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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第貳章 きっかけは、突然に
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第貳章 きっかけは、突然に 7P

ヴェールの問いに頷くランディ。ゆっくりと人に話聞かせてみれば、如何に自分が馬鹿であったかを思い知らされた。何にせよ、食事までの余興には、丁度良かった。時より、話の節に笑い声を漏らす双子。ランディは、その笑顔で少し罪悪感が晴れた気がした。


「それで何でランディさんは、つかまる事になるのさ?」


「そこからは、俺たちの悪ふざけが過ぎてね――」


話をしていれば、あっという間に時間が過ぎており、料理が出来ていたらしい。


気が付けば、盆に料理を乗せたカナ―ルがランディの後ろまで来ていた。


「盛り上がっている所、悪いけれど料理が出来たよ。たーんと召し上がれ」


「はーい」


「まってました!」


「じゃあ、話の続きは、食べてからにしよう。宜しいかな?」


「はい!」


料理が来れば、食べるのが先だ。好い加減、腹の虫を誤魔化すのも辛くなって来たランディにとっては、打って付けの頃合いであった。


「いただきまーす」


「いただきます」


簡略化したお祈りをした後、料理に手を付け始めた三人。ランディが頼んだのは、塩ゆでしたジャガイモと野菜のスープ、鱈を白ワインで蒸した料理。二人は、それぞれ甘味と紅茶。


ルージュは、ラム酒風味のシロップが掛かったケーキ。ヴェールは、焼き菓子とジャム。


「美味しそうだね……食べ慣れた物を注文したけど、作る人が違えば、こんなに違うんだ」


香草で程よく食欲を促す香りが漂う魚が乗った皿を目の前にしてランディは、言った。固めのパンは、薄透明色の野菜のうまみが出たスープと良く合うだろう。ケーキも焼き加減が程よく、シロップが淡い明かりに照らされていた。スコーンは、優しい香りと色鮮やかなジャムが食欲をそそる。紅茶は、ポットで来ており、注ぎ口からやんわりと、湯気が立ち上る。


ランディは、茶葉の香りを嗅ぎ、注文しなかった事を少し後悔した。勿論、見た目から想像出来るが味付けは、頗る良かった。


「私もここにくる時は、いつもそれです。お母様もおきに入りでした」


「そうだよね、母様。いつも同じだった。なつかしいからだって」


「そっかー」


食事の前の何気ない会話。だが、ランディは一言一句聞き洩らさなかった。以前からランディも推察していたが、双子の母親は、既に他界しているとみて間違いない。ブランからの紹介も一切なく、また双子からも話が特に上がる事もなかったのでランディは、敢えて触れずにいたが、この話振りをみれば、読みは外れていないだろう。


「あれ、ランディさんには話したっけ?」


「なんのことだい?」


「私たちのははの事です」


「ああ、何となく触れられなあったから何処かで療養中かと思っていたんだけど……」


敢えて知らん振りをしてランディは、答えた。


「違うんだー。もう亡くなっているの」


「そうか―――― それは残念だった。ご愁傷さま……と言うには、余りにも時間が経ち過ぎている様だね」


「私たちが五か、六歳くらいに亡くなっているので。そうですね……」


最早、悲しみを乗り越えて先を見据える二人に慰めは、必要ないだろう。ランディは、双子の強さに驚いた。己の悲運に負けずに気高くある姿は、ランディにとって眩しかった。


されど、その思いは、そっと心に仕舞い、双子に思い出を語って欲しいとせがんでみる。


「君たちの忍ぶ姿を見る限りだと、とても優しいお母様だったのだろうね」


「はい! いつもに笑い掛けてくれて体調を崩すまでは、お花を摘みにつれて行ってもらったり、夜はお話をしてくれたり、本を読み聞かせてくれたり、お風呂にいれてくれたり、思い出はたくさんです」


淡く照明の光を瞳に宿して紅茶を両手に持ちながら物憂げに思い出へ浸るヴェールの姿は、気品と儚さを醸し出し、どこか大人びていた。過ぎ去りし思い出にのみ、存在する母親。されど今も尚、双子の中には、親心が生きている。そして、人生の指針として他者に慈しみを持って接する事等、様々な所で発揮していた。


「そう言えば、父さんもまともだったなー」


細い指先を小さな唇に当てて思案顔のルージュが、かつてのブランの話に裾野を広げる。


「恐らくそれは……」


「分かってます。私たちが落ち込まない様に頑張っている事も」


「ただ、やり過ぎだよねー。小さい頃は、良かったけど。今は、うっとうしいだけだよ」


「父親って何かと大変だねー。加減が難しい」


ランディは、ブランに肩入れしてみるも、自信のない言い方であった。


「楽しいからやっているだけで話が違うんですよね」


「確かにそうだね……愉快犯だよ」


「ごめいわく、おかけしてます。すみません」


「いや、楽しくやらせて貰っているから在り難いよ」


「本当にそう? 分からないけど、シケンしてるって聞いたことあるけど」


「そのお蔭で町に早く馴染めたからとても助かったんだ。ブランさんも出来ない事をやらせる人ではないから最初は、戸惑っていたけど、今は、やりがいのある仕事の一つだよ」


「ランディさんは、えらいです」


「褒められる様な大層なことではないさ」


愉快な食事を終えた後、昨日の話の続きをしながら少々くつろいで昨日の疲労を癒す事が出来たランディ。このまま、時間が許す限り、ゆっくり過ごすのも吝かではないが生憎、双子の予定が優先だ。


「さてと、そろそろ出ようか。この後も予定があるでしょ?」


「はい、この後はパンを買いに行くよう父さんからお使いを頼まれているので先に行ってしまいたいです」


「フルール姉のパンが久々に食べたいんだってさ」


「昨日、フルールに迷惑を掛けたから俺も改めて謝りに行きたかったんだ。先延ばしにしたくなかったから寧ろ、助かるよ」


二人の予定と言う建前で大凡、ブランが予定を立てていたのであろう。ランディの都合も織り込み済みと言うのが、何とも操り人形になっているかのようで情けない。


「もう行くのかい? ゆっくりしてけば良いのに」


「ありがとうございます。生憎、二人のエスコートが本日の目的でしてこの後も予定が詰まっている様なのでお暇します」


会計を済ませようと、ランディが立ち上がると、それに気付いたカナ―ルが声を掛けて来た。今日は、客の入りも程々だから長居を勧められるもやんわりと断るランディ。


「今度は、自分の予定でおいで。おまけしてあげるから」


「良いなあー私たちは?」


「今度とっておきの賄いを振る舞ってあげるよ。中々、店じゃ出せないものをね。それまで良い子にしてるんだよ?」


「はい! たのしみにしてます」


会計をてきぱきと終わらせ、それぞれに挨拶をしてすると踵を返して厨房に戻ってしまうカナール。混雑していないとは言え、忙しさは、変わらないのであろう。この場は、ランディが支払い、店を出た。店内が温かったので少々の空っ風で寒さに一瞬、身を竦める三人。


「まだ、ちょっと寒いなー」


「もう少ししたら温かくなるからちょっとの我慢さ」


「春は春でくしゃみと目がかゆくなるのと、はなが……」


「季節柄、仕方がないね……枯草熱か……可哀想に。うちの姉もそうだから辛いのは知ってる。目玉取り出して洗いたいって毎日のように言ってた」

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