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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第傪章 特訓、特訓、特訓
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第傪章 特訓、特訓、特訓 4P

フルールは、背凭れに深く寄り掛かりながら溜息を一つ。フルールも恐らく、意思が揺れ動いているのだろう。何もないのであれば、それに越した事はない。


「俺の見解を話しても?」


「どーぞ」


「申し訳ないけど、俺はそう思わない。彼らは、いずれラパンを探す様になると思う。今は、町に目新しい興味を引くものがあってそれらに夢中だけど、ふとした時に飽きが来て次に面白い事は無いかと、探し始める。それで思い出すんだ、今までやった悪戯を。その中には、ラパンも含まれていて恐らくは……」


 ランディなりに予測したこれから起こるであろう出来事のあらましは、甘くない。


手を組み、ひじ掛けの両方に肘を置きながらランディは、フルールの返答を待った。


「嫌に成るくらい考察が具体的じゃない? 貴方にも虐められた経験あるの?」


「犯罪者の経歴を見せて貰う事が何度もあったんだけど、似たような傾向だった。愉快犯とかは、特に。人は、経験した事を思い出して繰り返すのが好きな生き物だ。数多ある中で何度も見直す紙芝居とか、親御さんよくせがんだりした昔話って子供の時にあっただろう? 彼らにとってはそれと一緒なのさ」


「言わんとする事は、分からないでもない。なら、貴方はどうするつもり? あの子の説得は容易でない事くらい、お見通しでしょ?」


 説得するつもりはないと言葉が出掛かったが飲み込むランディ。前髪を弄りながら少し考えた後に口を開く。


「説得の材料、勝機を見出すにも暫くは、下地を作るのが優先。実戦形式の鍛錬は、まだ行う予定はない。何故かと言えば、今はある程度なら負荷をかけても問題ない体作りの段階であって無理に先へ進めると怪十中八九、怪我するからね」


「じゃあ、どうすんのよ?」


悲観的なフルールにランディは、何処吹く風で現状を淡々と続ける。元より、ランディの辞書に『退く』と言う文字はない。後は、『非現実的』と言う文字も。


「どんなに頑張ったって短期間にいきなり強くなるってあり得ないよ。よく必殺技を取得したり、突然、力に目覚めたり、最強の武器を手に入れたりとか、物語ならあるかもしれないけど、そんなもん此処にないし」


「もう、どうしようもないじゃない……」


「そうでもないよ?」


「どう言う事よ?」


肩を竦めながら簡単に手のひら返しをしてフルールを驚かせるランディ。


「朝方は、散々望み薄って話をしたけど、よく考えてみてよ。高々、素行の悪い不良青年相手だ。体格に恵まれたラパンなら余裕でしょ。勢い良くぶつかれば、簡単に倒せてしまうし。腕力もかなりあるみたいだから下手したら投げ飛ばせる」


「後は、貴方が如何に自分の指導でラパンにそれを気付かせるかって事?」


ランディの試案は、至極簡単だ。頼れるのは、己の腕力のみ。体躯を使い、思うが儘に暴れる。ただそれだけだ。そこには、武の道など、微塵もない。


「ただの乱闘?」


「俺からしてみれば、素材は揃っていたんだ。後は、どう生かすかだけど、今回は俺の持つ技術を伝授する事は到底、出来ない。でもどれだけ体格に恵まれているかは、教えられる。その為の鍛錬なんだ。持久力だけ足りないから補完する為に時間は、割いているけどね」


「さっきはそこまで話してくれなかったじゃない!」


「話をしなかったのは、恐らく彼の戦いは、すんなりと行かないからだよ。とっても泥臭い勝負になる。結局のところ、どれだけ否定しても君は、俺の戦う様を見て期待値が大きくなっていた。さらりと、相手をいなし、軽く関節を固めて相手の力を利用し、投げ飛ばしたりとか。一切、危害を加えられる事無く、解決出来る事を理想としていただろう?」


ランディの指摘にフルールは、思わず口ごもる。


「……確かに図星を突かれたわ。それが悪いの?」


「悪くはないけど、彼には彼の自分を生かした戦い方があると俺は、勝手に思っている。今の彼には、肉を切らせて骨を断つ戦法のみ。それは、自然の生存競争に近い……いや、そのものだ。最後に立っている事、これも俺にとっては強さの一つだと思っている」


「その為ならあの子に一生涯残る傷を負ったとしれても?」


少しずつ瞳に宿る怒りの炎がランディを嫌でも照らす。内心では、やらかしてしまったと額に手を当てたかった。されど、後にも引けぬ状況で情けない姿を見せれば、逆に取り返しのつかない事になってしまう。


「彼に其処まで譲れないものがあって最後まで抗えば、そうなるかもしれない」


「本当にあんたの出した結論はそれ? あれだけ、綺麗な事ばかり並べた癖に? ふざけないで。それだったらあたしも下りる。チャットにも来させないし、ラパンも止める」


心の中で腑抜けな自分を叱り、不甲斐ない自分を罵倒しながら役を演じ切るランディ。そしてフルールは、案の定食って掛かって来た。


「何とでも言えば良い。ラパンは戦う覚悟が出来始めている。日に日に鋭く研ぎ澄まされている感覚が分からないかい? 君には止められないと思う」


「あっそ、勝手に言ってなさい。あたし、帰る」


フルールは、すくっと立ち上がりランディの前まで来た。ランディは変わらず座ったままだ。


「御足労、どうも」


フルールを見上げて素っ気なく見送りの挨拶をする。散々、怒りを買ってしまったので本当は、尻尾を巻いて逃げたかったが、最後の意地がそうさせなかった。


「あんたなんか―― 大嫌いっ!」


右手を勢い良く振り上げてフルールは、ランディの頬に平手打ちを一つ。


その後、直ぐにくるりと、反転すると髪を靡かせながら帰ってしまった。


「手酷く一発やられたな。あれの張り手は中々、痛かっただろう?」


「すみません。気をつかって頂いて」


フルールが去って直ぐに頃合いを見てレザンが居間に入って来た。そしてランディの顔を見るなり目じりの皺を深くして苦笑いを一つ。ランディは、右手で目元を抑えながら椅子に深々と寄り掛かって足を投げ出す。


「ワザとではないと弁明するが、お前の見られたくない所を見てしまった。申し訳ない」


「大袈裟です、お構いなく」


炊事場に向かい、手拭いを引き出しから取り出すと、水に浸してランディのもとへ持って来たレザン。


ランディは、一礼をして在り難く受け取ると、赤くなった頬に当てる。


頬から手拭いに熱が伝わって行く。同時に痛みも少し和らぐ。


「あまり根を詰めるな。お前がフルールの理外に居る事は分かっている。既に何通りか、落としどころは用意周到に考えているのだろう?」


レザンは、机に腰かけながら問う。


「ご説明した方が良いですか?」


「私には、必要ない。お前が懸命に解決への道を模索しているのであれば、心配していない。それでもあのあしらい方は頂けないな。一応、あれも気丈に振る舞ってはいるが、娘子にかわりはない。その内、本当に愛想を尽かされてしまうぞ」


 レザンは悪戯っぽく、鼻で笑いながらやんわりとランディを叱る。本人が一番、痛感している事だからあまり追及する必要はないが、忠告は年長者としての務めの一つだ。


「それでも……やり遂げるには、妨げになると思いました。俺とて、時間は無限でない。いちいち、説明をあの子の理解が及ばない所が出る度にしていたらラパンくんに割ける時間が減ってしまう。一度、遠ざけてしまって結果が出て納得させれば、一番良いと……」


「思いました―― か。でもそれは甲斐性なしがする事だ。確かに大人と男の立場を両立するのは、難しいな。大人としての対応を迫られるならラパンを優先する方が正しい。男としての対応を迫られるならば、結果が伴わずとも時間を割いて出来ると言い続けなければならない。でも私は、お前ならどちらも両立出来ると、信じている」


「ずるいです」

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