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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第傪章 特訓、特訓、特訓
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第傪章 特訓、特訓、特訓 8P

今までにない状況に戸惑いつつもチャットは、更に説得を続ける。ただ、ランディが決して正しい訳でないと、理解した上でそれでも付き従うと決めたラパンの意思は堅い。


「誰にも予想が出来ないんだな。それにこれは、僕だけの問題じゃない。もし、君と連れ立って遊びに行った時に来られたらチャットだって危ないんだも。だから僕が少しでも強くならないと。でしょ? ランディさん」


「その可能性は無きにしも非ず……だね」


「私なら……何とでもなる―― 今、無理をしてる……貴方が心配」


「でも出来る事は、やっておいて損はないし。段々と慣れて来たから心配ないんだな」


 少し見ない間に自分の知らないラパンが出来上がっていた事に驚愕するチャット。声も震え始めておぼつかない。これまでなら既にラパンの心の方が揺れ動き、自分へ賛同していた筈。その驕りにも近い、自信が足元をチャットの足をすくった。


「出来る事なら他にもある。ブランさんに相談してみたり……町の皆に協力して貰ったり。やれる事は、他にも沢山ある。貴方、一人で解決する必要がないの」


「これは、僕が被っているから最後は、僕が解決しないと……何時までも子供みたいに誰かを頼ってばかりじゃ駄目なんだな。それにこれからは、僕も頼られる人にならないと」


「尊い目標を打ち砕いて申し訳ないけど、はっきり言って私は、大怪我するだけで勝てる見込みがないからもう止めて。付け焼刃でやったって強くなれる訳ない。諦めて欲しい」


「それでも……それでも僕には出来るって。ランディさんは、僕に……この僕に期待してくれたんだも。僕だって勝機を見出す事なんて出来ないん。でもランディさんは、僕の何かを評価して言ってくれたんだな。一緒に抗おうって。こんな事、一度もなかった。僕は、その期待に報いたいんだな。だから申し訳ないけど、チャットの言う事には、賛同出来ないん」


ラパンの話にはっとするランディ。チャットと対立する事になったとしても意地を通すと決めて徹底して反論する姿に思う物があった。


「私……もう知らない! 勝手にすれば良い。後で泣いて謝ってきてもね」


 思い通りに行かないラパンに苛立ちを覚えて拳を力強く握り結び、大声で捨て台詞を吐いた後、出て行ってしまうチャット。


「怒らせちゃったかな? 母さん」


「お前が決めた事だろう? そんな事気にしてる暇があったら結果で答えを出して見返しておやり。そんでもってお前が辿り着いた所を一緒に見れば、それで解決さ」


「それなら問題ないんだも」


 少し落ち込むラパンへ助言するカナ―ル。


「それでランディさん。お話は?」


「ああ……ごめん、ごめん。大した話ではないけど、これからの予定だけど。後、二週間は、基礎の繰り返し。三週目から実戦に使う格闘技と言うか、打突技や蹴撃技、体の運びを交えながらやってみよう」


「かしこまり……なんだも」


出された紅茶を飲み干してランディは、立ち上がりながらこれからの予定を説明する。


「遂に本格的な訓練が始まるけど大丈夫かい?」


「もう、チャットに言ったし、後には引けないから頑張るしかないんだな」


「フルールと昨日、この件で意見の食い違いがあって俺も引くに引けない状況でね。お互いに背水の陣になっているから最善を尽くそう」


「ランディさんも難儀なんだなー。フルール姉と喧嘩してまでこだわる必要ないんだも」


 腕組みをしながら珍しく神妙な顔をして頷くラパン。


「俺も一緒で最後に仲直りさえすれば問題ないさ。では、宜しく」


 それからランディは、ラパンへ自身の思惑を包み隠さずに伝え、改めて覚悟と、これから己がどうなりたいかを確立させなければならない事を教えるのであった。


                 *


 それからも鍛錬。いや、憲兵隊や国軍の訓練さながらのより濃い内容の鍛錬は、続いた。


宣告通り、ランディは三週目から体術を交えた実戦に近い形式を取り入れ始める。基礎トレーニングの割合を減らして先ずは、使用する筋肉の増強と実際に当てる感覚を養う事、当てる手足の部分強化の為にお手製の藁束を詰めて作ったダミーの標的を木に吊るして打突や蹴撃の練習。


その他にも素手の戦闘における体勢の維持とランディが打突や蹴撃を繰り出すのを防御や躱すより実戦に近い形の訓練。逆にラパンが覚えた打突や蹴撃を自分で体力配分や戦法を考えながらランディへ繰り出して受けて貰い、攻撃の精度を上げる練習。剣術も何かの役に立てばと、打ち込み稽古を取り入れ、裾野を広げた。勿論、これ以外にも投げ技や護身術、近接格闘における拘束術等も視野に入れている。けれども今の所は、一対多数の状況を想定しているので優先順位は低い。


ラパンにとって覚える事も多く、生傷も進むにつれて増え、良く言えば、精悍顔付きに。悪く言うのならば、過酷な鍛錬の緊迫状態で頬がこけたと言うべきか。相も変わらず、体格に変化は起きないものの、段々とランディの理想に少しずつではあるが、近づきつつあった。


「よし、今日も頑張ろうか。今日は、三周頑張って基礎は、少なめ。打突と蹴撃を重点的にやっつけちゃおう。最後は、今日初めてやるけど、手加減なしの掛かり稽古だ。君の出来る手立てを全て使って俺を熨すつもりで掛かってくるんだ」


 何時もの時間。ランディは、眠気など一切、感じさせない声色でラパンにトレーニングの内容を説明する。最早、日課となったラパンも柔軟体操をしながら体の感触を確かめていた。


「はいっ! とは言っても確実に僕の手は、見切られ、いなされて続けてへとへとになった所を一撃で沈められる未来が簡単に想像出来るんだな……」


「やってみないと、分かんないよ?」


「この前から本格的に教わり始めて漸く、ランディさんの恐ろしさが分かったんだな」


「恐ろしいとは、心外だ。実戦は、感性さ。場数を踏んで行けば技術向上と手数は、勝手についてくる。それらより相手を観察し、癖を掴んで弱点を見極めつつ、最良の時に最良の一撃を繰り出す。無意識の中で自分を飼い慣らし、一撃を出せるように磨くだけだよ」


 軽口を交わしつつ、二人してまだ見ぬ朝焼けの方向を臨みつつ、胸いっぱいに朝の空気を吸い込む。湿り気を含んだ土の匂いと、草木の香が辺りを満たしていた。


「其処まで本格的なギジュツって奴は、料理人に必要ないんだなー」


「別段、感性は何処にでも役立つよ。自分を思うように飼い慣らすって何事も必要だし」


「その感覚は分かるんだも。父さん、料理している時は、本当に目を開けていても瞑っていてもおんなじ事出来るんじゃないかって錯覚する位、自然に動くんだも」


「その感覚を養ってどの場面でも自分を作れる様になれたら君は、無敵だ」


「俄然、やる気がでたー」


「その調子、その調子」


 ラパンの意気込みを褒めつつ、ランディも各関節を稼働させて感触を確かめる。


「じゃあ、軽く体を解して走り込み。俺は、今日から自分のペースで走るよ。君は、自分のペースを崩さずに頑張れ。勿論、俺の速さに食らいつくってつもりで来るのも良いかもね」


「かしこまりです。そう言えば、三日前くらい子兎が巣穴から出て来てるのを見たんだな」


「見た、見た。三、四匹うろうろしているよね。そろそろ、自分でご飯食べられるんじゃないかな? 因みに気付いた?」

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