸の方へ行くと、比較的、温かい風が吹いているから此処ほど、温度が下がらない所もある。南に行くと、その傾向が強いね。北は、氷点下を超えて凄い事になっている所もある。王都全体を通して言える事は、冬の時期、曇が多くてどんよりして居る日が多いって事かな。他の国は、もっと違うからこれまた面白い」


「どんなふうにちがうのー?」


 話の節に遠慮なく、質問が飛ぶ。ランディは、変わらず笑顔で答えて行く。勿論、この為にある程度、自分が話す内容を大凡、頭の中で組み立ててその上、問い合わせが来るだろう質問も想定している。即興で話を考えたり、筋道を立てて話さないと無駄に繋ぎの言葉が出て話の進捗も遅くなったり、興味が削がれてしまうのでランディは、配慮を欠かさない。


ましてや、自信がないと相手に通じてしまうと、意思疎通もままならなくなってしまう。


何故なら発言者の言葉一つ、一つに疑いが入り、傾聴する側も内容が頭へ入って来ず、置いてきぼりになる。その積み重ねが多ければ、多い程に人が離れてしまうのだ。勿論、これは一つの要因であってそもそも聞く側にも要因はある。されど、今回は、ランディの手腕に掛かっている割合が多いので腕の見せ所と言うべきだろうか。


「王国にはないおとぎ話に出て来る様な何処を見ても砂だらけの砂漠があったり。火を噴く山、比べると人が豆粒位にしかならない水が絶えず崖から落ち続ける大きな滝、行った事は無いけど、水面が鏡のようになって空だけが写る湖、まるで空に浮いているみたいなんだって。一年中、雨が降り続けて鬱蒼とした木々と、太古より生き続ける大きな生物が生き続ける密林。下が見えない位、真っ暗な深い渓谷。つまり、谷だね。白い砂浜、透ける様な青い海、程よく暑い気温が続く行楽地があったり、本当に様々だよ。余裕があるなら是非とも旅は、一度行って見た方が良いね。この王国にも冬の夜に虹色のカーテンが空に掛かる場所があったりもするし」


「すごーい!」


「みてみたい!」


「もっと、いろんなばしょのおはなしして!」


教壇から身を乗り出して土地毎に声色を変えてまくしたてるランディ。最初は、興味無さそうに聞いていた子供達。されど、ランディの話を聞いている内に目を少しずつ輝かせて聞き入っていた。その様子を少し離れて静観するフルールとユンヌ。


「他の場所か……本当に色んな所がある。どろどろの熱くて赤い溶岩。何千度もの高い温度で溶けた土や岩の事なんだけど、それが山から流れ出す山。一面、氷の世界に包まれるとても寒い雪山。一日中、昼間が続く白夜と呼ばれる日がある所も。見た事もない程、大きな木がそびえ立つ森、綺麗な青い花々が絨毯の様に覆う野原、其処を走り抜けると、蝶が沢山、舞って行くんだ。話し出したらキリがないくらい、この世界は、驚きで満ちているよ」


 白熱した語りを締め括り、ランディはポケットから小瓶を取り出して水を飲む。此処までの掴みは、上出来だった。思った以上に食いついて来る事で手応えを掴んだランディは、更に話題の裾のを広げて行く事にした。この流れならば、少し難しい話をしても大丈夫だろう。


「と言う風に皆さんが住んでいる場所以外には、面白い事が一杯待っている。では、次は、ちょっと難しいお話。おしごとについてだね。また、この町を比較してお話を進めて行こうか。その方がすんなりと分かるもんね」


「そのほーがいいー」


「もっとおはなしして!」


「たのしいー」


盛り上がる教室の心和むワンシーンの横で手持無沙汰のフルールとユンヌは、耳打ちをし始める。思ったよりも気合いが入った講義に内心では、驚いていた二人。


「何よ……予想以上にすーごく子供心を掴んでるじゃない?」


「私の立場が危うくなるね―― 本当にランディくんを呼んで良かった。あんなに興味を持ってる事何て、座学で早々、ないよ。実際に各地へと出向く事が多い人ならではのお話だから尚更。この町と比較して分かり易く話をしてくれているし」


「卑怯よね、自分の得意分野しかやらないなんて」


寒さでほんのり朱色に染まった頬に手を当てながら感心顔のユンヌは、正当な評価する。対して嫉妬か、それとも八つ当たりか、不満顔のフルールは、不平を漏らす。


「そりゃあ、教える事は、得意分野でないと困るよ。実際の事と違う嘘を教えるなんて以ての外。寧ろ、フルールは、ランディくんの事を厳しく評価し過ぎるんでしょ」


「最良を尽くす手助けと言って頂戴。何だかんだ、無茶を言っても勝手にすました顔で遂行してくるんだから良いのよ。甘やかすのは、良くないわ」


 手入れの行き届いた茶色の髪に手櫛を入れながら当たり前の様に無理難題を押し付けるフルールにユンヌは、呆れた。只、その無理難題の裏には、思いが込められている事も察する。フルールには、フルールの考えがあり、むやみやたらに手を打たない事も勿論、昔からの付き合いだから知っている。只、本心が読めないのだ。確固たる理由が。


「其処は、本当にランディくんが凄いと思う。この前の出来事も結局、丸く収めちゃったし。只、あんまりにも厳しくし過ぎちゃうと、ランディくんが息切れしちゃうから程々に……ね」


「ユンヌは、甘い。よく言うでしょ? 若い頃は、苦労を買ってでもしろって。あたしは、タダでやらせてあげているんだから良心的よ」


「とんでもない押し売りだわ。買って出る側からしてみたらとんでもない詐欺よね。揚句にフルールが手札も切るカードも指定しているのだから……とんでもないポーカーに参加させられている様なものじゃない」


 思った以上に危ない橋を渡らされているのではと、ユンヌの脳裏に一抹の不安が過ぎるもそれは、直ぐに消え去った。何故ならば。


「本人が楽しんでいるなら良いでしょ……」


「ランディくん、随分と真黒な事に片足を突っ込んじゃったね……」


 ランディを見つめるフルールの視線に柔らかな色が見えたからだ。その色に名前を付ける事は、難しかった。甘酸っぱく、心ときめくものが入り混じって居たり、姉弟の信頼を見る様な視線であったり、親友との絆を感じさせたり、複雑な感情が入り混じっているからだ。


「でも、そんな期待の籠った視線を向けられているなら満更でもないのかな?」


「何か言った?」


「何でも。ただ、ランディくんが少しだけ羨ましいの」


 誰にも聞こえない声で茶化すユンヌに少しむっとして細い茶色の眉を顰めるフルール。


「話は、戻すけど……それにしても面白くない……」


「フルールも負けていられないよ?」


「大丈夫、あたしの方がもっと子供たちの興味を引く自信があるから」


「そのやる気に漲ってるフルールが怖い」


「大丈夫、大丈夫。この町の為にもなるわ。絶対……恐らく、この町中の人から大きな期待を掛けられていると言っても過言じゃない」


「意図が全然、違うんですけど……」


 ランディの件よりも段々とフルールの授業内容が気になるユンヌ。何やら良からぬことを考えているのだけは、理解した。探りを入れてもひた隠しにされている。危険な事は無いと想定しているものの、油断は許されない。


「何にせよ、ランディの所為で嫌でも次のあたしも楽しいだろうって思われちゃってる訳だから仕方ないじゃない」

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