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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第伍章 誰が為の闘争
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第伍章 誰が為の闘争 3P

「勉強になったんだな」


「その意気さ」


最後に掛け替えのない格言を貰い、ラパンは今一度、戦地へ赴く。一度、折られた剣が元に戻る事はない。ならば、新たな業物を携えて出陣するのみ。生きる事は、即ち戦いだ。


                   *


「昨日からそれとなく、町で聞き込みを行ってみたけど、あんまり情報は、なかったね。どれも君がユンヌから聞いた情報に似たり寄ったりだよ。どうやら相手は、お頭が宜しくないみたい。計画性の欠片もない行き当たりばったりが、お好きみたいだね」


「報告、ご苦労。俺も町の見回りを強化してみたけど、やっぱり遭遇の確率は、少ないみたい。彼らが好んで向かいそうな所を重点的に歩き回っても何一つ引っかからない」


ラパンが決意を固めていた一方でランディとルーは、『Pissenlit』で集まり、互いに情報共有を行っていた。薄暗い室内でランタンの明かりに照らされ、カウンターの椅子に座り、湯気の立つカップを前に肘を付いて考え込むランディと煙草を片手に壁に寄り掛かるルー。紫煙を燻らせて時折、思い出したようにルーは、吸い口から吸い込んだ後、煙を吐き出す。


「恐らく、何かしら企んでいたのならもうそろそろ、行動に移す筈なんだよね。僕たちの詮索範囲が狭いだけなのかもしれない。ただ、町全体となると、流石に手が回らないや」


「揉め事が起きた時に怪我するかもしれないから敢えてラパンやチャットの所へ行く前に探していたけど。かなり仰々しい事になるかもしれないが、護衛も検討に入れた方が良いかもしれない。何にせよ、考えているのか何も考えていないのか。先述の通り、行動が読めないから分からないから難しいね」


「そもそも、二人で人の往来が激しいこの時期の町から人を探すって干し草の中から縫い針を探す並みに難しいよね。これは、言い過ぎか……」


「加えて仕事もあるんだから強ち間違いではないよ。もうちょっと、協力者を募りたい?」


「そうだね、情報だけでも即時で来るような感じが楽だ。後は、君が何とかしてくれるし」


「今回は、そんなに苦労する相手じゃないからあっという間に解決するよ」


 相変わらず、話の内容は、ラパンの一件だった。あれから如何に情報収集をしても尻尾が掴めず、この有様だ。未だ、三人組の足取りも計画も全く、分からない。煙草特有のツンとした匂いに包まれながら少しの間、黙り込む二人。


「後、この場で話をするのも可笑しな話と思うけど、ランディ。フルールとはどうだい……」


「まだ、話もしていないんだ。取り敢えず、場を設けたいと考えているよ」


「こんな事になってからで申し訳ないんだけど。君たちは、もう一度きちんと話し合いをした方が良い。この難局を越えるには、どちらも欠けてたら解決しない。ランディの良い所とフルールの良い所、どちらもあって成立すると、僕は考えてる」


そんな話の折、ルーは、ランディとフルールの仲違いについて触れた。ルーも公平な立場で居る事に気をつかっているのでランディに対してもそれは、変わらない。この状況下において結束は、強めておく方が正しい。最早、互いの立ち位置は、一度置いて最悪の結果を防がなければならない。


その為なら向う脛を蹴飛ばしたり、傷に塩をすり込む様な事でも躊躇なく、出来る。ルーの方針は、結果良ければ全て良しなのだ。


「はっきり言って今回の件。加害者は誰も居ない。居るとすれば、問題行動を起こす彼らであってラパンの手助けをしていた人達に悪者は存在しない。意見の不一致があっただけで誰も正しい答えを持ち合わせている者が居なかった。只、それだけだよ。だから謝罪とか、そう言うのは、抜きにもう一度、挑戦して欲しい。今度は、上手く行くさ」


「それは、俺に判断は委ねられていないかな……必要としているのだけど、協力が得られかが、問題だからね。場合に寄っては、全く相手にされないって事もある。逆に質問を質問で返して申し訳ないのだけど、どうすれば円滑に協議の場が設けられるか、知りたい」


 ランディは、ルーの送球に臆せず、自分弱みを見せて逆に助言を求めた。元より、ランディに虚栄を張るつもりは、毛頭ない。意見の食い違い一つで大義を忘れる程、間抜けでない。


 寧ろ、ランディの性格を知っているからこそ、ルーは、余計なお世話だとしても一歩、踏み込んで尚、ランディは、期待に応えてくれる自信があった。逆説的に言えば、その自信があったからこそ、ルーは気兼ねなく言えた。


「恐らく、そんなに畏まらなくても良いと思うよ? そもそも、成果があったか、被害があったのか、判断材料が乏しい。評価をされるまでに至っていないのだから。例えるなら君はまだ、試験の最中さ。答案を一生懸命、埋めている所」


 煙草の火を灰皿で揉み消しながらルーは、微笑んで言う。ランディは、カップを傾けてのどを潤すと、脱力した。


「そして、それはフルールも同じ。今回は、そろそろお互いに解答用紙を見せ合って答え合わせをした方が良いって事。別に本当の試験じゃないから誰も咎めやしないさ。いつの間にか一人で解決する方向性になってしまったのが、そもそもの過ちだったのさ」


「……人に相談するって本当に大切だね。悩んでいる間は、途方もなく大きな壁に見えるけど、視点の違う考え方を教えて貰うと途端にちっぽけに見える。此処最近、君に助けてもらってばっかりだ。ありがとう、君が居てくれて本当に助かる」


「友人の窮地なら幾らでも手を貸すさ。何よりも素直に僕の言葉を好意的に受け止めて昇華させてくれるのだから話す甲斐がある。最後にその壁を越えられたのは、ランディの人柄があるからだ。本当は、君にきちんと力があるから助力になるんだよ」


 ランディは、ルーから煙草を一本、貰うと燐寸で火を付けて一服する。ランディの腹は、決まった。後はタイミングだが、それは向こうから来てくれた。


「さて、そうこうしている内に待ち人が来たみたいだよ」


「店の外に人影が見えたのかい?」


 ルーがにやりと笑いながら言う。ランディは、煙草の火を消してそっと立ち上がった。


「うん、先程から窓辺から扉に掛けて行ったり来たりを繰り返しているみたいだ。どうやら、僕は、お暇した方が良さそうだね。待ち人は、君とサシで話がしたいらしい」


「お気遣いどうも。では、迎えがてら見送りをさせて貰うよ」


「全くもって手が掛かる友人ばかりで僕は、暇をしないよ。何かあれば、一報を。大した助っ人ではないかもしれないけど、駆け付けるから」


「宜しく頼む」


 ルーは、手早く帰り支度をし、扉へと向かう。見送りと、迎えの為にランディもその後に着いて行く。ルーが扉を開けると、其処にはフルールが。扉が開き、最初は、目を真ん丸にさせて驚いた様子だったが、直ぐに顔を背けて居心地が悪そうに腕を摩る。


「……おはよう、二人とも」


「フルール――」


「おはよう、フルール。さあ、僕の用事は、済んだから。どうぞ、ごゆっくり」


「別にあんたが居たから入らなかった訳じゃないわ。カン違いしないで頂戴」


「何でも良いさ。それよりもどうやら急ぎの用事だったみたいだね。血相を変えて町中を走って来たんじゃないかって位、身嗜みが乱れているけれども」


 鉢合わせして早々にルーは、フルールを茶化すが、珍しくフルールは、食って掛かる事無く、穏やかに言い返す。明らかに何時もの活気がなく、ルーの指摘通りに身嗜みも崩れていたので誰がどう見ても何か、厄介事を背負っているのが分かった。


「ルーには、関係ない……放って置いて頂戴」

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