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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第傪章 特訓、特訓、特訓
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第傪章 特訓、特訓、特訓 11P

「ありがとうございますなんだな」


 確固たる意志を持って己の目指すものを昇華させたラパンに水を差す程、フルールも無粋ではない。もう少し傍観する事を決め込んだフルール。


「何よ、あたしの出る幕がどんどん無くなってるじゃない……」


 ただ、自分でも気付かぬ内に誰も聞こえない位、小さな独り言が漏れた。三角巾の位置を直しながらラパンの後ろ姿を見送るフルールの表情は、少しだけ寂しげだった。


 一方、予期せぬフルールとの鉢合わせで時間を食ったラパンは、足早に役場へと向かい、正面の扉から中へ入って行った。篝火と窓から漏れる陽光しかない最低限の明かりに照らされた室内は、ひんやりとしていた。いつも通り物音は少なく、静かでペンと紙の擦れる音と微かな話声だけ。コツコツと役場内に足音を響かせながら窓口へ向かったラパン。


「こんにちはなんだも。ラセさん、ブランさんに用事があって来ましたなんだな」


「ラパン、お疲れ様。この前の会合の件かな?」


 古ぼけた木製の窓口には、役場のラセが帳簿の確認をしている所だった。ラパンが声を掛けると眼鏡を外して笑いながら挨拶を返して来た。線の細いラセは、シャツと濃紺のジャケットを羽織った出で立ち。今日は、朝が忙しかったのか、黒髪をポマードで固め、アップバングにしていた。出来れば、ラパンも常々、見習いたいとは思っていたが、流行や洒落た格好には疎いので憧れに留まっている。


「はい、ご要望の見積もりと献立をお持ちしたんだな。直接、お渡し? それともオウルさん? それともラセさんにお願いしても良いんだも?」


「僕が預かろう。直接、オウルさんへお渡しするから大丈夫。丁度、お二人共、外出中でね。生憎、朝から近くの村へ査察に向かってしまっていつお戻りになるかも分からない。待ち惚けになったら申し訳ない。君にも他に仕事があるだろう?」


「その提案は、とっても在り難いんだも!」


 右手で顎を撫でながら思案顔のラセは、ラパンに提案した。ラパンにとって申し出は、在り難い事であったけれども何処まで委任すれば良いか、考えあぐねてしまう。お願いして中途半端になってしまうと、店が困るからだ。その様子で察したラセは、ラパンに問いかける。


「さて。三、四点だけ詳細を幾つか確認したいのだけど……」


「何でも聞いて下さいなんだも?」


「では、遠慮なく。金額は……いつも通りかい?」


「勿論なんだなー」


 ラセの意図は、一通りブランに説明をする重要な所を再度、相違がない確認し、ラパンから見て説明に見落としがないか、確認して貰い、憂いを取り払う事だ。


「献立も君んちの料理は、申し分ないから心配なし。これまでの招待客からも評判は、頗る良いから。今回もブランさんは、大いに期待しておられるよ」


「それはとても嬉しいお知らせなんだも」


「ある程度、格式を保ちつつ、気軽に食事を楽しむって言うのが難しくてね。中々、オウルさんのお眼鏡に適おう店を探すのも骨が折れるからついつい頼り切りになってしまう」


「お褒めの言葉、至極光栄なんだな」


 時折、世辞を入れつつ和やかに業務を進めるラセ。ラパンは、鞄から金額の見積もりや献立を取り出しながら答える。そして一番重要な日程の確認も怠らない。


「再度、確認。日程は、この日で間違いなく?」


「大丈夫、この日だけ閉店時間を早めて人払いはしますんだも。早めの予約だから事前に他のお客様へ了承して貰うんだな」


「承知した」


 いつも通り、人払いを確約するラパン。密約とまでは、行かないが今後の政策や情勢においての立ち位置、ちょっとした交渉事を食事をしながら取り纏める事も往々にしてある。その際、聞き耳を立てられるのは、ブランにとっても客人にとっても芳しくない。ラパンは、話の合間に取り出した書類をラセに手渡す。受け取ったラセは、またもや眼鏡を取り出して書類にざっと目を通すと頷いた。ラパンの持って来た案内があれば、代わりが全う出来ると確信したラセ。ラパンも大凡、憂い事が晴れた様子。


「これなら君から説明して貰わなくとも僕が代わりを務められる。毎度、ご丁寧に対応してくれるからとっても助かるんだよ……それと、追加でブランさんから要望があれば、オウルさんと相談した上で君の父上へ改めて連絡を差し上げる事を伝えてくれれば助かる」


「かしこまりましたなんだな。では、これにてお暇させて頂くんだも」


「ご丁寧にどうも。ご両親に宜しく。近々、僕も家内とお邪魔させて貰おうと考えているんだ。結婚記念日が近くてね。今度、事前の打ち合わせをお願いしたい。今回は、趣向を変えてびっくりさせたてやりたいんだ」


「ラセさんも隅に置けないんだな。母さん、張り切るんだも。絶対、奥さん喜ぶんだな。では、ご来店、お待ちしてます」


「宜しく頼むよ」


 決まり切った事でも毎度、同じ月並みな物と見做して流れで済ましてしまうと後で失敗が発覚すると、取り返しがつかない事もあるのでどんな手間でも確認するラパン。特に食料品を扱うのであれば、ロスは取り返しが出来ないので尚更だ。最後にラセから個人的な頼みを受けるラパン。大きく伸びをして緊張を解すと、踵を返して出口へと向かう。


「さて……後は、買い物だけなんだな。てきぱきと終わらせて家に帰って一休みするんだな」


 役場を出たラパンは、真っすぐに露店商通りを目指した。少し軽くなった背嚢に今度は、香辛料を詰めて帰らなければならない。大通りを外れて薄暗い路地裏を通り抜けつつ、露店街を目指すラパン。


大通りも混雑していたが、露天商通りは比べ物にならない。狭い路地に人の往来が集中しており、歩くだけでも一苦労だ。幸い、事前の注文し、支払いも済んでいるので後は、商品を貰うだけ。支払いの為に列に並ぶ必要もないので気が楽だった。


「ちょっと、話が多くて時間が掛かったんだも……荷物の受け取り、さっさと終わらせるん」


 別段、焦る必要もないが当初のラパンが想定していた予定よりも遅くなってしまった。少し時間を取り戻さねばと、細い路地裏を多用してジグザグに目的地へ向かうラパン。幸い、裏路地までは、町民以外、立ち寄らないのであっという間に通りを一つ越えれば、目的の露天商の店は、目と鼻の先。此処までいつも通り順調、何事もなかったので安心しきっていた。


 そのちょっとした油断がラパンにとって致命傷だったのだ。


 明るい通り側から不意に人影が三つ入って来たのだ。薄暗い路地裏で顔の細部までは、分からなかったが、背格好で直ぐに分かった。今、一番会いたくない例の三人組で間違いない。ラパンは、立ち止まらなかったものの、歩く速さを少し落として思考を加速させる。


今まで対策は、取って来たものの、此処で披露せずとも問題が起こらないに越したことはない。忘れ去られていれば、このいざこざの心配も杞憂となる。どちらかと言えば、ラパンもそれを望んでいた。されど、その一縷の望みも簡単に切れてしまった。


「ちょっと待てよ。無視か、お前?」


「ああ……君たちか―――― こんにちは、ご機嫌は如何?」


 ゆっくりと、通りに向かって歩んで行き、すれ違い掛けた時に三人の内の一人が声を掛けて来た。同時に三人の足音が止まったので振り返る事無く、止まったラパンは、答えた。


「ご機嫌に決まってんだろ? それにしても久々だな。お前に会えなくて俺たち、寂しかったんだわ。てっきりいなくなっちまったと思ってた所だ」

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