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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第伍章 誰が為の闘争
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第伍章 誰が為の闘争 1P

結局、その日のチャットは、家に一度戻って自分の貯金を切り崩して頼まれていた商品を買って一時凌ぎをした。勿論、その後は、無気力に悩みに悩んで翌日、フルールへ相談する事を決める。本人にとっては、情けない話であったが、誰にも相談しない訳にも行かない。


 どんよりとした曇り空の下。教会の裏手にある小さな庭園で二人は、落ち合って話をしていた。此処なら普段、誰も寄り付かないから内密な話をするには、ぴったりの場所だ。


「……許せない!」


「フルール姉、どうしよう―― 向こうの言う通りに行って取り返した方が良いかな?」


「駄目に決まってんでしょ! よく考えなさい。行っても簡単には、お金を返さないわ」


「だよね。なら……諦めるしかない。悔しいけど、また貯めれば良いから」


「ダメダメ!」


詳細は、掻い摘んで一通り、昨日の出来事を説明すると不安押し潰されたのか。髪の少し乱れた姿のチャットは、今にも泣き出しそうな顔でフルールのシャツの袖に縋る。


フルールは、怒りで震えながらチャットの頭を撫でた。勿論、この憤怒は、御もっともな話。可愛がっていた妹分を待ち伏せして暴力を振っただけに止まらず、金を奪って交換条件を出して脅す等、目に余る。流石にフルールの堪忍袋も緒が切れた。


「泣き寝入り何て以ての外。外道と思っていたけど……あたしの想像以上だった」


「気を付けては、居たの。でも、執念深く狙われてると思ってなかった。どうしたら良いか……分からない。フルール姉は、どうしたら良いと思う?」


「出来るならば、自分の手で取り返したいって所だけど。多勢に無勢、ましてや、相手は性根が腐ってても男だし……誰かに頼るしかないと思う」


 されど、怒りに身を任せて猪突猛進に事を運ぶには、些か、無理があった。


相手の方に分があるからだ。人数も然る事乍ら、実力にも不安な要素が。


このまま、二人で行ったとしても勝ち目がないのは、分かり切っていた。


「因みにこの話、他に誰か他の人には? 親御さんには、話辛いだろうから無理よね……」


「父さん、母さんには話してない。多分、そのまま使った分のお金、渡してくれるから」


「チャットのご両親も優しいからね。多分、笑って許して何もなかった事にしてくれるわ」


「それは、申し訳が立たないから。言わなかった」


「それだけで解決してくれるなら良いけど、調子に乗ってまた、あいつらにやられた日には、目も当てらんない。後ろめたい気持ちは、あるかもしれないけど。正しい」


フルールから離れて庭の花壇に咲いた小さな花を愛でながら口籠って現段階において相談出来る人間が居ない事を話すチャット。勿論、自分の都合ではなく、このままでは多方面に迷惑が掛かる故で話し出せなかった事は、言わずもがな。


「ラパンには?」


「ラパンは……フルール姉も知っているだろうけど、自分の事で手一杯だから。この事は、話せなかった。正直に言うと、打ち明けているのは、フルール姉だけ」


 ラパンにもそれは、当て嵌まり、勝ち目のない戦へ赴かせる事は、チャットの気が引けた現状、打てる手立てがないチャットには、手に余る案件なのは、間違いない。当然の事ながらフルールとて、大差ないのだが、相談された手前、無碍には出来ないもの。強がりでも胸を右手で叩いて笑い、大きく頷いて安心させてやりたいのが、情である。


「そう、分かった―― なら、あたしがあたってみる。だからチャットは、お家で大人しくして居なさい。良い? 分かった?」


「フルール姉、本当に大丈夫? フルール姉が行く何て事ないよね?」


「勿論、あたし一人じゃあ、荷が重いから依頼は、するつもりだけど」


 チャットの後ろから手を出し、縮毛が二、三本跳ねる頭をぐしゃぐしゃに撫でて励ますフルール。


チャットは、なすがままに下を向いて地面の土に雫を垂らす。はらはらと、落ちる雫を横目にフルールは、暫しの間、黙って見届ける。鼻を盛大に慣らし、落ち着いたチャットは、鼻声になりながら問う。


「宛は―― あるの?」


「少なくとも何とかしてランディには……と思っているけど」


「私もフルール姉も頼み事……し辛いよね?」


「そこは、何とかするわ! 頭の一つや二つ、幾らでも下げられるんだから」


にこっと、目尻に小さな皺を寄せ、白い歯を見せて笑うフルールに釣られて笑みを取り戻すチャット。大切な人を前にして自分の矮小な意地など、無に等しい。出来る事があるならば例え、仲違いした者にでも頭は、下げられる。物事には、優先順位があるのだ。


それを違えるフルールではない。


「お願いしても……良い? 頼める人、フルール姉だけだよね」


「まかしておきなさい。だから明日は、絶対に何処にも出掛けない事、仕事に専念なさい」


「分かった、約束する」


「必ずよ?」


この話の後、直ぐにフルールは、先にラパンの家へ向かった。


 昨日、休みを貰って居たのならば、恐らく仕事で家に居る事は、間違いない。普段のラパンは、調理と給仕の兼任をしているのでランディよりも居所が明確なのだ。


 チャットが直接、伝えに行っていないので気が引けたけれども形振り構っては居られない。伝えた所で動かないかもしれないが、幼馴染の危機を知らないままと言うのも可笑しな話である。一か八か、一縷の望みにも縋ろうと、フルールは思ったのだ。


 幸い、目当てのラパンは、店内で給仕の仕事をしていた。窓の外からでもあの巨体は、見分けが付く。足早に通りを突っ切って店の中へ駆け込むチャット。


「ラパン! 見つけた。ちょっと、話がしたいの。忙しい所、申し訳ないけど時間を頂戴」


「フルール姉、お疲れ様なんだな。いきなり、血相を変えてどうしたんだも? 休憩中の母さんに交代して貰うからちょっと待ってて欲しいんだな」


「なるべく、急いで頂戴。急を要する事情なの。緊急事態よ」


「……分かったんだな。裏口の所で待っててなんだな」


「宜しく」

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