第貳章 きっかけは、突然に 6P
「なるほどね。それでお忍びで御仁を引き連れてウチに来たのは、どういう風の吹き回しだい? 騎士様を護衛に連れてご令嬢が颯爽と登場なんて、中々にある事じゃないね」
口元に不敵な笑みを浮かべつつ、双子をからかう女性。
「すごいでしょー」
「カナ―ルさん、そういうことではないです! お出掛けについて来て貰ってるだけです」
「言い方が違うだけで中身は、一緒でしょ? 付き添いで来て貰ってるんだから。あんたもご苦労様ね。大方、昨日のひと悶着で懲罰代わりに二人の面倒を見る事になったんでしょ」
「既に知れ渡っている事は、予想していましたが此処まで早いとは……」
さらりと、耳が痛い話を振られてランディは、たじろぐ。急に体感の気温が上がり、江中に嫌な汗が流れ始める。愛想笑いを貼り付けつつ、余裕を持って待ち構えるランディ。
「寧ろ、秘密にしろって方が無理なもんだ。自己紹介、まだだったわね。私は、カナ―ル。宜しく、三騎士殿」
「こちらこそ、遅くなりすみません。ランディ・マタンと申します」
「かったるい挨拶は抜きにその様子だと、この町の扱いには、随分と慣れたようだ。中々の逸材じゃないかい? ブランの坊やも目の付け所は良いからねー」
「お褒め頂けて何よりです」
互いに手を握り合い、軽めの挨拶を交わす二人。灰色の瞳にじっと見つめられ、何やら試されている様でランディは、居心地が悪い。
「その飄々とした態度、気に入ったよ。昨日の出来事は、一体何が原因何だい? それだけ、立ち回りが出来るならば、あんなヘマしなくたって良かっただろうに」
「それは、我々自警団の一隊員として状況を精査し、検討した結果でした。詳しくは、上長のブランさんにどうぞ、陳情を出して頂けると。ただ、個人の家庭の事情と密接に関わってるので詳しく説明がされるかどうかは」
カナ―ルに煽られているのは、ランディにも分かっていた。なので、わざと回りくどい言い方で昨日の出来事を煙に巻こうとする。初対面の相手にする事ではないが、言動の真意が不可解だったので悪意が無いにしても一歩引いて様子を伺いたかったのだ。
「お役所やら都会のスーツ着た鼻持ちならない会社の回し者みたいなやんわり煙に巻くのは、宜しくないんでないかい? 実際、全部知ってるから聞く必要ないんだけどね。この町の住人は、メンツの事なんざ、気にしちゃいないよ。態々、あんたたちが問題児にならずとも良かったのに商売にも関わって来るから尚更の事、下らない若者のひと悶着で煙に巻くやり方を取ったんだろ? 自分たちは泥を被ろうと、体制に影響ないってね」
ランディとカナ―ルの会話に不穏な雲行きを感じ取った二人は、黙る。ただ、ルージュもヴェール共に頭上で飛び交う会話に良い顔をしておらず、しかめっ面で隙あらば、反論しかねない様子。そんな二人を目に留めつつ、ランディは会話の流れを変える手立てを模索する。
「……全部、お見通しですよね」
「当たり前だろうに。既に迷惑を掛けたってカナ―ルは、町中に謝罪行脚だよ。あんたが頑張らなくたって素直に金を渡しに行っても同じだったのさ」
苦い顔をしながらランディは、叱られているだけだと、分かり素直に相対する。真意が分かれば、真摯に対応すれば良い。相互理解は、不可欠だ。ランディは、刺だらけの言葉から意味を汲み取り、そこだけに理解を示せば、全て上手く行くのだ。
今を例に言えば、あくまでもマルトー・フェール自身の問題であって外様が何をしようと、変わらないのだと。何をしようが、信頼を失う出来事で在って表面上は取り繕えても一からやり直さねばならない。禊に、茶々を入れるなと言う事なのだ。本質を理解した上でランディもそれに答えなければならない。
それは、事を起した者の責任で在って大人としての自覚を持って節度の在る行動をと言った生ぬるい言葉では済まされないのだ。
「それが看板を掛けて名を背負う商人ってもんさ。それにしてもマルトーは、馬鹿だよ。お人好しが過ぎる。今頃、マダムとブランの坊やが駄目元で探りを入れてるさ。金を取り戻せなくても町のもんがこけにされたんであれば、黙っちゃいない。それがこの町のやり方さ」
「俺たちの浅知恵では、到底敵いそうにありませんね」
「いや、やり方は、褒められたものじゃないけど、中々のもんだったよ。少なくともあんたたちが町の見回りと託けてふら付いてなけりゃ、露見もしなかったさ。気付けてやれなかった私たちが悪い。さっきは、厳しい事を言ったけど、感謝はしてるんだ。気付いてくれてありがとう」
勿論、全てが悪い訳でもなく、悪ふざけさえしなければ、褒められる話である。
そこだけは、認めて答に導いてくれたので幾分か、ランディは救われた。
「たまたま、好転した出来事で胸を張る何て事をするつもりはないんですが、そう言って貰えるのであれば、嬉しいです」
「そうかい、そうかい。折角、来店された客にこのまま立ち話で引き止めるのは、問題だ。さあ、ご案内、ご案内。こっちの席でも大丈夫かい?」
「ええ、お願いします」
「問題ないよ」
話は、終わりとばかりに手を叩き、席に案内し、三人を座らせるカナ―ル。艶のある茶髪をさっと掻き上げて笑い掛けながら少し離れた後に水の入った杯を三つとメニューを持って戻って来た。
「じゃあ、決まったら呼んどくれ。今日のお勧めは、これだよ」
「はい、ありがとうございます」
三人にメニューを手渡した後、さっさと行ってしまうカナ―ル。早速、メニューを広げて選んでいる間に先程の話が上がった。
「……それにしてもあのいい方は、ないよね」
「そうですよ! 何はともあれ、クリュがお引越ししなくても良くなったですし」
「仕方がないよ。結果はともあれ、やり方は、確かに間違っていたもの。俺たちは、町を騒がしくしただけだったし。俺だって逆の立場だったらこれ位の御小言は、言うさ。ルーも渋々だけど、承知済みだよ」
「ランディさんたちがなっとくしているのだったら良いんだけどさ……それで、昨日はなにがあったの? 私もぜんぶは、聞いてないんだよねー」
「私もきになります……何がどうしてああなったのか」
食事処に来ても未だ、空腹を満たせずにいるランディ。しかし元々、食にありつけるかどうかも定かでなかったので今更少々、伸びた所で影響ない。一つ伸びをしてランディは、居住まいを正すランディ。
「只の失敗した事だからあんまり面白くないよ?」
「それでも良い! ききたい」
「そうだな。昨日は、雲を二人で眺めてる所から始まったんだ……」
「なにそれー」
「何だかランディさんらしいですね」
「まあまあ、聞いておくれよ」
あまり期待を持たせて詰まらなかったと思われるのも悲しいので前置きを入れながら手を顔の前で組むと話し始めるランディ。途中で料理の注文をして料理が来るまでランディは、細かな所まで話し聞かせた。
「それでヴェールの拾い物が一役買ってくれたのさ。あの指輪は、ローブ夫人のものだったんだ。たまたま、ヴェールとあった後に夫人とお会いしてお返しした際に今までの行動も鑑みて頂いて融資、つまりは自警団に寄付をして貰えることになって」
「それをクリュの家におカネをおかししたんですか」
「そうそう」