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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第貳章 きっかけは、突然に
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第貳章 きっかけは、突然に 13P

「はい?」


話も纏まり、計画が立ち上がり掛けた所でランディから待ったが入る。


「俺は、あくまでも君の現状を知った上で君に合わせた鍛錬を決めるつもりだ。それは、直ぐに実を結ぶかもしれなし、進捗によっては、難しいかもしれない。何故ならば、君が叩いた扉は、君が先に進める様にする為だからだ。他の人は、そうだな……例えば、軍人を目指した者が居たとしよう。その人は、もとより人を守る為やある程度の自己犠牲を伴う事を理解した上で扉を叩いているんだ。つまりは、土台が違うし、それ以前に払っている対価も違う。だから結果が出ない事に焦らない事。それだけは、理解して欲しい」


一呼吸を置いてからランディは、更に続ける。


「鍛錬を進めるにつれて多くを望むならば、君の許容範囲以上の試練を与える事になるし、君が俺の組んだ課程を順序通りに進むのであれば、恐らくそれはない。代わりに結果が出るのは、かなり先になるかもしれない。要領よく吸収し、更に上を行く様になれれば、また別の道が開けるかもしれない。全ては、君と言う種次第と言う事を覚えて欲しい」


提案した側でありながら敢えて現実を突き付けるランディ。決して心を折る心算ではない。予め、自分の立ち位置を理解した上で臨んで欲しいと言う願いから来ている。


「勧めておいて何故、こんな事を事前に伝えるか分かるかい?」


 返事を待たずしてランディは、畳み掛ける。ランディも日々の鍛錬を真剣に行っているからだ。己の限界を弁えた上で更にそれを少しだけ超えていく事を日課としている。それは、とても苦痛を伴う上に心を折られることも少なくない。場合によっては、機能障害を齎すほどの怪我を負うリスクもある。そして何よりも。


「先にレザンさんは、失う物はないと言ったけれども時間だけは、否が応にも進んで行くんだ。その時間を有効に使えるか、使えないかは、君次第。俺が教えた事の意味を知ってその効率を求めれば、体力の消耗が防がれて昨日よりも何回か多く出来る様になる。更に言えば、時間が短縮された事により、昨日よりも別の事を訓練時間内に行える。身体だけでなく、頭も使った有意義な時間を過ごして欲しいから言うんだ」


「はい……なんだな」


時間は、誰にでも平等だ。有限であり、貴重な資源とも言えよう。もっと大切な事にも充てられる機会を費やすと言う事を理解し、実践する事でやっと実る。また、その事を知れば、怖いものは何もない。気の遠くなる様な目標は、人生にとって只の道標に過ぎないのだから。


「恐らく、これは言葉では理解しているけれども殆どの人は、体現出来ていない。何故なら今目の前にある事をこなすので必死だからだ。その必死さの中でも君には体現して欲しい」


「承知しましたなんだも!」


漸く、ランディの思考と繋がりを得たラパン。少なくとも今、自分の中で燻っている不安は、恐れるに足りず。瞳にも力が宿り、漸く炉に火が入った所だろうか。


「此処までで納得の行かない事はあったりする? 今の内に腹落ちしておいた方が良いと思う。どんな事でも聞いてくれ」


「此処まで僕に良い面も悪い面もきちんと説明してくれたから疑う余地もないし。元々、何かしら変わらなくちゃって思っていたんだな。今更、返事に二言はないんだも。準備は、なにをすれば良いですか?」


「分かった。動きやすい服装を。最初は、体力作りが主な主題だから大丈夫。他に必要な物があれば、俺が用意するから」


居ても立っても居られないラパンは、立ち上がると帰り支度を始める。


「では、明日から宜しく。一緒に頑張ろう」


「宜しくお願いしますなんだな」


軽く握手を交わし、ラパンを玄関口まで見送るランディ。今に戻って来るとレザンが台所から琥珀色のウヰスキーとショットグラス二つを持って来て居た。


「決して安請け合いをしているつもりがないのは、分かるが……かなり骨が折れるぞ。大丈夫か? お前とて、暇ではないんだ」


ショットグラスを小さな食卓へ置き、腰掛に座ると徐にウヰスキーを注ぎ出したレザン。


注ぎ終わり軽く杯を交わすと、一気に煽るレザンとランディ。鼻に抜ける独特な香りと喉を焼くアルコール。目を瞑り、暫く楽しんだ後、髪を掻き上げなら語り始めるランディ。


「重々、承知の上です。今日、フルールにこの件について相談した際に言われました。貴方が動けば、簡単に解決するだろうけど、貴方は、自警団としての任は、治安を守るのであってこの町の在り方、秩序は、町民自身が齎すものだと」


「珍しく、本当に驚く程に殊勝な事を言ったものだな。フルールも」


何処からか引っ張り出して来た堅果を二、三個くらいを口に放り込んだレザン。咀嚼しながらランディの話に耳を傾ける。ランディはと言うと、飲み干した杯にまたウヰスキーを注ぎ、一気に煽ると口を開いた。


「その言葉に触発されて信じてみようと思いました。人の可能性って奴を。勿論、自分に出来ない事を期待する様な話ではありません。次のステップへ上がる為の必要な事であると」


「なるほど、それはとても良い判断だ。時には、プレーヤーとしてではなく、監督する立場にも身を置く必要がある。何故ならば、視野を広げる為だ。今までの現場で見て来た物以上の情報を整理して結果を作るには、どうするべきか。思考の質を上げる意味では、とても良いだろう。心して掛かりなさい」


「かしこまりました」


 ランディの意図を理解した上で背中を押すレザン。道を探す事に間違いも正しいもない。何にせよ、最後までやり切らない事には結果が出ないのだからやるだけやって後から足りないものは、補えば良い。ラパンの件が終わってからも今日の出来事をつまみにランディとレザンは、酌を続けた。疲れが余程、回っていたのかランディのショットグラスは、何度も空になって行く。負けるまいとレザンも同じペースで傾けて行くのだが。


「それにしてもやけに今日は、飲むな。明日は、大丈夫か?」


手酌でもう何杯目か分からないウヰスキーを注ぐランディ。いつもは、宅のみでも深酒をする事はない。寧ろ、嗜む程度で借りて来た猫の様に行儀よくしていたランディ。中々、レザンにも珍しい光景であったが、このままでは明日に残る可能性があるので止めに入った。


「いやー。最近は、ルーに付き合って麦ばかりだったのでついつい」


卓上で暖炉の明かりにより、ショットグラスの茶色い影が踊る。


その影を追いながら焦点が合わない瞳を輝かせるランディは言った。


「言われてみれば、確かに。家でも葡萄酒ばかりだったな。蒸留酒の方が好きだったのか」


「どちらも嫌いではないのですが、深酒すると残るので。蒸留酒は翌日になってもすっきり目が覚めるので良いですね」


 味を変える為に堅果へ手を伸ばしつつ、ランディは答えた。


「私は、何でも飲めるから蒸留酒にこれから変えるか?」


「いえ、自分の飲み方から外れなければ、楽しめるので麦でも葡萄酒でも大丈夫です」


「いや、蒸留酒も葡萄酒と同じくらい貯えがある。てっきり、若いから麦か葡萄酒が良いだろうと思って出していなかっただけだ。それならば、今度から交互に嗜むとしよう」


「それは良いですね!」


レザンの提案にランディは、喜んで承諾する。既に七割ほど空っぽになった瓶をそれぞれのグラスに注ぐレザン。此処まで空いているのであれば、飲み干しても干さなくとも一緒だ。ましてや出先でなく、家での飲みであれば、少々の粗相があっても対応出来る上に酔い潰れても後は、寝台に入れば良いだけなので誰にも迷惑は掛からない。酒飲みの鉄則は、他人様に迷惑を掛けないことである。


「仕方がない。久々の味ならば、とことん付き合おう」


小さな宴は、深夜に回るまで続いた。本日のランディは、妙に饒舌で幼少期の思い出や父や母、姉の話、故郷の話、幼馴染の話など、沢山の事を時間が許す限り、レザンへ語った。微笑みながらレザンは、終始黙って聞き役に回るのみ。こうしてランディは二日間の疲れを酒で洗い流したのであった。

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