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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第傪章 特訓、特訓、特訓
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第傪章 特訓、特訓、特訓 5P

「ご説明した方が良いですか?」


「私には、必要ない。お前が懸命に解決への道を模索しているのであれば、心配していない。それでもあのあしらい方は頂けないな。一応、あれも気丈に振る舞ってはいるが、娘子にかわりはない。その内、本当に愛想を尽かされてしまうぞ」


 レザンは悪戯っぽく、鼻で笑いながらやんわりとランディを叱る。本人が一番、痛感している事だからあまり追及する必要はないが、忠告は年長者としての務めの一つだ。


「それでも……やり遂げるには、妨げになると思いました。俺とて、時間は、無限ではない。いちいち、説明をあの子の理解が及ばない所が出る度にしていたらラパンくんに割ける時間が減ってしまう。一度、遠ざけてしまって結果が出て納得させれば、一番良いと……」


「思いました―― か。でもそれは甲斐性なしがする事だ。確かに大人と男の立場を両立するのは、難しいな。大人としての対応を迫られるならラパンを優先する方が正しい。男としての対応を迫られるならば、結果が伴わずとも時間を割いて出来ると言い続けなければならない。でも私は、お前ならどちらも両立出来ると、信じている」


「ずるいです」


心の内を吐き出す内、無性に煙草が欲しくなったランディは、胸ポケットから取り出した。煙草は、最近になって禁煙し、吸わないと誓っていたが、こう言う時は、無性に恋しくなってしまう。さり気なく、レザンは、灰皿を差し出し、これもまた、一礼をしてランディは受け取ると、マッチで火を付けて深く吸い込み、吐き出す。久々の喫煙で少し眩暈がしたが、ぐっと目を瞑り、堪える。


期間を空けてまた吸うと、何とも不味いのだが、思考を掻き消すには丁度、良い。頭を空っぽにするには打って付けだ。紫煙が立ち上り、独特の香りが部屋を満たす。煙の先にぼんやりと見える暖炉を眺めながるランディ。


「年寄りの特権はな、若者に無責任な期待を掛けられる事だ。そしてそれが何よりも楽しいのだよ。大丈夫だ、お前はきちんと自分の人生の主人公として歩み続けている。悩み、もがく姿が何よりも物語っている。最早、私はお前の描く物語の脇役に過ぎん。だから尚更、物語を進める為の仕掛けとして言っているんだ」


 煙草を咥えて脱力するランディを眺めながら嬉しそうに語るレザン。ずっと欠けていた物が埋まったかのように。いや、最早永久にないものだと一度は諦めた事が、喉から手が出る程、渇望していた何かが満たされたと言うべきか。


「言わないで下さい。レザンさんは、立派に主人公然として自分をお持ちで今まで歩んで来たじゃないですか。これからも同じです」


「私は、正しいか、正しくないかは別として自分を完成させてしまった。迷う事が滅多に無くなった今はもう、この先に続く話はない。終わってしまった」


 饒舌に語るレザンに一応、納得したランディ。当人が言うのであれば、納得しているのでそれ以上、言っても仕方がない。


「難しい顔をするな。私は、自分の引き際を知ったのだ。既に私の誇りを次代へ渡し、更に次へ繋がった事も分かった。思い残す事はない。これ以上、嬉しい事はないさ」


何処か誇らしげなレザンに首を傾げつつ、煙草の火を揉み消すランディ。


「そうですか……」


「そう言う事だ。明日もあるのだろう? お前の障害は、二つも増えた。心して掛かれ」


「はい――」


時には、時間を無為に過ごす事があっても良い。立ち止まって今一度、周りの景色を見る事も必要だ。暫しの安らぎを得つつ、明日を待つランディであった。


                    *


「君も毎度、毎度、難儀な立場に居るね。そんなに滅私奉公したって面白い事なんてないよ? それとも君は、自虐するのが好きなのかい?」


「そう言う訳じゃないだけどさあ。毎回、毎回、面倒事の方が向かって来るんだよ」


 フルールとの仲違いが起きた夜からあくる日。ランディは、役場に出向いてルーの所へ相談を持ち掛けに来ていた。業務に差支えがないちょっとした昼休み時を狙い、手土産の菓子を持って。運良く、本を脇に抱えたルーが役場を出る所で捕まえて喫茶店に誘い、テラス席で丁度、説明を終えた所だった。


「それにしても今回は、手酷くやられたね」


「滅茶苦茶、痛かった」


「まあ、叩いたあの子の手も痛いんだ。甘んじてご褒美とでも思って受け入れる事が懸命だ」


「あまりその意見には、賛同出来ないけど。そう思わないとやってらんない」


茶化して来るルーに軽口で返すランディ。まだ、ほんのりと赤いランディの頬を指差して苦笑いを浮かべるルー。笑いに誤魔化せるだけ救いはあったものの、情けない話に代わりはない。気まずいランディは、注文した珈琲を冷ましながら一口。ルーは、並んだ日除けの隙間から差し込む日光に目を細めながら欠伸を一つ。


「でも珍しい。あの子が手を上げる事なんてそうそうないよ? 君は、逸材かもしれない」


「当初、怒らせるつもりはなかったんだ。段々と話し合いに熱が籠っちゃってお互いに振り上げた拳を下せなくなって。頃合いを見て先に退けば、良かったんだけど」


「喧嘩は仕方がない。家族だろうが、友だろうが、恋人だろうが、起きる些細な出来事さ。肝心なのは、どうやって仲直りをするかだ」


 大方、ランディの肩から力は抜けた事を確認し、ルーは本題に切り込んで行く。態々、都合を見計らって出向いてご丁寧に仕事上で使う枕詞を多用しつつ、誘い出したのだから相当に気をつかっているに違いないとルーは、踏んでいた。


「そう言えば、君はもう仲直りをしているみたいだけど」


「お互いに心得ているからね。ある程度、やり過ぎない所で上手くやりくりしているのさ」


慣れっこのルーは、屁でもない。幼少期から一緒の幼馴染であれば、それなりに場数を踏んでいるので互いに引き際を弁えていても別段、可笑しくない。目頭を指の腹で擦りながら言うルーは、差ほど苦労していない様子。


「ランディ。君の場合は……どうするのが正解だろうか?」


「わかっちゃいるけど、この問題が解決しない限りは、無理だよ。俺が頭を下げても胡散臭いし。フルールが矛を納めるにも話になんない。二進も三進も行かないのさ」


「そこだね。で、君の試案だけど……まあ、男なら誰しも殴り合いの喧嘩なんて付き物だ。寧ろ、僕からしてみれば、フルールやチャットの方が過保護過ぎる。折角、ラパン本人が覚悟を決めたんだ。やらせれば、良いのに」


「結構な人が経験する事じゃないかなって俺も思う。勿論、俺もただ後ろで糸を引いているだけじゃないよ? 大事にならない様に注意を配って置くつもり。ほぼ、介入も視野に入れている。多勢に無勢だから三人の内、二人を行動不能にして後は、様子を見る心算」


「君も大概、馬鹿だよ。其処まで最初から言えてれば、フルールの怒りを買わなかった筈だ。賛同を貰えるかどうか、判断材料にしては微妙だけど。少なくとも静観してくれてただろう」


「その可能性が低かったから言わなかった。君も怒らせた事あるから分かるだろうけど、最早、言い訳としか聞いて貰えないさ」


 徐に胸ポケットから煙草を出しながらランディは言う。ゆっくりとマッチで火を付けてふかし始めると、ルーが羨ましそうに見て来るのでマッチと煙草を渡す。二人して煙草を咥えながら考え込む。宛ら狼煙のように登ったり、途切れる紫煙。されど、時間ばかりが過ぎるだけで一向に良い案は生まれる事はない。


「仕方がない。恒例だけど、今回も僕が味方になろう。一先ず、ラパンの行動に変調があったら直ぐに君へ届ける。町の皆にもそれとなく、伝えておくよ。特に露店通りと飲み屋はね。正直に言うけど、これを聞いたら町の人、殆どが君に同意するよ。フルールも心の中では、分かっている筈なんだけど、ちょっと甘やかし上手だから仕方がない」


 諦めた顔をして今回も手を貸す事に同意するルー。一方、すまなそうにランディは、感謝を込めてひたすら低頭し、拝む。最後の手段として。信頼のおける友として頼って来たのであれば、ルーも早々、無碍には出来なかった。


「ありがとう! そう言って貰えると、助かる。では、宜しく」

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