表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第傪章 特訓、特訓、特訓
160/501

第傪章 特訓、特訓、特訓 7P

「貴方の……貴方の言う事なんてちっとも分かりたくない。だって今が良ければ、それで良いじゃない。何時までもこの町は、穏やかなまま。貴方の言う不条理何て来ない」


「その考え方で行くなら……実際、此処での議論は、俺も君も所詮、憶測でしか語れない机上の空論で否定し合うだけになるね。結論は出そうにないよ」


「少なくとも貴方の思い通りにはさせない」


 最早、安い演劇の陳腐な悪役の様になって来た己に呆れるランディ。重大な案件でなければ、進んで演じる所だったが、如何せん、今は分が悪い。これでは、和解など雲の上の話だ。


「一先ず、ラパン君が来てからにしよう。何時までもこんな話をしてたら息が詰まる」


「貴方と話す事なんてない」


「随分と嫌われたもんだ」


 苦し紛れに話を逸らそうとしても無駄だった。灰色の鋭い瞳に射貫かれながらランディは、途方に暮れる。話を重ねれば、重ねる程に自分の無能さを思い知らされるからだ。


「随分と仲良くなったものね。ちょっと聞いていたけど、あんまり思いつめない方が良いじゃない? 何もあんたたちがいがみ合う事はないわ」


「でも!」


 険悪な状況下において青天から助け舟が雷鳴を轟かせてやって来た。その助け舟は、腰に手を当てながら仁王立ちしたカナールの事。無論、これだけ騒いでいれば誰しもが気付くのは、当たり前。仲裁に来るのも当然。ランディと幾ら口論しても動揺しなかったチャットが声を裏返させながらも静止したが、カナ―ルは止まる事を知らず。


「なら、チャット。はっきりさせよう。私は、ランディの肩を持つ。これから看板を背負うって商売をやって行くのにこんな所で躓かれたら困るんだ。これから先はもっと、面倒な事が必ず降り掛かって来る。今、逃げ癖を治せるなら私は、騎士様に全賭けさ」


「カナ―ル母さん!」


「第一、チャットもフルールも甘いのさ。何れ分かる」


不敵に笑うカナ―ル。カナ―ルの宣言を聞き、明らかに不貞腐れるチャット。血色の良い唇を真一文字に結び、そっぽを向いてしまう。


「すっかり、むくれちゃいましたよ……」


チャットから気付かれぬ様にこそこそと、カナ―ルへ耳打ちするランディ。


「子供の機嫌を一々、伺っていたら親なんぞ務まんないよ」


 そう言うと、肩を竦めたカナ―ル。


「たまには、肩入れされても良いじゃない? 何かと劣勢で戦ってんでしょ? それより私は、諦観に染まって死んだあんたの目が気に食わない。その傷つけられる何て慣れっこですって言外に語るその目がね」


「……」


 カナ―ルはじろりと、ランディを睨んだ。語らずとも心の内を見透かされたランディは、蛇に睨まれた蛙の様にその場で動けない。


「反論があるなら何か言ってみな。私からあんたに言えるのは、全部、見透かされているのを理解した上で行動しなさいって事ね。少なくともあんたは皆から見て貰えている。良くも悪くもね。だからもっと、自己主張なさい。悲しい時は、悲しいと。苦しい時、寂しい時、嬉しい時、怒った時、全部出しなさい。周りの人間関係なんざ、気にしたって仕方がない。レザン翁もだけど。もっと、あんたの色んな一面が見たいんだ」


 カナ―ルは、にっこり笑うとランディの髪をぐしゃぐしゃに撫でた。寝癖が付かなければ、直毛で手入れに手間が掛からない事が売りの髪が一気に乱れる。


「その困惑した顔、良いね。もっと、迷い、足掻け、青年」


「何て酷い言い草だ。俺の縋って来た拠り所を蹴り飛ばした癖に……」


 精一杯の負け惜しみをぶつけながら髪を撫で付けて身嗜みを整えるランディ。大人ぶって居ても本質は、チャットと変わらない。


「あんたの縋ってた拠り所は所詮、自分の中で偶像化した己の慰めに過ぎない。自己完結で終わりにしないで外に求めなさいって事よ。色んな事を」


「分かりかねます。外に求めた結果が今です。目の前の彼女とさえ、分かり合えない。彼女との会話の際に感情を表したとて。結果は、一緒でしょう?」


 求める物の方向性を間違えている事に気付かないランディは、目の前の現状だけを見て結果だと言い、愚痴をこぼす。


「それで良いんだ。寧ろ、それが普通」


「これが……ふつう?」


「これ以上、言う事はない。後は、自分で直接、触れるしかない」


これで話はおしまいと、大きく手を叩いて二人の注目を集めるカナ―ル。


「さて、お待ちかねだったね。やっと、待ち人が来たようだ」


そして三度目のドアベルが鳴る音と共にラパンが姿を現した。大きな背嚢を背負い、黒いシャツに七分丈のボトムスと長い靴下の出で立ちのラパンは、額にうっすらと浮いた汗を手拭いで拭きながらのそのそと店内に入って来る。


「母さん、ただいまなんだな」


「お帰り、ラパン。夫人の所は、大丈夫かい?」


「問題なしなんだも。指輪も見つかって元気、元気」


 まず始めに使いの報告を母親にしながら背嚢を背中から降ろし、大きく伸びをした。


 そして屈むと、背嚢の整理を始めるラパン。


「そうかい、良かった。ほら、ラパン。あんた宛に客が来てるよ。挨拶しな」


「お邪魔してるよ、ラパン君」


「……お疲れさま、ラパン」


そのまま、来客に気付かず、のんびり屋のラパンは、背嚢の整理を続けているので席に座っている二人を指してカナ―ルは、言った。


「あれ? ランディさんにチャット。いらっしゃいませなんだな。ご用件なんだも?」


「俺は、訓練の予定を話に来たんだ」


「私も訓練の事で話が……」


カナ―ルの知らせで屈んでいたラパンは、立ち上がって顔を上げると、目を細めてにっこりしながら用件を聞いて来た。二人ともも口を揃えて鍛錬の件で話がある事を告げる。


「うん? チャット、眉間に皺が……今日は随分とご機嫌斜め。何かあったんだも?」


 声色で特に不機嫌そうなチャットに気を留めて問いかけるラパン。穏やかではない雰囲気を纏うチャットは、立ち上がり、ラパンの目の前に向かう。


「私の事は、置いといて。私は、訓練を止めて欲しくて説得しに来たの」


 チャットは、単刀直入に自分の用件を伝える。


「唐突にどうしたんだな?」


 いきなりの提案にラパンは、怪訝な顔。理由もなく、只やめろと言われたのだから納得が行かないのも当然の事だ。しかもやっと、慣れて続ける意欲も出て来た時期に。


「賑やかな所を避ければ、問題ないからもう止めても良いじゃない? ラパンも最初から乗り気じゃなかったし。頑張っているのは分かるけど、これからが書き入れ時だし。疲れで仕事に支障が出たら困るじゃない? それに最近、ご飯も満足に食べれていないでしょ」


 胸に両手を当てながら努めて平静を装いつつ、チャットは、思案を説いた。先のランディとの会話と違わず、現状に問題なければ、それを続ければ良いと言う内容。それに加えて今、強いられている不都合もなくなると言う魅了的な提案も添えて。幼馴染なだけあってチャットは、ラパンの琴線もおさえており、説得の仕方も心得ていた。


「確かに今の所は大丈夫なんだも。でもこれからの事を考えるなら尚更、難しいんだな。商材を買いに行ったり。時々、配達もあるし。避けて通れないから今、備えているん。僕も自信はないけど、今は頑張るって決めたんだな。自分で……」


 されど、今のラパンはひと味違う。これからを見据えて自分が正しいと考えて行動しているのだ。勿論、ランディの思惑に乗る形ではあるものの、リスクも承知し、その上に自分なりの考え方を確立しつつあった。そこに居るのは、操り人形ではなく、一人の人間である。


「その頃には、アイツらも忙しいから来れない。今だけ……凌げば、問題ない」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ